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100. 晴子と聡太[2]

講義も終わり、何か食いに行くかと立ち上がると、目の前に新見がやって来た。


「……?」


「こんにちは、真城君」


にこやかに名前を呼んで来る新見に無言で頭を下げる。

そのまま立ち去ろうとすると、新見はそんな俺の後ろ姿に「この後って時間ある?」と聞いて来た。


「…は?」


何を言い出すんだと振り返る。

すると新見は鞄を肩に掛け直しながら笑った。


「良かったら…その…、何か食べに行かない?」


何を考えてんだ?

俺があからさまに距離を置いて…、いや避けてるのは気付いてるはずだよな?

返答に困っていると、新見は少し困ったように眉を下げる。


「ダメ…かな?二人じゃ…嫌?」


そんな事を話している俺達を、興味深げに見ている他人の視線が気になり、俺は仕方なく頷いた。

とりあえず、このままここで見せ物になるのは我慢ならん。


「…良いけど、俺も何か食いに行こうと思ってたし」


そう言うと、新見の顔がパァっと明るくなる。

…そうだ、この笑顔好きだったな…、笑うと花が咲いたみたいに明るくなるんだ。


(笑うと出来るエクボも、聡太の記憶のままだ…)


知らないはずの懐かしさに、何だか心を持っていかれそうになる。

俺の記憶と感情じゃない、これは聡太の記憶であり感情のはずなのに…。


それなのに…どうして俺は、こんなにこの女の笑顔が嬉しいんだろう。



♢♢♢♢♢♢



それから大学近くのファミレスに移動した俺達は、特に会話もなく黙ってメニューを見ていた。


(……落ちつかねぇな…!)


飯に誘って来たって事は、何か話したい事があるんじゃないのかよ?

まさかホントに腹が減ってただけで、俺を誘ったのは顔見知りだったからだけってか?


(ったく、拍子抜けだ。だったら適当になんか飲んで帰るか…)


いや…最初から新見晴子に、俺と話す事なんかある訳がない。

俺が聡太の記憶を持ってるのが、そもそもにおいてイレギュラーなんだ。

新見晴子にとって、俺は合コンで初めて会っただけの相手で、警戒する必要なんて最初からない。


(俺が聡太の記憶に引きずられ過ぎてるだけ…か)


結局2人とも飲み物だけを頼むと、新見は頼んだアイスティで唇を潤して顔を上げた。


「…あのね、…実は…」


「……ん?」


おずおずと話を切り出してくる新見に、やはり何か話があったのかと顔を上げる。


「その……」


だが新見は言いにくそうに言葉を濁したまま、また黙ってしまう。

…めんどくせぇな。


「…なに、何か言いたい事あんじゃねーの」


俺が自分のオレンジジュースのグラスをストローでつつきながら聞くと、新見は俺じゃない別の誰かを見ているような遠い目で、ボソッ…と口を開いた。


「…山岸…君…」


「……ぶ…ッ!!?」


山岸、という名前に、飲もうとしていたオレンジジュースを吹き出しそうになる。


(…クソ…、鼻から牛乳ならぬオレンジジュースが…。いや、それより…今なんつった?)


山岸って言ったよな?

俺を呼んだのか?()()()()って…?


「……は?山岸?」


努めて冷静に聞き返すと、新見は慌てて首を振った。


「あ…ご…ごめんね!違うの…。名前間違えたわけじゃなくて…真城君って…山岸君って言う私の高校の時の同級生に似てるなーって」


俺が名前を間違えられて怒ったと思ったのか、新見は困ったように目をさまよわせている。

…何だ、驚きすぎて心臓が止まるかと思ったじゃねーか。


(似てんのは当たり前だ、…一応本人?でもあるからな)


どう答えたら良いかと咳払いをして黙っていると、新見はポツリポツリと、独り言のように話し出した。



#晴子side ────



講義が終わった後つい誘ってしまったけれど、二人きりだと話題がないまま、私はファミレスで真城君と二人で向かい合って座っていた。


周りはカップルや家族や友達同士やらで賑やかに楽しそうに話していて、正直場違い感が否めない。

つい誘ってしまった事をかなり後悔している。


異様な雰囲気は店員さんにも伝わっているのか、お冷を持って来て以降、店員さんは私達の席に近づいて来ない。


(…別れ話でもしてると思われてるかも…)


ちらりと真城君を見ると、つまらなそうにジュースを飲んでいる。

そりゃそうよね、誘っておいて黙ってるんじゃ…。

もともと真城君は話す方じゃないし、私が何か話題を見つけないと…!


とりあえず正直に話があった訳じゃないと伝えて…それで…。


「…あのね、…実は…」


別に話があった訳じゃなくて…と言おうとして口ごもる。

…だって…、それなら何で誘ったんだ?って話じゃない?違う?


「その……」


どうしたものかと真城君を見つめていると、真城君の姿と山岸君の姿が重なる。


(…やっぱり似てる…。何気ない仕草とか雰囲気…、それに表情の作り方…)


ずっと見て来たから分かる、覚えている。

真城君の行動や表情は、山岸君の癖や表情と全く同じだ。


(…どうしてこんなに似てるの?)


まるで目の前にいるのが山岸君本人みたいに見える。

…そう…名前を呼んだら、面倒そうに…でもちゃんと返事をしてくれる…。


「…なに、何か言いたい事あんじゃねーの」


その言い方も山岸聡太そっくりで、私は思わず「…山岸君…」と呟いていた。

その直後、真城君は驚いたように飲んでたオレンジジュースを咳き込む。


「……は?山岸?」


…しまった!!

この人は真城君、似ていても山岸君じゃないのに…!


「あ…ご…ごめんね!違うの…。名前間違えたわけじゃなくて…真城君って…山岸君って言う私の高校の時の同級生に似てるなーって」


そう言うと、真城君は驚いたように咳払いをした。

…こんな所も似てる。

山岸君も居た堪れない時、よく咳払いしてごまかしてた。


(まるで山岸君といるみたいな気になってくる…)


そこでふと懺悔じゃないけど、私は真城君に話を聞いて貰いたくなり話を続けた。


「私ね…高校の時に好きな人がいたの」


真城君の手元を見つめながら言うと、ストローをいじっていた真城君の長い指先がピクリと止まる。

理由は分からないけれど、何故かその指先は緊張しているように見えた。




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