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99. 晴子と聡太[1]

#晴子side ────




受ける講義の時間にはまだまだ早かったけど、時間が空いたから早めに教室へ行くと、見覚えのある先客がいた。

…真城君だ。


真城君はペコリと頭を下げただけで、すでに机に突っ伏している。


(…落ち着かない、出直してこようかな)


あからさまに私を拒否している真城君から離れた席に座る。

つい真城君を見ると、真城君はさっきと変わらず、ぴくりとも動かずに机に伏している。


(…どうしよう?この講義は教授が好きで受けに来たけど…、やっぱり人が集まってから出直してこようかな…)


この落ち着かなさは、真城君のあからさまな拒否態度が原因ではない。

真城君が私の知り合いに似ているせいで、この人が近くにいると落ち着かないんだ。


誰かは勿論分かっている。

高校の時の同級生、山岸君だ。

顔は全然似てない。でも性格というか雰囲気というか…何だかすごく山岸君に似ている、いや…そのものと言っても良い。


別人だし、何なら全く関わりのない人なんだから他人の空似に決まってるけど、ここまで似てると本人と勘違いしてしまいそうになる。


こうして顔が見えないと、それがより顕著に感じられる。

今ここで机に突っ伏して寝ているのが、まるで山岸君に思えて仕方ない。


勿論本人の訳はない、高校の時の連絡網で回って来たけれど、山岸君はもうこの世にいないのだから。


(…山岸君…)


今も山岸君の事は、苦い思い出として記憶に刻み付いている。

そして…甘酸っぱい恋の思い出としても。


いつも堂々として、最初は虐められているようには見えなかった。

いや、実際虐められていなかったのかも知れない。


確かにあのクラスメート達は虐めてるつもりだったかも知れないけど、おそらく山岸君本人には何でもない事だったんだろう。…そんな風に見えた。


最初はイジメかと思って気にして見ていた、仲の良い男子同士の他愛ないやり取りかも知れないし、見極めてから止めようと。

…まぁ結果的に、それは仲良し達の他愛ないやり取りではなかった訳だけど。


でもそのイジメを止めようと思っても、山岸君はそれを上手くかわしていた。

私の出番なんてなかった。


そしてクラスメートからイジメに近い嫌がらせをされても、それを飄々と受け流す山岸君に、そのうち私は特別な感情を抱くようになった。


いつも大人や周りの人達の顔色を窺って、優等生を演じて来た私にとって、自分を偽る事なく、ありのままの自分で生きている山岸君がすごく魅力的に見えたんだと思う。


(今だに山岸君を引きずって…、それで教師を目指してるなんて、きっと山岸君が知ったら驚くだろうな。…いや、くだらないって笑うかな…)


山岸君を忘れられなくて、大学に入ってこの歳になっても彼氏すら作れない…。


きっと今だに彼を吹っ切れていないのは、自分の気持ちをちゃんと伝えられなかった後悔のせいだろうと思う。


素直に自分の気持ちを伝える事が出来れば、前に進む事が出来るだろうけど、今となってはそれも出来ない。


(亡くなった人の事を、ずっと未練がましく思ってるのは良くないって聞くけど…)


それでも願わずにはいられない。

幽霊でも良い、また山岸君に会いたい。


そうしたらあの偽の告白の時は、裏切られた気がして睨む事しか出来なかったけど…。


今ならちゃんと話を聞く事が出来る。

どんな事を考えていたのか、どんな事を思っていたのか。

色んな事を聞きたい。


…そして謝りたい。

勝手に山岸君に自分の理想を押し付けて、その理想を壊されたからと睨む事しか出来なかった事を。


(幽霊になってこの世のどこかにいるのかしら…、そうしたら私に会いに来てくれる?…なんて…馬鹿な事…)


私は真城君に山岸君の代わりをして貰いたいんだろうか…?

ただ雰囲気が似ているだけの真城君に、何を望んでるんだろう…。


そう思いながら真城君を見るが、真城君が起きる気配はなかった。



#颯斗side ────



誰かが呼んでる声が聞こえる。

俺には行かなきゃならない場所があるのに、何故かその声が気になって、()()()()()()()()()()()へ行く事が出来ない。


……?

行かなきゃならない場所って何処だ?


ふと我に返って辺りを見回すが何も見えない。

暗いような明るいような、どちらとも言えないような場所で立っていると、今度は他の誰かの声が聞こえて来た。


────いつからだ。

────何で裏切った。

────どうして、なんで。

────二人とも信じてたのに。


泣いてはいないが、今にも泣き出しそうなくらいに傷ついた声が気になる。

この世の全てを拒否しているような声の主を探そうとすると、また別の場所から俺を呼ぶ声が聞こえて来た。


『    』


……?何だ?聞こえない。

俺の名前を呼んでるんだよな?


…あれ?俺の名前は…。

名前が思い出せないぞ、俺は…誰だ?


それに、自分の名前が思い出せないのに、声が俺を呼んでるのは分かる。


『    』


また聞こえた、何だ?

何て呼んでるんだ?

…俺の…名前は…。



♢♢♢♢♢♢



「……斗…、……颯斗…?……おい!起きろ颯斗!!」


「……ッ?…ぅわッ!?」


新見晴子をスルーする為に寝たフリしていたつもりが、どうやらホントに寝ちまってたらしい。

耳元で怒鳴る声に目を開けると、少ない友人の一人が呆れた顔で隣に座ってる。


「やっと起きたかよ、そろそろ始まるぞ?」


「あ…あぁ、悪い…」


まだ半分寝てる頭で教室内を見回すと、四分の一くらい席が埋まってるし、教授も来ている。

…新見晴子も…いる。


(…?そういや夢の中で聞いた俺を呼ぶ声…、新見の声に似てる気がすんな…)


寝る直前に新見の姿を見たせいか?

つい斜め前に座っている新見の横顔を見ていると、視線に気付いたのか新見が振り返りそうになり、俺は慌てて視線を前に戻した。

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