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火種 2

 翌日、私の家の前に飾ってあるフィギュアの間に、私やナノたちのフィギュアが増えていた。誰かが置いて行ったのだろう。なんかフィギュアをここに奉納(ほうのう)しているみたいに見える。


 会議の後にナノに話しかけてみた。


「昨日はあの後討論番組にも出てたね」


「そうなのー」


「ナノとしては人間とロボットが仲良くしてほしいんだろうけど、あの言い方だとロボットを嫌う人を馬鹿にしてると思われるかもしれないよ。逆に対立をあおってないか心配だよ」


「あのときはねー、『ロボットを敵視するのは恥ずかしいこと』という空気を作りたかったのー。そうすればねー、『ロボットが人間を支配する』といううわさに流される人が減るのー」


「そうかもしれないけど、もうそのうわさを信じてる人からしたら暴言だよ。怒り出すかもしれないよ」


「でもこうでもしないとねー、絶対正義党がやりたい放題なのー」


「絶対正義党? ああ、ジャスティス仮面の政党だね」


「あの政党の党員が増えててねー、でたらめなうわさを流しまくってるのー。『ロボットが支配しようとしている』ってうわさもたぶん絶対正義党が出所(でどころ)なのー」


「ああ、いつもでたらめばかり言ってる人たちだよね」


「他にもねー、『ロボットは想定外のことが起きると爆発する』とかねー、『絶対正義党の新しい戦士がマホを始末した』とかねー、『ピコの脳はすでに機械に置き換えられている』とか言ってるのー」


「なんで私がそんなことに。マホも今ここにいるし。あと爆発するロボットって昭和のギャグじゃないかな」


「ロボットを敵視する人がいるとやりづらいのー。早く出ていってほしいのー」


「そういう考えは民主主義ではありませんね」


 そう言って話に割り込んできたのは筧さんだ。さっき同じ会議に出席していた。


「政治をするときは、考えの異なる人の立場も大事にする必要があります。そうしないと弾圧になってしまいます」


 筧さんとは今まで仕事以外で話をすることが無かったけど、こういう話には意外と積極的なんだ。私も筧さんの意見に乗っておこう。


「そうですよね。追い出しちゃいけませんよね」


「あたしは追い出すとまでは言ってないのー。出ていったらいいなと思ってるだけなのー」


「ジャスティス仮面の言っていることはでたらめですけど、その気持ちはまっすぐです。『ロボットが人間を支配しようとしている』と本気で信じていて、それを食い止めようと必死なんです」


「そいつらが人間とロボットを対立させようとあおってるのー」


「彼らを暴走させないためには共感が大事です」


「今日はおっぱいの谷間に汗がたまりますわね」


「彼らが『話を聞いてくれた』と多少でも満足しなければ、不満が募って彼らの同志が増えていくでしょう」


「それは私も同意」


「ピコにそんな谷間があるのー?」


「汗の話じゃないよ! というかマホ、関係ない話で割り込まないで」


「僕は真剣な話がしたいんですよ。鴨川さんの胸に汗がたまるのかどうか」


 汗がこもりがちだとは思うけど、たまるほどの谷間は無い。どう答えるのが適切だろう。考えていたら筧さんが先に言った。


「冗談だよ、変な事言ってごめん」


 しまった、筧さんは私のツッコミを期待してたのに、私は真面目に考えてしまった。ここは別の切り返しをしておこう。


「マホの大きな胸よりも私の胸のほうが気になるんですか? うふふ」


 筧さんは笑って流した。えっと、何の話をしてたんだっけ。話が途切れた。


「筧さんは『楽園の先導者』の称号をお持ちでしたわね。機会がございましたら楽園の役員になるおつもりはございまして?」


「気にはなりますね。ただ、これから400万人が暮らすことになる街の命運を握る仕事ですから、果たして僕がなってよいものなのだろうかという疑問も感じています」


「『楽園の先導者』は役員になる資質があるという称号なのー」


「その判断をしたのはレベル評価システムですけど、そのシステムは楽園の一部の人たちで作ったものですよね。僕がみんなの承認を得ているわけじゃない。そこに公平性があるのかどうかが疑問なんです」


 システムを設計するときは出来るだけ私情を排除するようにしたから公平だと思ってたけど、一般市民からしたら「知らない所で勝手に決められたルールで評価されてる」と感じるということかな。


「というと、選挙をするのが理想なのでしょうか?」


「そうですね、役員選挙があるといいなと思ってます。そうすれば誰もが楽園の経営に参加している感覚を得られるので、より前向きな気持ちになるでしょう」


「なるほどなのー。でもねー、無責任な人に経営権を渡すかもしれないのは怖いのー。あたしには将来のビジョンがあるのー」


 それは私も嫌だ。無責任な人が当選しないようにするにはどうしたらいいだろう。


「目先の利益ばかりを競い合う選挙になったら困るよね。どうしたら投票する人が将来のことをじっくり考えるようになるんだろ」


「投票してから10年後に当選するようになされば、皆さん10年後のことを考えて投票なさいますわ」


「10年後を見据えた計画に取り組み始めるのが10年後になるから駄目だよ!」


 いい案は出ず、なんかもやもやした気分が残った。




 帰宅してみると、私のフィギュアの前にお菓子が置いてあった。これはお供え物? 私ってお地蔵さんみたいな存在? とりあえず写真に撮ってSNSにアップしておこう。


偶像崇拝(ぐうぞうすうはい)はよくないデス」


 サフィーヤさんからのコメントだ。なんか論点がおかしい。


「いや偶像かどうか以前に、私が崇拝されているのがおかしいんだけど」


「ピコさんはこの街の住民全員を幸せに導くすごいお方デス。(あが)(たてまつ)るのは自然デス」


「みんな私を買いかぶりすぎだってば!」


 翌日、私のフィギュアの前には外国の硬貨が置かれていた。これはお賽銭(さいせん)? なんか私がますます信仰されてない?

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