107. 成仏出来ませんよ?
私が話しかけられたんだろうか?
辺りを見回すが他に誰もいない、…やっぱり私みたい。
「…あ…、そう…ですね?」
夜空を見上げてみるけど、月なんか見えないし、何なら星すら見えない都会の夜空。
変な人…と思いながら会釈をして通り過ぎようとすると、女性が小声でボソッと言った台詞が聞こえて足を止めた。
(……え?)
思わず振り返ると、女性は俯かせていた顔を上げて私を見る。
「今…何か言いました?」
「えぇ、言いました」
そう言うと、女性は深く被っていたフードを外して顔を見せた。
……ものすごい美人、いや…なんか…マネキンみたい?
「何て言ったんですか?……私に…その…」
そう。今この女性は、通りがかった私に「忘れられない人がいるんですね」と言った。確かに言った。
(冷静に考えれば…当てずっぽう?外れてたらそれまでだし、当たってたら私みたいに足を止めるだろうし…)
もしかして悪質なキャッチに引っ掛かったんだろうか…。
どうしようか…、やっぱり立ち去った方が無難?
迷っている私に気づいたのか、女性はニコッと笑った。
その顔は確かに綺麗だけど人形みたいで少し怖い。
……美人って暗闇で見ると結構怖いのね。
(……あら、これは…)
よく見ると、女性の前に並んでいるのは占い道具だ。
「…占い師…さん?」
「はい」
なるほど、だからか。
神秘的なような怖いような…そんな不思議な感じがするのは、雰囲気作りにわざとやってるんだろう。
「じゃあ占いを…?」
「いえ…占い師ですが、占いはしてません。占い用の道具を売ってるだけです」
「…はぁ…、でもさっき…」
そう女性を見ると、女性は照れたように微笑む。
「すみません、貴女の後悔をすごく感じてしまって…つい声を掛けてしまいました」
「……後…悔」
思い当たるふしがありすぎる。
まさか本物?それともこれも当てずっぽう?
少し話を聞いてみようか…そう思っていると、女性は慌てて首を振った。
「あ…ごめんなさい、声を掛けておいてアレですが…、さっきも言った通り占いはしてないんですよ。…ただ……」
「…ただ?」
「良くないと…思って…」
「良くない?」
何の事だろうと鸚鵡返すと、女性は言いにくそうに視線を逸らす。
「お…教えて下さい、何が良くないんですか?」
つい気になって女性の前まで戻って前のめりで聞くと、女性は私をじっと見つめて口を開いた。
「貴女の強すぎるその想いは…、亡くなった方をこの世に縛り付けてます。無意識のその想いは…亡くなった方が成仏出来ない原因になりますよ」
♢♢♢♢♢♢
家に帰った後、私は着替える事も忘れてベッドに倒れ込んでた。
いつもなら絶対にやらない行動だ。
(成仏出来ない原因…?私の…想いが…)
白状すると、それを願った時もある。
でもこうしてハッキリ誰かに言われると、さすがに気分の良いものではない。
それも成仏出来ない原因が、自分だと言われれば尚更だ。
ベッドに横たわったまま枕に顔を埋めて、商店街で会った占い師の女性との会話を思い返す。
「わ…私…、取り憑かれてるって事ですか?」
「………」
黙って私を見つめている女性に、さらに近づいて声を大きくする。
「あの……ッ!」
詳しく話を聞こうとすると、女性はゆっくりと首を振った。…横に。
「…いいえ、貴女は取り憑かれてません」
そう…貴女は取り憑かれてません…って言ってた。
それって言い換えればつまり…。
(私じゃない誰かが取り憑かれてるって事じゃないの?)
私の後悔の原因。
つまり…山岸君の幽霊に?
(……そんな…嘘…)
私だって子供じゃない。
そうそう単純に非科学的な事を信じる事はしない。
でも…もし本当に、誰かが山岸君の幽霊に取り憑かれてるなら…。
(思い当たるのは1人しか…)
山岸君本人と間違うくらい同じ雰囲気を持つ人。
頭に真城君の顔が浮かぶ。
(私…、真城君の事何も知らない。確かに雰囲気や性格は似てるけど…取り憑かれてるせいだとは決めつけられない。だって…もともとあんな性格なのかも…)
合コンで会って少し話すようになったけど、前から知ってる訳じゃないし…。
昔っからあんな人だったのかも知れない。
じゃあ…山岸君が亡くなってから、性格が変わったんだとしたら?
そしたら山岸君が取り憑いてるって思ってもいい…?
(また…会える…?山岸君に…?)
そうと決まれば、やる事は1つ。
真城君に山岸君の幽霊が取り憑いているのかどうか確認する事。
つまり…、最近急に性格が変わったりしてないか確認する事だ。
(となると…、真城君と親しい人……)
ポンっと頭に浮かぶのは…、みゆりちゃんや大和君、かな。
でもみゆりちゃんは合コンに誘われただけで、そんなに親しいわけでも話すわけでもない。
(じゃあ大和君かな)
大和君はかなり社交的な性格で、合コンで会ってからというもの、やたらと馴れ馴れしく…じゃなくて気さくに話しかけて来てくれる。
真城君とも仲が良いみたいで、大学でもよく一緒にいる所を見かけるし、一番適任かも知れない。
(大和君なら連絡先聞かれて交換したし、連絡してもおかしくない…)
私はさっそくスマホを取り出すと、大和君へのメッセージ画面を開いた。




