バッタ 3
「それよりねー、どうやって群れを捕まえるか考えるのー。敵全体に1ポイントのダメージを与える魔法とか無いのー? バッタは1ポイントくらいでやっつけられそうなのー」
「ゲームじゃないんだから」
「広い範囲に効く魔法でしたら、吹雪魔法がよさそうですわね」
マホの手の先に雪が舞った。
「涼しいのー! みんなのやる気が出るのー!」
「畑の作物にダメージを与えるのはだめだよ。それに生け捕りにするんでしょ」
「生け捕りにするには拘束魔法でしてよ」
光の鎖が現れた。
「あんな小さな相手を鎖で縛れないよね」
「これならいかがかしら」
糸のように細い鎖が無数に現れた。
「バッタを逃がさないようにその糸を巻き付けることって難しいんじゃないかな。網にしたほうがよくない?」
細い鎖がくっついて網のようになった。でも1メートルくらいの大きさだ。
「あの巨大な群れを捕まえられるくらい大きな網を出すのはとても難しいですわね」
「みんなで訓練するのー!」
「何か月もかかっちゃだめだよ」
「もー、ピコは文句ばっかりなのー! バッタの群れを捕まえる魔法を前向きに考えるのー!」
「問題のある方法は避けなきゃだめだよ! 実現できる魔法を考えないと」
「魔法は何でもできるわけではありませんことよ。良い魔法を思いあたりませんわ」
なんか手詰まりの感じがしてきた。
「うーん、マホも知らないような高度な魔法なら……」
「魔法の網ではなくて普通の網ならどうデスカ?」
「「「あ」」」
全く気付かなかった! べつに魔法で捕まえる必要は無いじゃん!
「漁業用の網を買ってくるのー!」
「それをみんなで魔法で操れば群れを捕まえられるよね」
こんな単純な方法であっさり解決するとは。
「でも、バッタが群れにならないと捕まえられませんわ」
「どうしてサバクトビバッタは群れるのー?」
「餌が無くなると群れになって、餌のある場所を探して集団で移動するそうデス」
「群れのいた場所は収穫を終えた畑でしたわね。収穫したからバッタの餌が無くなったのですわ」
「全部収穫されるまで待つのー」
「それだとバッタから作物を護ることにならないよ!」
「群れはまだまだ大きくなるデスヨ。全部の畑のバッタが合流して1つの群れになるデス。群れが何キロ四方にもなったら網で捕まえるのは無理デス」
「でしたら悠長なことは言ってられませんわね。何かバッタの行動を変える魔法を広範囲にかけて1区画だけ群れさせられますかしら……考えてみますわ」
そして第2回の討伐の日。前回とは違う農業基地に、前回参加した人たちが集まった。この近くにはトウモロコシ畑が広がっている。
「今回はまず皆さんに、バッタを倒す鍵となる魔法を習得していただきますことよ」
「やったッス! 自分もすごい攻撃魔法を使ってみたいッス!」
参加者たちのテンションが上がった。やっと冒険者らしいことができそうな雰囲気だ。
「その魔法とは、『トウモロコシをまずいと感じる魔法』でしてよ」
また場が凍り付いた。なんて地味な嫌がらせ魔法。
マホがみんなに魔法の訓練をすること2時間。私もこの魔法を使いこなせるようになってきた。
そしてそれぞれがトウモロコシ畑のあちこちに散っていった。私も畑の一角まで飛んでいき、そこで呪文を唱えた。
「この場にいるすべての者よ、トウモロコシを食べてはいけない。食べれば体が毒に侵される」
効いたかな? バッタを観察してみよう。どのバッタも食べるのをやめ、うろうろ歩き出している。成功だ。
みんなでトウモロコシ畑全体に魔法をかけてこの日は解散した。
翌日、再びみんなでトウモロコシ畑を訪れると、まさに群れが出来つつあるところだった。あちこちでバッタが群がり、体に模様ができかけている。
散らばって群れを探しに行くと、群れを発見したという報告があったので急行した。先日のように黒い煙のような大群になっているのが見える。
私たちは千メートルくらいある大きな網を広げ、それぞれが端をつかんで空中に舞い上がった。こんな大きな漁網、いったいどこに売ってたんだか。
「ククク、バッタどもよ、遊びは終わりだ。我々が貴様らを死へと誘ってやる。さあ、破滅の始まりだ!」
鈴木が勝手にかけた変な号令とともに、私たちはバッタの群れに向かって行った。網の中央部分が群れに触れると、中央部と下端はその場で停止し、左端・右端・上端は前進しながら群れを囲うように飛んだ。まさに巻き網漁。
私も網の端を引っ張りながら飛び、徐々に包囲網を狭めて渦巻き状にしていった。できるだけバッタを逃がさないよう、私の持つ端が反対側の網スレスレになるように飛ぶ。だんだん網の内側のバッタの密度が高くなってきた。大きな網はバッタが飛んで通ることはできないけど歩いてだと通り抜けられるので、目の細かい小さめの網で外側から囲っていく。見回すと、私の周りには何重にも網が張りめぐらされている。あれ? なんか私も捕らえられてない?
「ちょっと、私の出口はある?」
「早くしないと隙間が閉まっちゃうッスよ」
私は網を手放し、急いで引き返した。後ろからたくさんのバッタが追ってくる。巻かれた網の中をぐるぐると必死で飛ぶうちに、ついに網がきつく締めあげられた! 私は網の間に挟まれ、網越しに無数のバッタの足が私の背中に当たって暴れてる!
「痛い痛い! 助けて!」
網が少し緩められて、やっと外に出ることができた。
網の中のバッタを大きな袋に移すと、袋は1メートル以上の塊になった。いったい何匹いるのやら。
その後他の場所でも群れが大きくなってきたので捕らえに行き、日没までに5袋のバッタを集めてトラックに積んだ。私の冒険者レベルは10に上がった。
「皆様お疲れ様でしたわ。農家の方からお礼に採れたてのトウモロコシをいただきましたので、ぜひお召し上がりあそばせ」
大きな鍋でたくさんのトウモロコシを茹でてある。私はその1本を取ってかぶりついた。その直後、刺激のある異様な味が口に広がり、思わず吐き出した!
「ぶわっ!! 何これ!」
周りの人たちもみんな吐き出している。
「めちゃくちゃまずいッスよ!」
「これって『トウモロコシをまずいと感じる魔法』が私たちにもかかってるんじゃない?」
「あらあら、そのようですわね」
魔法を解く魔法をマホにかけてもらい、やっと茹でトウモロコシにありつくことができた。
後日、バッタのハンバーグがフードコートのメニューに並んだ。バッタの姿は全く残っていないので気持ち悪さは無く、普通においしい。
その後他の畑にも行ってバッタを徹底的に捕まえてまわった。そのせいでフートコートのメニューにバッタ料理がどんどん増えていった。




