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火種 1

 三月になった。居住エリアは北西部からどんどん広がってきている。居住エリアを広げる工事と同時にソーラーキャッスル中心部の商業エリアの工事も結構進んでいる。


 ソーラーキャッスルの人口は一気に増えて5万人くらいになった。その半数近くは楽園建設に所属する建設作業員だ。錬成魔法を習得してモーリタニアに移住する建設作業員を集めることだけでは(まかな)いきれず、他の建設会社に所属する建設作業員が徐々に増えてきている。彼らは工事が終われば祖国に帰ることになる。


 魔導石を作る人員も世界各地で増やしているので毎月2万個ほど生産できるようになっていて、そのおかげもあって楽園の年間売り上げは4千億円くらいまで増えている。しかしそれ以上にたくさんの人員とお金を投入して建設を進めているので借金もどんどん膨らんでいて、残高が12兆円ほどになっている。稼ぎなんて焼け石に水だ。


 仕事はたくさんあるのだけど、人手もお金も少ない。なので建設作業だけでなく調理や清掃など、街の隅々にまでロボットの導入が進んでいる。その大多数は心を持たないレイバロイドだけど、メカナノのような心を持つピアロイドを街で見かけることも増えてきた。


 そういえば最近メカナノがやたらと張り切っていた。ソーラーキャッスル内に放送局ができ、そこに勤めることになったそうだ。確かもう放送が始まっているはず。私はテレビをつけてみた。


 プロトキャッスルのお店にメカナノがいる映像が映った。なんか見たことがある。思い出した、メカナノが配信している広報動画だ。以前からたくさん配信している動画をダイジェスト版にしてテレビで放送しているようだ。できたばかりの放送局は人手も予算も無いから既存の動画を有効活用しているのだろう。


 あれっ、私が映ってる。メカナノと一緒に養鶏場に行ったときの映像だ。私の裸の場面はカットされてたのでよかったけど、なんか恥ずかしい。


 ダイジェスト映像が終わってメカナノが映った。右上に「ソーラーキャッスル情報局」という番組ロゴが映っている。


「はいっ、うちのこれまでの映像、いかがやったやろか。見せたい映像はようけあるんやけど一旦置いといてな、ここからはソーラーキャッスルの今をお届けしていくで」


 メカナノが英語でしゃべって関西弁の字幕が表示されている。テレビの設定で字幕の言語を切り替えられるようになっている。


「ここはみんなの暮らしてる住宅街の通路。どこも同じ作りでつまらん思うてる人もいるやろうけどな、最近おもろなってきてるんや」


 たくさんの風景写真が貼られた壁が映った。


「それがこれ、玄関先アートや。自宅の玄関先の壁は自分の好きにしてええさかいな、こうやって自分の趣味で壁を飾るお宅が増えてんねん」


 パッチワークと刺繍(ししゅう)で飾られた壁が映った。


「このお宅なんてえらい可愛らしいわ。ここの住人の手作りなんやろか」


 フィギュアの並んだ壁が映った。これ、私の部屋の壁だよ!


「ここのお宅は別な意味で可愛らしいわ。アニメオタクのお宅なんやろな。オタクのお宅。うちなんかおもろいこと言うた」


 英語で言ってるからおかしなことになってるよ。あれ、部屋の外から何か声が聞こえる。これって生放送?


