102. 誕生日は賑やかに。
意外と新見晴子と話し込んでいたらしい。
何度かスマホが鳴っている事にも気付かなかった。
(大和か…)
メッセージを確認すると、今俺のマンションの前に来ているらしい。
(アイツも遊び歩いてるイメージが強いが、単位大丈夫なのか?)
仕方なくマンションへ戻って連絡すると、近所で俺が帰ってくるのを待ってた大和が早速やって来る。
「愛莉ちゃんまだ帰らないのか?」
「…遅くなるって言ったろ」
ちらりと大和の手元を見ながら言うと、スーパーの袋と小さな紙袋を手にしている。…紙袋は某有名な海外ブランドの袋だ。
(…愛莉へのプレゼントか?)
見た感じアクセが何かっぽいが…。
愛莉へのプレゼントにアクセ…、しかもブランド物とは考えもしなかったな。
俺が紙袋を見ている事に気付いたのか、大和は「あ、コレ?」と言って小さな紙袋を掲げて見せる。
「俺の好きなブランドなんだけど、女の子用のブレスレットで愛莉ちゃんに似合いそうって、前から狙ってたんだ。…理由のないプレゼントじゃ、ぜってー受け取って貰えねーと思って買わなかったけど、誕生日って聞いたから早速買っちった」
「よくそんな金あったな」
「俺だって働いてますから」
そんな会話をしながら部屋に入る。
基本的には部屋に他人は入れたくねーんだが、コイツがこの部屋にいるのも見慣れて来た気がするな。
「茶は出さねーぞ、勝手に冷蔵庫あさって飲め」
大和に客扱いはしない。
そもそも最初に来た時の時点で招いてねぇんだから、客じゃねぇ。
「お前は愛莉ちゃんに何買ったの?」
冷蔵庫の中にあるビールを出しながら聞いてくる大和に、俺は何となく「買ってねえ」と答える。
「…買ってねぇの?」
「うるせーな、関係ねーだろ」
本当はプレゼントは用意して、既に愛莉の部屋に置いてあるんだが、何故かそれが恥ずかしくて、俺は犬猫を追い払うように手を振った。
「お前もプレゼント置いて、とっとと帰れよ?愛莉はいつ帰って来るか分からないんだ、…まさか帰ってくるまで居座る気じゃねーだろ?」
ソファに座りながら言うと、大和はキョトン。とした顔で首を傾げた。
「……?そのつもりだけど?」
…マジか。
いつ帰るか分からない愛莉を、ココでずっと一緒に待ってる気か?
「そのつもりで、ほら…ツマミも沢山買って来たぞ。酒は冷蔵庫に山ほど入ってるの知ってたからな」
「…人ん家の酒を当てにしてんじゃねぇ、金取るぞ」
「えー?金持ちのくせにケチんぼ!!ツマミは俺が用意したんだから良いだろ?」
「酒の方が高ぇ」
「細かい事は気にしないッ!…ほらほら!!好きなの食って良いぞ?こんな時間から酒なんて、悪い事してるみたいたよなー!」
そう言うと、大和は買って来たツマミや菓子類をバサっとテーブルに広げる。
その後、酒を飲みながらテレビゲームを始めて、すっかり酔っ払ってゲームに夢中になる頃には、日もどっぷり暮れていた。
#愛莉side ────
さすがに地方から来てくれた友人は、遅くなる前に帰って行った。
わざわざ私の誕生日の為に、こっちでお店の予約をしてくれたらしい。しかもサプライズでケーキまで用意してくれた。
お店の人が豪華なケーキを持って来た時は驚いた、いきなりお店が暗くなって、ハッピーバースデーの曲が流れ始めたからだ。
素敵なサプライズと誕生日プレゼントに心がポカポカする。
(プレゼントにくれたバスジュエル…、すごく素敵だったな。今夜さっそく使って長湯しよっと)
ワクワクしながら玄関前までくると、チラッと隣の颯斗の部屋を確認する。
(…いるかな…、颯斗も私の誕生日を祝ってくれたら嬉しいのに…)
そう思うけど、考えるだけ無駄だ。
溜め息混じりに鍵を開けて中に入ると、電気をつけてテーブルの上に荷物を置く。
「……ん、何これ」
テーブルの上には、見覚えのない箱が置いてある。大人の頭くらいの大きさの箱だ。
真っ白くて何も書いていないその箱の上に、小さなカードが添えてあった。
カードを手に取ると、乱暴な手書きでハッピーバースデーと書いてある。
そして差出人のところには…。
「…颯斗…!」
慌てて飾り気のない白い箱を開けると、中には綺麗なガラスケースが入っていた。
「……花……」
取り出してみると、ガラスケースの中には向日葵を中心にした可愛らしい花々のプリザーブドフラワー。そして造花が入っていて、生け花みたいになっている。
「…綺麗」
夏生まれのせいか、私は向日葵が大好きだ。
すっかり忘れているものだと思ってたけど、どうやら覚えていてくれたらしい。
子供の頃、颯斗の家族と一緒に遊びに行った遊園地。
ちょうど時期もあって、向日葵の迷路イベントをやっていた。
アレが好きで何度も挑戦して、両親も苦笑いしてたっけ。
「ふふ…、花束とは違うとはいえ…颯斗が花をプレゼントしてくれるなんてね…」
よく見ると、箱の中には説明書も入っていて[魔法で時を止めて閉じ込めたマジックフラワー]という商品名と説明書きがある。
(…他にも入ってる)
箱の中にはプリザーブドフラワーとは別に、小さな紙袋が入っていた。
中を見てみると、自分ではわざわざ買わないような、少しお高めハイブランドのハンドクリームが2種。
(バラと…ラベンダーの香りのハンドクリームだわ)
早速ラベンダーのハンドクリームをつけてみると、指先からフワリと良い香りが漂ってくる。
私はプリザーブドフラワーをリビングの目立つ場所へ飾ると、颯斗の部屋へ足を向けた。




