101. 晴子と聡太[3]
#颯斗side ────
「高校の時に好きな人がいた」
その新見晴子の言葉が想像以上に重くのしかかって来る。
今の俺には関係ないはずなのに、なんで失恋したみたいな感じになってんだ…。
(そうだ…、失恋したのは聡太だろ、俺は新見の事なんか好きじゃない…)
それに失恋なら既に高校の時にしてんだろ。
目の前にいる女は、高校の時に聡太を振った女だ。
そう自分自身に言い聞かせるように言うが、正直動揺してる。
何でだよ…、聡太《お前》はまだ新見が好きなのか?違うだろ?
「……その話、俺に関係あるのか?」
聞きたくない、…そのつもりで言ったのに、新見は少し寂しそうに笑った。
「…うん、私としては…関係あるの。でも真城君にはないよね、ごめんね。…他人の空似だもん」
「……意味分かんね」
何が言いたいのか分からない。
でもこの話を聞く事で、俺の中の聡太がちゃんと新見晴子への想いを失恋として理解してくれれば、俺のこの女に対する苦手意識がなくなるかも知れないな…。
期待半分、…そして面白半分で話の先を促すと、新見は懐かしそうに目を細めた。
「私の好きだった人…すごく真城君に似てるの」
……俺に?
いたか?(自分で言うのも何だが)こんな外見の良い男が学校にいた記憶はないぞ。
…まぁ、俺が聡太の事で覚えてるのは新見に関する事だけで、全部覚えてる訳じゃねーし、アテにならねーけど。
「あ…外見がって事じゃなくて…、中身の事ね」
「……あ…あぁ、…そう言う……」
合点がいく。
性格ならまぁ…あり得なくはない、…か?
当時の事を何とか思い返そうとしてみるが、やっぱり何も思い出せない。
クラスメートの名前どころか、顔も思い出せないんだ。
どうせ名前を聞いたところで意味ねーだろうな、と思っていると新見は俺をじっと見つめた。
(…な…何だよ?)
つい動揺して目を逸らして窓の外を見ると、新見は俺の視線を追って外を見た。
窓の外には狭いながらも駐車場があって、その駐車場のさらに向こうには大通りが通っている。
…新見はその大通りを見ているようだ。
「私のその好きな人ね…交通事故にあって…もういないんだ…」
「…げホッ!?……ッ!?」
頭をすごい勢いで殴られたみてぇな衝撃が走る。
……は?まさか?
「あはは、真城君でも動揺するんだね。でも確かに高校時代の好きな人が亡くなったーなんて、誰でも驚くよね」
(いや…、俺が驚いたのはソコじゃねーんだけど…)
高校時代の同級生で死んだのは聡太だけだよな?他にいないよな?
って事は、新見の好きな相手ってのは…つまり…。
(ま…待て待て待て!!違うだろ?新見は告白した聡太を振って…)
頭がこんがらかってくる。
…ん?何?両思いだったって事か?
じゃあ何で告白した聡太を振ったんだ?
理解が追いつかねぇ…、誰か説明してくれ。
そう一人でパニックになっていると、新見は楽しそうに微笑んだ。
「ふふ…、さっきから表情がコロコロ変わって面白い」
「…ッ?お前…」
聡太が好きだったのなら、なんで聡太の告白を断ったのか聞きたいが、それを俺が聞くわけにはいかない。
(クソ、スッキリしねぇな…!!)
「さっきも言ったけど、真城君はその私の好きだった人に似てるの…、なんて言うか…雰囲気?」
(そりゃそうだろうな…!)
そう言ってやりたい衝動に駆られるが、我慢してオレンジジュースを飲み干すと、新見も自分のアイスティを飲み干した。
「変な話してごめんね、帰ろっか」
自分の言いたい事を言ったせいか、少しスッキリしたような顔で言うと、新見は伝票を手にして立ち上がった。
「あ…おい…」
奢る義理もなければ、奢られる義理もない。
慌てて会計に向かう背中を追いかけると、新見はキャッシュレスでさっさと会計を済ませて店を出ていく。
「おい…、俺の分の支払い…」
財布を出しながら声を掛けると、新見は楽しそうに俺を振り返る。
「誘ったの、私だから」
「はぁ?奢られる理由にはならねーだろ。俺は借りを作るの好きじゃねーんだ、ちゃんと俺の分は払っ…」
「もうダメよ、払っちゃったもの。…借りを作るのが嫌なら、次の時は真城君が払って?」
「…は?次って…」
そう言うのが嫌だから払うって言ってんだよ…。
結局、"奢り奢られ"で同じじゃねーかよ。
だけど新見の顔を見ていると言い出せなくて、俺は素直に財布をポケットにしまった。
「……次があったらな」
そう言った俺に、新見は「きっとあるよ」と微笑んだ。




