正義と悪 2
「解決するにはまず絶対正義党が楽園に対して行っている要求を知る必要があるデス。要求の1つめは『労働の現場からのロボットの排除』デス」
「ソーラーキャッスルは今人手不足だから難しいね。単純作業や肉体労働にはロボットじゃなきゃできないものもあるし」
「全面的にロボットを無くすのは無理デスけど、今より減らしていくのであれば受け入れられるかもしれないデスネ。重要な仕事をさせないとか」
「レイバロイドだったら心が無いからそれでいいけど、ピアロイドだったら『ロボットだから頑張っても出世できない』ってのはかわいそうだね」
「それは2つめの要求に関わってくるデスネ。要求の2つめは『ピアロイドを人間らしく扱うことの禁止』デス。ピアロイドに人権を与えてはならないと要求しているデス」
「それはひどい。人間と同じ心を持つことがピアロイドの売りなのに」
「自分の立場がロボットより下になることに耐えられない人たちなのー。見下す相手を欲しがってる最低な連中なのー」
「もし我が彼らの立場なら、その気持ちはわからんでもないな。ピアロイドは生まれながらにして他人の嫉妬を呼ぶ呪いを身に宿しているとも言える。ああ、それを生み出した我々はなんと罪深いのだ」
「そして3つめの要求は、『楽園経営陣の退陣と、経営陣の選出方法の透明化』デス」
あれ、これは筧さんと話したことがある。筧さんは「役員選挙があるといい」って言ってたよね。
「選挙をするといいかもね」
「あたしたちがやめるのは嫌なのー」
「一旦退陣したとしても、そのあと役員選挙をやって私たちが当選したら、相手は何も文句が無いわけだよね」
「絶対正義党相手なら楽勝なのー」
確かに楽勝しそうだけど、それでいいのかな。形式的な選挙になったら相手の不満は解消しないよね。有権者がじっくり考えられる選挙にしないといけないって、筧さんと話したときも言ってた。
「4つめの要求は党首のジャスティス仮面さんが長い間訴えていたことデス。『女湯での会議の全面公開』デス」
「その要求は受け入れる必要これっぽっちも無いよ!」
「マホのおっぱいを見る権利をあたしたちが独占してるのはもったいないのー」
「見せたいなら自分のでやって」
「あたしには見せるおっぱいが無いのー!」
「『合法ロリ』の称号をお持ちのナノさんのおっぱいはきっと一部の殿方に大好評でしてよ」
悪の幹部会議みたいな雰囲気の部屋で話す内容がこれだなんて。
「絶対正義党からの要求はこの4つデス。これにどう対応するか考えないと、また衝突が起きるデス」
ピアロイドを馬鹿にするような人たちの意見を取り入れるのは嫌だけど、これ以上の衝突を避けるためにはできる限りの譲歩をしないと。
「役員選挙をすれば3つめの要求は受け入れたことになるよね。1つめと2つめはかなり受け入れがたいけど、今後はピアロイドはあまり増やさないようにする、ということで向こうに妥協してもらえないかな」
「4つめはどうするデスカ?」
「そんなのに構う必要無いよ!」
「4つの要求のどれも受け入れなくていいのー。やっぱり戦って決着をつけるのー」
「もー、そんなことしたら会社が信用を失って潰れるよ?」
「平和的に戦えばいいのー。何かのスポーツで勝負するのー! あたしたちが負けたら要求の一部を受け入れるのー」
「あら、いいですわね。でしたら競技場エリアに建設中の闘技場で魔法格闘の試合をするというのはいかがでして?」
「それ、いいのー! 魔法格闘を新しいスポーツとして宣伝することにもなるのー!」
どうしてそうなる。そんな試合に何の意味が?
