魔法武闘会 2
そんなことより私の出番だ。舞台に上がった。何万人もの観客が私を見ている。
「楽園創業者チーム中堅は技術部門責任者、ピコ選手。短剣の二刀流。今日は仮面をしてはって、えらい妖しげな姿ですね」
メガネが私の衣装に似合わないからメガネを仕込んだ仮面をつけてるだけだよ。
試合開始と同時にチャコが突進してきた。私が後ろを振り向くと、予想通りチャコは私の背後に回り込んでいた。チャコの突きを障壁で受け止める。チャコは身をひるがえして私の背後に回って斬りつけた! 私は急いで距離を取ったけど一撃は受けてしまい、ゲージが2割近く減っている。
どうやらチャコは私よりも素早いようだ。よし、立体映像魔法を使おう。私と立体映像のどっちが本物かわからないようにするためには私が相手の視界から消えなきゃいけないから、まずは光魔法で目くらましだ。
「ピコ選手からまぶしい光が! なんや、何が起こるんや!」
チャコが目をつむった隙に、チャコの目の前に私の立体映像を出現させた。そして私は素早く背後に回り込む。立体映像の斬りかかる動作にチャコが応じた瞬間、私は右手の短剣で背中に斬りつけた! チャコが振り向いたときに左手の短剣でもう一撃! チャコは驚いて距離を取った。ゲージは残り3割くらいになった。
「ピコ選手が2人! 分身しとる!? あ、一方が消えました」
客席から大歓声が聞こえる。やはりこんな見た目の面白い魔法はウケがいい。得意げな気持ちになりながら、胸に痛みを感じた。激しく動くと胸が揺れて痛いようだ。とはいえ今は激しく動かないわけにはいかないから我慢しよう。
再び光魔法を放ち、私の隣に立体映像を3体出現させた。そして私と立体映像が一緒に突進。立体映像がチャコの左後ろと右後ろと頭上にそれぞれ回り込み、私は正面から攻撃! チャコは背後からの攻撃を警戒していて正面はノーガード、私の突きが腹に深く決まった! ゲージは残りわずかだ。
「今度は4人で全方位攻撃! なんちゅう華々しさやー! しかも胸が揺れまくりで、もろに視聴率取りにいっとる絵面です!」
胸に注目させないでよ、魔法で不自然に大きくなってるのが観客にばれちゃう。
私の立体映像3体とともに再びチャコを取り囲んで、相手の周りをぐるぐる回りながら間合いを詰めた。するとチャコは障壁を張って器用に飛び回りながら立体映像をかわして包囲の外に出た。ほんとすばしっこくて捕らえにくい。
「ピコ、もうちょいだ! 頑張れ!」
客席からたくさんの声援が聞こえて気分がいい。でも私4人の攻撃にももう慣れられたのか、チャコは隙を見せない。よし、別の立体映像を出すことにしよう。私は私の立体映像を消し、周囲に聞こえるように大声でハッタリの呪文を唱えた。
「開け異世界の門! かの地に古より災厄をもたらせし伝説の火龍よ、我が召喚に応じよ!」
床に魔法陣が広がる映像を映した。そして魔法陣から光とともに巨大なドラゴンがゆっくりと出てくる立体映像を映した。
「なんとー! ばかでかいドラゴンが出てきつつあります!」
客席は大盛り上がり。チャコの視線もドラゴンのほうに行っている。私はこっそりと移動してチャコの後ろに行った。
まだ魔法陣から抜けきっていないドラゴンに向かって、チャコはかまいたちの魔法を放った! かまいたちは立体映像をすり抜けてアクリルの壁に傷をつけた。私はチャコに突進し、両方の短剣で背中を突いた!
「勝負あり!! あのドラゴンはまさかの囮やったとは! ドラゴンに気を取られとる隙に短剣で攻撃、ピコ選手の勝利です!」
客席からブーイングが起きた。
「せっかくドラゴン出したのに使わねーのかよー!」
立体映像のドラゴンが攻撃できるはずがない。チャコが私に向かって言った。
「あなたの魔法は幻を見せるものね」
「その通り。このドラゴンも分身も、私の立体映像魔法だよ」
私はドラゴンの立体映像を消した。驚きの声が上がってブーイングは消えた。私の魔法を驚かれるのは嬉しいけど、さっきから胸が痛くてそれどころじゃない。
「ピコー、仮面を取るのー。『偽物だろ』とかねー、『ピコのおっぱいはあんなにでかくない』とか言われてるのー」
舞台のそばでナノが叫んでる。私の胸の大きさの変化に気付く観客がいることが気になりながら、私は仮面を取ってドヤ顔をしてみせた。今ここで痛みを表情に出すわけにはいかない。私は堂々と歩いて舞台を降り、すぐに治癒魔法を胸にかけた。痛みがどんどん引いていく。
「絶対正義党チーム中堅はルビー選手。武器はボウガンですので今までとちゃう戦いが期待できます」
今度の相手は長身の女性だ。ボウガンは間合いが長いから遠くでも警戒して障壁を張ったままにしておく必要があるけど、近接戦闘には向かないから間合いを詰めればこっちが有利。
試合開始。まず障壁を張った。ルビーは何やら呪文を唱えている。すると足元からたくさんの石の柱が突き出して私を取り囲んだ!
