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バッタ 2

 バッタ討伐を始めてから1時間。私の袋には40匹くらい入っている。さすがに休憩したくなってきた。


 マホの様子を見に行ってみると、マホはバッタを見ながら考え込んでいた。


「マホ、調子はどう?」


「このままではよろしくありませんことよ」


「それは私も思ってた」


「一旦皆様を集めて、方針を変えたほうがよろしくてよ」


「じゃあ私がルナでメッセージを送るよ」


「そのようなもの皆様置いていってましてよ。念話でお伝えしますわ。皆様、マホですわ」


 マホの念話魔法が頭の中に直接響いてくる。


「一旦討伐を中断して基地まで戻って来て下さいまし。……はくしょん!」


 うわあぁ! くしゃみの大声が頭の中に響く!


 少しして農業基地の休憩室にみんなが集まった。みんな汗だくでジュースをがぶ飲みしている。


「皆様、討伐お疲れ様ですわ。わたくしはこのバッタを調べてみて、重大なことに気づきましたわ」


 マホはバッタの羽をむしり、背中の殻を割ってみせた。


「ご覧くださいまし。バッタの背中は羽を動かすための筋肉が発達していましてよ」


 かたずをのんで注目した。


「つまり、背中の部分はおいしいのですわ!」


「食べるつもりだったの!?」


「当然でしてよ! これだけたくさんの獲物を捕らえて、いただかないはずがありませんわ」


 マホが冒険者のときにはきっと魔物の肉を売ってお金を稼いでいたんだろう。


「バッタをおいしくいただくためには鮮度が重要でしてよ。殺してしまっては鮮度が落ちてしまいますから、生け捕りにするのがよろしくてよ」


「その連絡をするためにみんなを集めたの?」


「それ以外に何がありますかしら?」


「このまま1匹ずつ捕まえてたんじゃきりがないって事だよ!」


 その後話し合いをして、バッタが群れている場所が無いかそれぞれが偵察しに行くという結論になった。


 一人ずつ別々の方向に飛んで行った。私も浮遊魔法で空からバッタの群れを探した。


 しばらくして、バッタの群れを発見したという連絡があった。現場に行ってみると、そこは収穫を終えたばかりの人参畑。遠くに黒い煙のようなものが見える。だんだん近づいて来た。


「あれがバッタの群れです!」


 そう言われてもピンとこない……そう思ったのも(つか)の間、その黒い煙のようなものが空を覆った。まさに無数のバッタ! 空を黒く染めるほどの密度のバッタが私たちに向かってくる!


