104. 知らない親友。
とぼけている訳じゃなく、俺がホントに覚えてないんだと分かった愛莉は、嘘でしょ?と眉をひそめた。
「そんな何十年も前の事じゃないのよ?たった数年前よ?本当に覚えてない訳?」
「いや…何となくは覚えてる…が…」
「何となくって有りえないわよ、冷たすぎるんじゃない?」
「んな事言ったって、覚えてねーもんは仕方ねーだろ。お前が勘違いしてるだけで、実はそんなに仲良くなかったんだろ、どうせ」
そう言いながらも、何か引っかかってる感じはする。
それにその佳弥って男とは違うもう一人。
(…女…?女友達?…俺に?)
確かに昔の俺は女好きのナルシスト野郎だったが、特別仲良くしてる女なんていたか…?
何とか当時の事を思い返してみるが、佳弥は勿論、その女の事も、これっぽっちも思い出せない。
(まぁ良いか…。仲良かったってのは事実じゃなく、愛莉にそう見えただけって可能性もあるしな)
俺の過去の話に飽きたのか、テレビゲームで盛り上がり始めた二人を見ながら、俺はどうにもスッキリしない気持ちで新しい缶ビールに手を伸ばした。
♢♢♢♢♢♢
どこだ、ここは…。
気がつくと、俺は真っ白で何もない空間にいた。
辺りを見回しても何もねーし、何なら自分が立ってるのか浮かんでるのかすら分からない。
上も下も、右も左も…全部が真っ白だ。
「……なんだ?」
何となく歩いてみるが、辺り一面真っ白だから、進んでるのか…それとも同じ場所で足踏みしてるのかすら分からなくて、俺は仕方なく足を止めた。
…疲れるだけ無駄だ。
「……ん?」
いま何か聞こえた気がする。
何処からだ?
「声…に聞こえた、ような…?」
目を凝らして辺りを見回すが、やっぱり白しかない。
この自分の影すらない真っ白な空間では、まるで俺の存在の方が異質な存在みたいに思える。
────斗。
「ん?」
いま…やっぱり俺の名前を呼ぶ声が聞こえだぞ。
────颯斗。
「何だよ?誰だ?」
キョロキョロと視線を動かすと、さっきまでは確かに誰もいなかったはずが、いつの間にか俺から少し離れた場所に男が立っている。
「…おい…」
声を掛けると、男は肩越しにゆっくりと虚な目で俺を振り返った。
「……ッ!!?」
背中を向けたまま、首だけを俺に向けているが、その顔には確かに見覚えがある。
「……嘘だろ?お前…、…え?…何で…」
────颯斗。
また呼ぶ声が聞こえる。
誰だよ…?この声…聞いた事あるのに…、思い出せない。
誰だ…?少し前までよく聞いた声だ。
必死に思い出そうと頭をフル回転させると、目の前の虚な目をした男は、辛そうに目を閉じて……そして姿を消した。
「…っは?…消え……え?」
────なぁ颯斗…。俺たち…親友、だろ?
まだ声は聞こえている。
…つーか親友?アホか、親友なんか俺にはいねぇよ。
誰なんだお前。
────ごめん…俺さ、実は……。
そう聞こえた直後。ものすごく嫌な感じがして、俺は首を振って耳を塞いだ。
聞きたくない。
理由は分からないが、何故か先を聞きたくない。
そう思って目を閉じると、俺の口が勝手に「やめろ!」と叫んだ。
「…やめろ!聞きたくねぇ!謝られたって許すわけねーだろ!!ふざけやがって…!!」
…何だ?俺の言葉じゃない。
俺が言ったんじゃない、口が勝手に動いた。
今のは……、今の言葉は…。
それにさっきの男は……。
♢♢♢♢♢♢
あれ?俺…今何してた?
手には飲みかけの缶ビール。目の前では楽しそうに任◯堂の某パーティゲームをする愛莉と大和の姿がある。
ぼーっとしている俺に気付いたのか、大和が不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。
「…どした?飲みすぎたか?」
「……は?」
顔を上げると、大和が俺の顔の前でひらひらと手を振っている。
「おーい…、颯斗ー?起きてるかー??」
そう言うと大和はピザのメニューを俺の前に出した。
「まだピザ来てねーぞ?食う前に寝る気か?寝たら起こさずに全部食っちまうからな」
「あ…あぁ…」
気持ちが落ち着いてから改めて時計を見ると、新しい缶ビールを開けてから数分しか経ってない。
……白昼夢(昼間じゃねーけど)でも見たのか?
(それにあの男…、何で……)
何で…俺があの男を見るんだ?
普通にありえないよな?
(だって…、アイツは…あの男は…)
「颯斗」
またしても自分の世界に入り込んでいたらしい。
愛莉の名前を呼ぶ声で、また現実に戻ってくる。
「ゲーム変わって、疲れちゃったわ。私見る側に回るから」
そう言ってコントローラを差し出して来る愛莉は、眠そうな顔をしている。
…部屋帰って寝りゃ良いのに。
そんな俺の考えが分かったのか、愛莉は「ピザ食べてからじゃないと寝ないわよ」と笑った。