「これは、石の牢獄や! 錬成魔法で床の形を変えてピコ選手を閉じ込めました!」
頭上にもたくさんの石の梁が張りめぐらされている。私を閉じ込めたら立体映像を出されても偽物とわかる、という作戦だろう。でも錬成魔法なら私も得意。
私は錬成魔法で近くの柱を融かした。するともっとたくさんの石の柱が斜めに突き出して、私の周りの空間はさらに狭くなった。私は対抗して柱を融かしまくった。そのとき、私の肩に痛みが! ボウガンの矢に当たってる! 悔しい、柱に気を取られている隙に横から撃たれたんだ。私のゲージは残り6割。
私を取り囲む石の柱はどんどん増え、外が見えにくくなってきた。攻撃魔法で破壊しようか? いや自分が生き埋めになるかもしれない。石を粉々に吹き飛ばすほどの威力にしたら闘技場が壊れる。立体映像魔法以外の何かで相手の意表を突く遠距離攻撃をしないと。でも私にはあと変身魔法くらいしか……。
そうだ、変身魔法なら狭い隙間から遠くに攻撃ができるかもしれない。試しに腕に変身魔法をかけてみると、腕は自在に伸び縮みした。うん、いける。私が右腕に変身魔法をかけてから前に思い切り突き出すと、腕は10メートルくらい伸びて短剣がルビーの腹に当たった! ルビーのゲージを2割ほど減らすことができた。
「腕が伸びた――!! ダメージが入っとるっちゅうことは魔法で短剣を操っとるわけやなく、立体映像ちゃいます! 短剣握った腕がほんまに伸びとるんです!」
また大歓声が聞こえる。よし、両腕いってみよう。左腕も10メートルくらい伸ばして左右から挟み撃ち! まるで骨が無いみたいにぐにゃぐにゃと伸びてる。ルビーは障壁を張ったけど、そんなの背後から狙えばなんてことはない。右の短剣がお尻に当たり、左の短剣が頭に当たった。やったあ、ゲージは残り半分。
ルビーは上に飛んで逃げた。しまった、私の頭上は完全に石に覆われていて外が見えない。相手が見えなければ攻撃できない。よし、首も伸ばそう! 首に変身魔法をかけると、私の頭は石の狭い隙間を抜けて牢獄から飛び出した! うん、相手が見える。
「首も伸びた――! なんや妖怪じみた絵面になってきました」
首が長すぎて息苦しい。首元に穴をあけることを念じると息が楽になった。私は両腕をさらに伸ばして斬りつけ、さらにダメージを与えた。ルビーは飛んで逃げる。あまり遠くに逃げられるとよく見えないから、首をもっと伸ばして近づこう。
あれ、ルビーはどこか別の場所をボウガンで狙っている。どこだろう? あ――! 私の胴体だ! 遠くに私が背中を向けて立っているのが見える。無防備なままで放置してきちゃった! ルビーが矢を発射して私の背中に当たった! ゲージは残り3割になり、ルビーはさらに矢をつがえようとしている。
何か魔法で身を護らないといけないけど、手も頭も使わずに背後に発動できる魔法なんて……そういえば初めて魔法を使ったときに鼻の穴が光ったっけ……そうだ、光魔法で目くらましだ!
私は手と頭で相手を追いながらお尻から光魔法を放った。でも光がマントにさえぎられている。念動魔法でマントをめくるとまぶしい光が差し、ルビーがたじろいだ。今だ! 私は両手の短剣をルビーに突き立てた!
「なんとまぶしいパンチラ! 目がくらんだ隙に短剣攻撃が決まりました、ピコ選手の勝利です!」
そのアナウンスを聞いて思わず振り返り、見てしまった。目くらましのまぶしい光、そしてその光を放つ私のお尻を。目の前が真っ白になりながら思った。確かにパンチラみたいに見えるけど、パンツじゃなくてレオタードだよ!
首と腕を元に戻してから、石の牢獄に錬成魔法で穴をあけて脱出した。ルビーは舞台を元の形に戻そうと魔法をかけ始めた。メカマホが駆け寄ってきてインタビューを始めた。
「どえらい試合を見事制さはりましたピコ選手、おめでとうございます。体が伸びる魔法、めっちゃすごいですね」
「あれは変身魔法です。思い通りの姿になることができる魔法です」
客席からの喝采を浴びた。こんなに盛り上がってくれて、たくさん練習した甲斐がある。
「ほなそのいつもより大きな胸も変身魔法ですか?」
「はい、変身魔法で大きく……なんで気づいたの――!!」
恥ずかしい! 胸を大きくしていたのがばれてたし、自分でも言っちゃった!
「いや、いつもと全然ちゃいますよ。あと最後の光魔法もすごかったですね。あの技を何と呼ぶかでネットが盛り上がってまして、『パンチラフラッシュ』『パンツ光臨』『パンチガ』などなど……」
「やめてよ、このセクハラロボ! パンツじゃなくてレオタードだから、ほら!」
前から見たらパンツに見えないことをカメラにアピールしてみせた。すると客席から大歓声が上がった。しまった、また自分から恥ずかしいことを!
「大人の女の魅力あふれるピコ選手、ありがとうございました。次の試合も期待してまっせ」
「期待しないでよー!」




