修行
魔法武闘会は来年の三月の予定。その頃にはチアもパトリックさんも釈放されていそうなので、試合に出るメンバーは私・マホ・ナノ・チア・鈴木ということになった。マホには大将として派手に戦って試合を盛り上げてもらって、最後にわざと負けてもらうことにしよう。そのためには私やナノがあまり簡単に負けるわけにはいかない。私とナノと鈴木は魔法を使った戦い方をマホに教わることになった。
100階のスポーツ公園。透明な高い天井から人工芝に日差しが降り注ぎ、屋内らしからぬ開放感がある。私や鈴木のような日陰者にとってはあまり来たくない場所だ。
「魔法で直接攻撃することはできませんので、身体強化魔法を使っての物理攻撃が基本となりますわ。腕を強化すればパンチで岩を砕くこともできましてよ」
「でも見た目があんまり魔法っぽくないのー」
「アニメの魔法少女にも物理攻撃がメインのが結構いるし、こんなもんじゃないかな」
「だが単純なパンチで攻撃しても障壁魔法で簡単に弾かれるであろう。我の経験から言わせてもらえば、重要なのは攻撃力より素早さだ」
どんな経験してんのよ、鈴木。
「見るがいい」
鈴木がマホに突進した。速い! マホはうまくかわした。
「すごい、速いね」
「浮遊魔法で素早く飛ぶ練習をしていたのだ。このくらい造作もない」
その練習、仕事とは全く関係ないよね。
「よくわかってらっしゃいますわね。ですが、こんなものではありませんことよ。ご覧あそばせ」
マホは身構えた。そしてそのまま静止している。ふと、マホが目の前から消えた! 一陣の風とともに鈴木の背後に移動していた。目で追えないくらい速いんだけど!?
「ぬうっ、縮地法か……」
「たぶん違うと思うよ」
「身体強化魔法と浮遊魔法の組み合わせでしてよ」
それから身体強化魔法でパンチと素早く動く練習をした。
私はその日から仕事の合間に自分で練習をして、素早く動く魔法はだんだん身についてきた。
二週間たった十月のある日。私の身体強化魔法レベルは30、浮遊魔法レベルは52まで上がった。私は練習の成果をみんなに見せることにした。
ナノと向き合った状態から急加速で突撃! ナノの横を通り過ぎ、背後で急停止して180度ターン。再び急加速でナノの背後からウサ耳カチューシャを奪い取って元の場所に戻った。
「これ、なーんだ」
「あー! あたしのウサ耳なのー!」
大成功。ナノはくやしがっている。
「今度はあたしの番なのー」
ナノがすごい早さで私の横を通り過ぎた! 振り向くと背後にナノがいた。
「これ何なのー」
ナノは白いパンツを持っている。えっ、私のパンツ!? 私はお尻を手で押さえて確認した。いや、ちゃんと履いている。
「これはあたしのパンツなのー」
「自分のかい!」
「あたしからこのパンツを奪い取ることができるのー?」
「奪いたくないよ、そんなの!」
「皆さん、戦いの基礎はマスターしたようですわね」
「まだ我の成果を確認しておらぬが」
「でもきっと相手もこのくらいの実力はありましてよ。一撃を決めるためには、相手の意表を突く攻撃を仕掛ける必要がありますわ」
「どのような方法だ」
「存じませんわ」
「知らないならえらそうに言わないでよ!」
「わたくしが詳しく存じあげている魔法でしたら一度は皆さんに紹介していましてよ」
マホが今まで魔法について研究した成果はネット上でも公開されている。
「しかしながら、わたくしの存じ上げない魔法もまだまだありましてよ。その知識は魔導石の中に秘められていたのですわ」
なるほど、誰も知らないすごい魔法をマスターできれば相手も対策のしようがない。
「じゃあそれを解読する必要があるんだね」
「大変な作業になりそうじゃのう」
リンが近づいて来た。この話に興味があるようだ。
「手伝ってくれるの?」
「そのような無駄な作業を手伝うのは嫌じゃ」
「どうして無駄なのよ!」
「その魔法はわらわがもう知っているからじゃ」
「魔導石の中に秘められていた知識はわたくしがリンに移しておきましてよ」
「だったらリンが教えてよ!」
「どんな魔法があるのー?」
「ドラゴンが人間に変身する魔法などじゃ」
「それはアニメでおなじみの魔法だけど、人間にとっては何の意味も無いよ!」
マホも知らないすごい魔法の知識というより、マホが知る必要の無かった使えない魔法の知識なのでは?