「べつに試合なんかせずに要求を受け入れたらよくない?」
「たくさんの観客を呼んで派手なお祭り騒ぎをすることに意味があるのー。試合の後はこの件はみんなの中で終わったことになってねー、あたしたちが勝ったら向こうは要求しづらくなるしねー、負けてもこっちが最大限の譲歩をしたってアピールになるからねー、向こうはそれ以上の要求はしづらいのー。どっちに転んでも今後デモが起きにくくなるのー」
まったく、ナノはこうやって自分が得をする奇策をよく思いつく。でも私たちが勝ったときには要求を完全に突っぱねたことになるから、不満はまたすぐに高まるよね。
「じゃあ、私たちが試合に負けて役員選挙をやったほうが双方丸く収まるんじゃない? 選挙は住人みんなの意志だから、それで負けたのなら相手も納得して引き下がるよ」
「試合に負けたとなれば、わたくしたちの威厳が落ちましてよ」
「そのほうがいいよ。私、家の前にお供え物をされてるんだよ? 今のままだと私たちに任せてれば安心ってみんなが考えてて、選挙になってもあまり深く考えずに投票するんじゃないかな。私たちの威厳が落ちたほうが、みんなが政治のことを真剣に考えるよ」
「さすがピコさん、素晴らしいデス! ピコさんにお任せすれば安心デス」
「それが良くないって言いたいの!」
「なるほどデス。私自身の意見をもっと考える必要があるデスネ」
「あたしはやるからには勝ちたいのー!」
「我はわざと負けるのも良いと思うぞ? 相手を手玉に取る愉悦を感じる。それに、悪の組織には正義と戦って散るという滅びの美学があるのだ。悪の親玉は最後は一人で戦って敗れ、自ら高所から身を投げて笑いながら背中から落ちていくものだ。このカッコよさ、憧れるではないか」
「もう悪の組織から離れようよ」
「ただ、我々が試合で正義と戦うのであれば、1つ重大なことを考えねばなるまい」
考えないといけないことって、人選? ルール? いや、もっと大事なことを見落としてる気がする。
「正義と対決するにふさわしい、禍々しき悪の衣装をまとう必要があるとは思わぬか!」
鈴木のテンションが爆上がりだ!
「全員黒いマントを羽織るのは基本だ。その下に黒い水着もしくは露出多めのレオタードで妖艶なイメージにするが、各キャラのイメージによって1つ1つデザインを変える必要がある。例えばマホであれば極端に露出の多い衣装になるが、ナノであればふわふわスカートも捨てがたい」
私たちをキャラ扱いしてる。鈴木は今までどんな妄想をしてたんだ。
「面白そうなのー! 悪の組織らしくドクロをかぶるのー!」
「ドクロのモチーフにはわかりやすさがあるが、記号的すぎてチープで今どきは流行らぬ。横乳を見せるようなのが良いと思わぬか」
どうして悪の組織の女幹部は露出の多い衣装を着てることが多いんだろう。私は早くバニーのイメージを捨てたい。
「私は露出の無い衣装にして。そんなセクシーなキャラじゃないし」
「段ボール箱をかぶってはいかがかしら」
「そこまで露出を無くさなくていいから、普通の服の露出度で」
「うむ、確かに地味メガネなピコのキャラであれば露出はイメージに合わない。だが断る!! ビキニを着て恥ずかしがる内気メガネ、そこに萌えが存在するのだ!」
「何を目指してんのー!! 威厳が落ちるどころじゃないよ!」
「恥ずかしがるピコを見てみたいのー! ぷしゅしししししっ!」
「ピコさんがかわいらしく恥ずかしがるお姿を想像しましたら、会社の威厳などどうでもよくなってきましたわ」
みんな悪ノリしすぎだ! これまでの話を台無しにして社会に馬鹿な印象を与える流れになってる。
「皆さんふざけすぎデス! はしたないのは軽蔑されるデスヨ、かっこいい衣装にするデス」
「まあそうだな、やりすぎはよくない。もっと練ってくるが故、衣装のデザインについては我に一任願おう」
「それでいいのー」
「それよりもデス。どうやって絶対正義党の人たちをこの試合に引き込むデスカ?」
そうか、その問題があった。
「奴らは正義の味方なのー、必ずあたしたちに勝負を挑んでくるのー。そのときにあたしたちからこの条件を提案するのー!」
ナノは椅子のひじ掛けを叩いて立ち上がった。すると他のみんなの椅子の下に落とし穴が開き、私とナノ以外全員下の階に落ちた。
「「「きゃ――っ!!」」」
「ごめんなのー! 間違って全部のボタンを押しちゃったのー!」
その後、魔法格闘の試合のルールはマホが考えることになった。マホは転生前に闘技場で見た試合を気に入っていて、迫力を出しつつ安全を確保するのにこだわりがあるようだ。




