魔法武闘会 3
舞台の準備が整った。
「絶対正義党チーム副将は、党首のジャスティス仮面選手。武器はトンファーです」
トンファーは両手にそれぞれ持つ武器で防御にも用いやすく、近接格闘に向いている。格闘技の経験がある人かもしれないので接近戦は警戒したほうがよさそうだ。
「完全なる正義の前では悪は無力ということを思い知らせてやるナリ!」
試合開始と同時にジャスティス仮面が突進してきた。私が身をかわすと、ジャスティス仮面はそのまま舞台の端まで突き進んだ。そして再び突進してきたけど、これも簡単にかわすことができた。攻撃が単調だし素早くもない。魔法も格闘も大したことないのかな?
何か隠し玉があるかもしれないし、私のゲージは残り3割なので油断はできない。私は光魔法で目くらましをしてから私の立体映像を3体出してジャスティス仮面を取り囲んだ。そして立体映像を突進させながら、私は相手の頭上から短剣で斬りつけた! 結構深く決まり、相手のゲージが3割くらい減った。
ジャスティス仮面は頭を押さえて苦しそうな顔をした。
「タイムナリ! 今のは反則ナリ! その短剣の硬さはルール違反ナリ!」
「えっ!? ルール通り薄いプラスチックで中は空気ですよ? ほら、軟らかいですよ?」
私は短剣を手で曲げて見せた。
「刃の部分に硬い何かが仕込まれているナリ! ちょっと貸してみるナリ!」
私が短剣を差し出すと、ジャスティス仮面は受け取らずにトンファーで私の胸を思い切り突いた!
「ぐはっ!!」
「油断したナリな!」
「さっき自分で『タイム』って言ったじゃん! まだタイム中でしょ!」
「タイムなんてルールに無いナリ!」
私のゲージは0になってしまった。
「ジャスティス仮面選手、姑息なだまし討ちで勝利しましたー!」
「正義の鉄槌を下してやったナリ!」
「そんな卑怯な正義があってたまるか――!」
客席は大いに盛り上がっている。よくアニメで外道すぎるヒーローが面白がられているけど、それと同じような扱いなのだろうか。
納得いかなくて腹が立つけど、仕方なく舞台を降りた。するとみんなが迎えてくれた。
「ピコさん、大健闘でしたわ」
「ピコ先輩の本気、すごかったッス」
「よくやったのー、観客は大盛り上がりなのー!」
「ありがと」
「変身魔法には感服した」
「それもすごかったのー。今度お風呂でおっぱいをもっと大きくしてみせるのー」
「あーはいはい」
「次はあたしに任せるのー! もっと盛り上げてみせるのー!」
「うん、あとは任せたよ、ナノ」
見た目の迫力が全然無いナノがどうやって盛り上げるつもりか楽しみだ。
「楽園創業者チーム副将、社長のナノ選手ー! 武器はレイピア。悪の衣装でもめっちゃかわええです」
ナノのマントの下は肩を露出したドレスで、ふわっとしたスカートが可愛らしい。今日は頭に黒いウサ耳カチューシャが載っている。
試合開始。ジャスティス仮面は両手を広げてじわじわと近づいた。ナノはおびえたようなポーズをとっていて、あざとさを感じる。
「怖がらなくていいナリ。お兄さんが優しく相手してあげるナリ。ヘッヘッヘ」
正義のかけらも感じない絵面になってるよ。とりあえずガニ股になってるのだけでもやめてほしい。
ナノは左手のレイピアを相手に向けた。あれ、ナノは右利きなのにどうして左手に持ってるんだろう。
ナノはジャスティス仮面に向かって行ってレイピアで突いたがトンファーで払われた。そのままナノが相手の懐に飛び込んだ次の瞬間、ジャスティス仮面が会場の端まで吹っ飛んでアクリルの壁にめり込んだ! 舞台の中央でナノが右手を高く掲げている。
「一撃でゲージが空になった――!! ナノ選手、まさかの超強烈パンチで勝利です!」
大歓声が起きた。うん、宣言通り盛り上がってる。ジャスティス仮面は壁から抜けて落下した。
「やっぱりナノの正体はおっさんナリ……」
メカマホがナノに駆け寄ってきた。
「ナノ選手、めちゃめちゃえらい威力のパンチやったようですけど、何やったんですか?」
「ブーストパンチなのー。浮遊魔法で体全体を急加速するのと同時にねー、肘を念動魔法で急加速して突き出すのー。だからねー、これをやると腕が痛いのー」
なるほど、ナノのゲージが少し減っている。
「いやー、こないな小さな体から力任せの攻撃が飛び出すとは、意表を突かれました。勝利おめでとうございます」
メカマホが放送席に戻った。
「さあ、絶対正義党チームはいよいよ大将、パトリック選手です! 武器は剣。異世界から転生する前は魔法剣士やったそうですが、どないな戦いを見せてくれはりますでしょう」
試合開始。まずナノが突進して背後をとろうとしたけど、パトリックは瞬時に動いてナノの背後に回った。ナノは急いで距離を取り、パトリックは攻撃せずに様子を見ている。パトリックはだいぶ余裕があるようだ。
再びナノから間合いを詰めて、小さくジャンプしてからレイピアで相手の剣を払い、右手でブーストパンチ! パトリックは素手で受け止めた! パアンと大きな音がしてパトリックの足が床にめり込んだが、ダメージはほとんど無い。むしろナノのほうがダメージが大きい。
「ブーストパンチを素手で止めた――! パトリック選手、余裕の表情です!」
「いくら魔法で威力を増すといっても、自分の腕が砕けないようにするためには威力に上限があるはずだ。こちらも腕に魔法をかければ受け止めることなど造作もない」
「あたしの考えた最強のパンチだったのー。悔しいのー」
「本物のブーストパンチはどんなものか味わってみるがいい」
パトリックが拳を振り上げた。ナノは私のほうを見て叫んだ。
「ピコー! ちょっとここに立つのー!」
「嫌だよ! なんで私がナノの代わりにブーストパンチを受けなきゃなんないの!」
パトリックは拳を振り上げたまま困っている。
「おい、こら! おとなしく俺のパンチを受けてみろ!」
「観客のみんなに質問なのー! あたしがパトリックに殴られるのを見たいって人はいるのー?」
客席からは笑いが起きている。パトリックはうろたえながら叫んだ。
「おい、ロックウルフ! こっちに来てここに立て!」
「そんなの絶対に嫌だ!」
そんな事を言い合っている隙にナノが背後からレイピアで突いた! パトリックのゲージが2割ほど減った。しかしパトリックはすぐに反撃に転じ、剣で思い切り斬りつけた!
「また一撃でゲージが0に! パトリック選手、完璧な斬撃で勝利です!」
ナノが舞台から降りてきた。右腕に治癒魔法をかけている。ブーストパンチはかなりの痛みを伴うようだ。
「ナノ、よく頑張ったよ」




