108. 風邪をひいても甘やかしません。
#颯斗side ────
愛莉の様子がおかしい。
あの誕生日パーティーという名の騒ぎから数日、全く顔を見せない。
(朝飯や夕飯も声掛けてこねぇし…、どうしたんだ?)
いや。別に声掛けて欲しい訳でも寂しい訳でもないんだが、いつも関わって来るうるさい奴が来ないと逆に心配になる。
(前にもこんな事があったな…、毎日毎日人ン家に遊びに来てたのに、急に来なくなった時が…)
あの時は確か真冬で…、風邪ひいて寝込んでたんだったか…。
いやまさかな?冬なら分かるが、まだまだ残暑厳しいこの時期、風邪なんてひかねーだろ。
…と思うが、どうも気になる。
俺は仕方なく愛莉の部屋に行ってみる事にした。
だがチャイムを鳴らしても応答がないし、耳を澄ませても物音もしない。
(出掛けてんのか?)
時計を見ると午後3時、俗に言うおやつの時間だ。
「………」
さてどうするか。
今俺の手元には愛莉の部屋の合鍵がある。
入ろうと思えば入れる…んだが。
(風呂でも入ってて気付いてないだけかも知れねーし…)
だが愛莉は確か、俺が傍にいるからという事で、おじさんから一人暮らしを許してもらってるはず。
もし愛莉にもしもの事があれば、それは必然的に俺のせいになるんじゃねーか?
ふと…、泣きながら「颯斗君が近くにいるから安心していたのに…!!」と怒り狂う愛莉のおじさんと「私たちの大切な一人娘が…!!」と泣き叫ぶ、同じく愛莉のおばさんの姿が浮かぶ。
(…ダメだ!!確認しねぇと安心できねぇ!!)
俺は仕方なく合鍵を取り出すと、そっと鍵穴に突っ込み、(何故か)音を立てないようにソッと鍵を開けて中に入った。
(あー…クソ。いくら愛莉相手とは言え、やっぱ女の部屋に勝手に入るって、なんか悪い事してるみてぇな気になるな)
室内の間取りは俺の部屋と同じだ。
迷う事なく寝室へ向かうと、やっぱり音を立てないように最新の注意を払いながらドアを少しだけ開けてみる。
(悪いな愛莉……)
勝手に女の寝室を覗くとか変態極まりないが、そもそも実家にいた頃は、お互いにお互いの部屋を行き来してたんだ。同じ事だろう。
中を覗くとベッドが見える。
部屋の電気は消えてるが、外が明るいから室内の様子はハッキリと見て取れた。
(…寝てる…)
結果的に愛莉は部屋にいた。
…想像通り風邪をひいて。
ドアの所に立ったままでも聞こえて来る、ゲホゲホと咳き込む声。
起きているのかと思ったが、どうやら寝ながら咳をしてるみてぇだな。
(……ったく、しょうがねぇな…)
起こさないように気を付けながらドアを閉め、俺は愛莉の部屋を出た。
#愛莉side ────
誕生日に貰ったバスジュエルを使って長湯を繰り返す日を続け、風邪で寝込んでいた私に、思わぬ来訪者がやって来た。
もちろん颯斗だ。
食欲はないけど、さすがに何か胃に入れて風邪薬を飲まなきゃ…と思っていると、颯斗は玄関のチャイムも鳴らさずに部屋に入って来て、ベッドで寝ている私を見下ろす。
「…熱は?」
「……少し、それより勝手に寝室に入って来ないでよ!…げほ……ッ!」
「お前だって俺の寝室に勝手に入って来て、何なら勝手に寝てるだろうが」
「それとこれとは話が別でしょ?女の子の部屋に勝手に入って来るなんて…」
そう文句を言いつつも、苦しくて心細かった私には天の助けだ。
ベッドから上半身を起こすと、颯斗は「良いから寝てろ」と私の身体をベッドに押し倒した。
「ちゃんと食ってんのか?」
「…ご飯作る気力なんかないわよ」
「…だろうな、買ってきて正解だ」
「えっ?何買って来てくれたの?」
何だかんだ言いながら、やっぱり優しい。
颯斗が持ってる買い物袋を見ると、颯斗は「鍋の材料だ」と買い物袋を持ち上げた。
「…鍋?…お鍋?」
「腹は減ってんだろ?鍋っつーか、煮込み飯っつーか…おじや?滋養強壮に良さそうなの買って来た。作ったら声かけるから、それまで大人しく寝てろ。いいな?」
「ウチのキッチン使うつもり?汚さないでよ?颯斗は片付け雑なんだから…」
「文句でもあんのか、生の野菜を食わせるぞ」
「誰がそんなもの食べるものですか」
そう言うと、颯斗は溜め息を吐いてキッチンに消えた。
まぁ大丈夫でしょ、颯斗は雑だけど料理は上手いし。せっかくだから任せて休ませて貰おう。
(…買い物袋の中は野菜しか見えなかったけど…、野菜の鍋かな)
そんな事を考えながら、再び寒気を感じてベッドにもぐる。
頭まで毛布を被り、ベッドの中でスマホで遊んでいると、いつの間にか良い匂いがしてきた。