「せっかくやからうちのフィギュアも並ばせてもろとこ」


 メカナノはナノのフィギュアを棚に置いた。私が玄関のドアを開けてみると、やっぱりメカナノと撮影スタッフがいる。


「メカナノ、何やってんの」


「あ、ピコさんやないですか。ここピコさんのお宅やったんですか。どうりでこないなアニメ趣味なわけや」


「メカナノは私の家に来た事あったよね」


「この可愛らしい空間にうちも混ざりたくなってな、うちのフィギュアを混ぜてみたんですよ。どないでっしゃろ」


「私の家に勝手な事しないで」


「ピコさんのフィギュアも混ぜたらええ感じになるんやないでしょか」


 メカナノはかばんから私のフィギュアを出して並べた。


「何で私のフィギュアを持ち歩いてんのよ。あとそれはメカナノのフィギュアじゃなくてナノのフィギュアだよね」


「ナノさんはうちと外見が一緒やから、ナノさんのフィギュアはうちのフィギュアでもあると思うんですよ」


「フィギュアは外見だけじゃなくて仕草とかも表現してるよね」


「ナノさんの仕草もできまっせ。あたしはナノなのー!」


 メカナノは両手を挙げてぴょこぴょこした。するとメカナノの背後でドアが開いてナノが現れた。メカナノが振り返った。


「あたしはナノなの……うおわあぁ!! びっくりした、ご本人さんやないですか。なんでそないなとこから現れはるんですか」


「ここはあたしの家なのー。ピコの家の向かいって教えたはずなのー」


 テレビであっても下調べもせずアポもとらず、無軌道っぷりは健在のようだ。その後メカナノはナノと一緒に近所の玄関先アートを紹介してまわった。


 しばらくして別の番組「徹底討論 現代社会」が始まった。いきなりマホが映った。いや違う、よく見たらメカマホだ。メカマホも最近東京からソーラーキャッスルに引っ越したと聞いていたけど、このテレビ局のプロ出演者はメカナノとメカマホしかいないのだろうか。


「こんにちは、ピアロイドのメカマホです。ここソーラーキャッスルでは多くのロボットも暮らしてはります。人とロボットが共存する中で、摩擦もちょこちょこ起きるようになってきました。人とロボットの関係はどうあるべきでしょか」


 メカナノの番組とは打って変わって硬派だけど、ロボットとの関係性をロボットが語るというのもシュールだね。


「今日は楽園マーケティング部のピアロイド、アキコさんをお招きしております」


「初めまして、アキコと申しますの」


 ロボットとの関係性の問題をロボット同士で討論するつもり!?


「アキコさん、人とロボットとの間にどないな問題があると思うてはりますか?」


「はい、このままロボットが様々な仕事をするようになってまいりますと、将来は人間の立場が無くなるのではないかと思われている方々がおられますの」


「ああ、『ロボットに乗っ取られる』言うてはる人間、いてはりますね」


 このテレビ局が既にロボットに乗っ取られているみたいな状況なんだけど!?


「私たちロボットは人間の生活を良くするために作られましたの。そのために必死で働いていますの。乗っ取るはずなどありませんの。でもそんな私たちを敵視する意見があちこちから上がってきますの」


 VTRが流れた。市役所へのお悩み相談やネット上の書き込みなどから、多くの人がロボットに不安や腹立たしさを感じていることがわかる、というものだ。


「なるほど。人間に親身になって寄り添って働いてはるのに、(うら)みや嫌悪の言葉がぎょうさん寄せられる……つらいお仕事ですな」


「敵意はたまに劣等感の裏返しなのー」


 スタジオにナノが現れた。メカナノもいる。


「さっきからナノさんがずっと撮影について来はって、とうとうテレビ局まで来てもうてましてん」


 ほかの番組にまで乱入するなんて、ナノはほんと図々(ずうずう)しい。


「考えてほしいのー。『ロボットは人間より劣っている』と見下してる人がねー、自分より仕事ができるロボットに仕事を奪われたらどう感じるのー」


「『人間の性能を超えるロボットが現れた』と思うか、『何かずるをして職場に入り込んできた』と思うかですの」


「『自分より優れたロボットがいる』という考えはねー、自分のプライドを傷つけるから考えたくなくてねー、無意識に除外するのー」


「そないなわけで『ロボットが悪意を持って人間を支配しようとしている』という考えになるわけですか。なるほどわからへんこともないですな。せやけどまとめると『自分が劣っていることを認めたくないから侮辱(ぶじょく)する』ちゅうことですやろ。ずいぶん自分勝手な言い分ちゃいますか」


「そうなのー、こんなこと言う人は心が狭いのー。でもねー、本人は本当の事に気づいてなくてねー、ロボットが人間を支配しようとしていると信じてるのー」


 そう信じている本人が聞いたら怒るよね。ナノってば、どうしてそんなに周りにケンカを売るような話をするかな。


「我々ロボットはどないしていくべきでしょう」


「偏見というものは相手をよく知ることで無くなっていくものですの。私たちが人間に積極的に関わって親切にしていくことで、きっと相手も悪意が無いと理解してくださるようになりますの」


「なるほど。この番組をご覧のロボットの皆様にも大変参考になることかと思いますな」


 ロボットのための番組だったの!? 話の内容は融和を目指してるんだけど、端々で「ソーラーキャッスルは人間よりロボット優先」みたいな印象を与えまくってるよ!


「今後ロボットがますます社会に進出いていきましたら、重要な仕事や花形の仕事をロボットが行うっちゅうことがあるかもしれません。それがロボットと人間の対立につながらんよう、うまいことやっていく心構えが必要になってきますね」


 そんな将来の話じゃなくて、たった今この番組で花形の仕事をロボットがやってるから! さっきから対立の火種をまき散らしまくってるよ!


 この後も番組はどう転ぶかわからない生放送で続いていった。

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