「群れってこんなに大きいの!? こんなの捕まえようなんて無理だよ!」


「でしたら殲滅(せんめつ)でしてよ!」


 マホが群れに向かって巨大な炎を放った。炎は群れの一端を燃やしたものの、すぐに逃げられてしまった。


 すかさずチアが竜巻を放った。でも群れの大きさに比べたら規模が小さい。


 隣にいた白人男性が閃光の魔法を放った。すごく効いてる! 群れの2割くらいのバッタが地面に落ちた。


 他の人たちも様々な魔法を群れに叩き込んだ。次々と爆発が起きて砂が舞い上がる。まるで戦場。砂ぼこりでもう何がなにやらわからない。


「2時の方向に敵影多数!」


右舷(うげん)、弾幕薄いぞ! 撃てー!」


 もはや何と戦ってるのかもわからなくなってきた。


 砂ぼこりが晴れると、そこにはもうバッタの姿は無かった。一部は散り散りに逃げていっただろう。黄色と黒のバッタのかけらが地面を覆っている。


「全滅とはいきませんでしたわね。悔しいですわ」


 マホはそう言いながら、さっき閃光魔法を放った白人男性を見た。魔法で自分よりたくさんのバッタを倒したのが悔しいのだろう。


「あの方、どこかでお会いした気がしますわね……」


 (あご)が長いのが特徴的な顔。会っていれば記憶に残りそうなものだから、街でちらっと見かけただけかもしれない。


 私の冒険者レベルは3に上がったけど、今日駆除できたバッタは全体のほんの一部。そんな徒労感を感じながら帰路に就いた。




 翌日。会議室でマホ、ナノ、サフィーヤさんとバッタ対策会議をした。


「昨日はお疲れ様デス。人参農家の方からお礼があったデスヨ。なんでも、人参が茎だけになってしまうほど葉っぱを食べつくしたバッタを退治してくれたとか」


「人参が茎だけになったのはバッタのせいじゃなくて、チアたちの魔法のせいなんだけどな」


「スプリンクラーを粉々にするほどのバッタも倒したそうデスネ」


「さすがにバッタがスプリンクラーを粉々にしたりはしないよ! それはどう考えてもみんなが群れに向かって放った魔法のせいだよ! あの戦いはメチャクチャだったよ。もっと計画的にいきたい」


 畑にいるのを1匹ずつ捕まえていたらきりがないし、群れは大規模すぎて捕まえようがない。どうしたものか。


「わたくし、対策を練ってきましたわ。これをご覧くださいまし」


 マホが何やら箱を取り出した。久々に魔法の知識が必要そうな案件でマホがやる気になっている。箱を開けると、中には茶色くなったバッタが入っていた。


「調べましてよ。バッタの調理方法としては素揚げがポピュラーなのですわ」


「対策って、調理方法かい! 捕まえる方法は考えてないの?」


「おいしくいただく方法を考えていましたので、そこまでは気が回りませんでしたわ」


 マホに期待して損した。


「まあとりあえず、食べてみるのー」


「もしよそのバッタ退治部隊が殺虫剤を浴びせてたら食べられないけど……うちの畑で育ったバッタだから大丈夫か」


「バッタはとても栄養豊富だそうでしてよ」


 みんな1匹ずつ手に取った。バッタの姿を全く崩さずそのまま揚げてある。これを食べると思うと気持ち悪い。


「食べるのは勇気がいるデス。マホさんは食べてみたのデスカ?」


「いえ、まだいただいておりませんことよ」


 みんな食べる勇気が無くて固まってしまった。


「みんな一緒に、『せーの』で食べるのー。せーの」


 ナノは大きく口を開けながらバッタを近づけて、結局食べなかった。他のみんなも食べてない。


「言い出したナノが食べてないじゃん!」


「そう言うピコが食べるのー!」


 ナノはバッタを念動魔法で私の口に放り込んだ! 私はそれを噛み潰してしまった。口に広がるバッタの味。あれ、意外とおいしい。さらに噛んでみた。なんかジャリジャリする。


「エビみたいな味がしておいしい。でも羽がジャリジャリして食べづらいね」


「ではわたくしも……」


 マホは額に手をかざして何やらつぶやきながら食べた。


「あら、結構いいですわね」


「今、何か魔法を使ったよね」


「気持ち悪さを感じなくなる魔法でしてよ」


「そんなのあるなら最初から私に使ってよ!」


「状態異常を起こす魔法は他人にはかけることができませんことよ」


 その後ナノも食べたけど、サフィーヤさんは結局食べなかった。やはりハラルでない食材は食べないんだろう。私はもう1匹食べてみよう。模様の違うバッタを食べてみた。なんだこれ! なんか硬くて身が少ない!


「うわ、なんかこの模様が違うのはおいしくない」


「それは群れていたほうですわね。畑にいたバッタは緑色で、群れていたバッタは黄色と黒の模様でしたわ」


「サバクトビバッタは群れになると色が変わるデス。長距離を飛ぶための体になるデス」


「あの群れをまとめて捕まえる魔法があれば、1匹ずつ捕まえるよりもずっと効率的なんだよね。でも身が少なくてジャリジャリする。だったらバッタを丸ごと食べるんじゃなくて、殻をむいて筋肉だけを取り出して集めて料理したらおいしいんじゃないかな。バッタの見た目が残らなければ気持ち悪くないし、殻や内臓はあまりおいしくないし」


「こんな小さい虫を1匹ずつむいていくのは大変デス。きりがないデス」


「ちょっと訓練すれば、たくさんのバッタを魔法でまとめてむくことができますわ」


「それなら効率的にできるだろうけど、見た目がおぞましい光景になりそう」


「先ほどマホさんが使ってた、気持ち悪さを感じなくなる魔法を使うといいデス」

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