「ドラゴンに変身する魔法はあるのー?」
「変身する魔法はあるのじゃが、ドラゴンみたいに大きくなると体がスカスカになって弱くなるのじゃ。質量保存の法則じゃ」
ということは、ドラゴンが女の子に変身しても体重がものすごいことになってるんじゃないかな。
「せっかくじゃ、知られておらぬ魔法をわらわがリストにして送ってやろう。それを見てからどれを習得するか検討するがよい」
後日、リンから大量の魔法のリストが送られてきた。顔のしわを伸ばして若々しく見せる魔法、空中に立体映像を映す魔法、本を適当に開くと目当てのページが開かれている魔法、食べ物をねだるときにお腹を鳴らす魔法、みんなが憧れるイケメンにも自分だけは無関心でいられる魔法……。なんか色んな主人公が使ってそうなものもあるけど、どれもすごく地味で戦いに役立ちそうな気がしない。だからマホは習得しなかったんだろう。
相手の意表を突くためにどの魔法を習得するべきなのか気になるけど、いい案が浮かばない。とりあえず後回しにして魔法の練習を進めよう。今日はナノと一緒に組手の練習だ。
高速でナノの背後に回る。ナノも高速で私の背後を狙ってくるので簡単には背後を取れない。相手の動きを予測してフェイントをかける。ナノもフェイントをかけてくる。何度も行ったり来たりしてすぐに息が上がった。
「はあ、はあ、なかなか、難しいね」
「ピコの動きは、読みづらいのー」
もう一度ナノに向かって突進! と見せかけて後ろを向く。やっぱりナノが私の背後を取ろうと回り込んできている。そこを正面からパンチ! 決まったと思ったその瞬間、背中に衝撃を受けた! 痛い!
後ろにはナノがいた。あれ? 私の前にも倒れているナノがいる。
「あいたた……。いきなり何しはるんですか、ピコさん」
「メカナノだった――!」
「あたしのフェイントにまんまと引っかかったのー」
「こんなのフェイントじゃないよ!」
「うちはお二人の練習を見に来ただけやのに、なんで殴られなあかんのですか」
「ごめん、本気でナノと間違えた」
「この技をマスターしたら相手の意表を突けるのー」
「どう考えても反則だよ」
「うちはおとりになるなんてまっぴらですよ」
私もおとりを使うことができないかな。そうだ、空中に立体映像を映す魔法ってのがあった。私の立体映像をたくさん映せば相手の隙を突けそうだ。
翌日、立体映像魔法をリンから習った。やってみると、立体映像を映すこと自体は結構簡単だった。でもなんだかぼやけて見えて、どう見ても人間っぽく見えない。細かいところに意識を集中して思い浮かべることで徐々に鮮明になっていった。一旦映した立体映像は次からは簡単に映せるようだ。よし、これからこの映像を洗練させていこう。
十一月には私の立体映像魔法レベルは40まで上がり、自分の立体映像を何体も出現させることができるようになった。自分の立体映像に囲まれてみる。うーん、マホみたいな美人だったら華があったんだろうけど、自分がたくさんいるのはなんか嫌な見た目だ。まあ仕方ないか。
鈴木からメールが届いた。魔法武闘会の衣装のデザインが決まったということでイラストが添付されていた。私の衣装はレオタードのようなもので、他の人の衣装に比べたら露出は少なめだけど胸元は大きく開いている。
イラストには胸の谷間がくっきり描かれているけど、私、こんなに谷間は無いよ。このデザインってもっと胸が大きくないと似合わないんじゃないかな。寄せて上げる? いや、そんなブラははみ出そうなデザインだ。立体映像で胸の谷間を映す? ずっと私の体の前に映し続けるのは難しいだろう。そういえば変身する魔法ってあったよね。ドラゴンに変身するのは無理でも胸をちょっと大きく見せるくらいなら簡単なんじゃないかな。
再びリンのもとを訪れてみた。
「ねえ、変身する魔法ってあったよね。それも習ってみたいんだけど」
「まあべつに構わぬがのう、何に変身するつもりじゃ?」
胸を大きく見せたいなんて言ったら、リンにからかわれるに決まってる。言えない。
「まだあんまり考えてないんだけど、相手の油断を誘いたいんだよね。子猫とか?」
「油断させたいならのう、バインバインの巨乳になって色香で惑わすとよいわ」
「嫌だよそんなの!」
しまった、自分がやろうとしていることを否定してしまった。ますます本当のことを言えない。
「大きな胸は揺れて痛いし目立って恥ずかしいしで困りものでしてよ」
後ろからマホが現れた。聞かれていたようだ。
「べつに巨乳になりたいわけじゃないよ?」
本当はなりたいよ。
「でもマホの胸は美しくて素敵だと思うよ」
「やはりピコは巨乳に憧れておるようじゃ。素直にならんか」
「だから違うって!」
「では巨乳になる魔法など不要じゃのう。子猫になる魔法を教えてやろうぞ」
「いやそっちはどうでもいい」
「やはりそうじゃったか!」
「しまった!」
つい本音が出てしまった。もう言い逃れができない。私は衣装のイラストを見せながら本当のことを説明した。そしてリンにからかわれながら変身魔法を習得した。
後日、衣装の採寸をするときに変身魔法で胸を少し大きくした。




