自動人形 2
SNSでナノにこれまでのことを伝えると、ナノから「作戦会議なのー。月曜に会うのー。マホとリンを連れてきてほしいのー」と連絡が来た。
月曜日。リンを抱えたマホを連れて大学の空き教室に行き、ナノに会った。
「へー、その子がリンなのー。あたしはナノなのー、よろしくなのー」
ナノが近づくと、リンは机にぴょんと飛び乗った。
「おお、かわいい娘じゃのう。こちらこそよろしくじゃ、仲良くしようぞ」
リンの態度が意外と素直だ。なんか私のときと違う。ナノの見た目が子供だから親近感があるのかな?
「おー、ほんとに自然にしゃべるのー。ピコ、この子いくらで売れそうなのー?」
「えっ!?」
仲良くするどころか、いきなりお金に変えちゃうの?
「なんじゃと! わらわを売り飛ばすつもりか!」
「リンは売らないのー。もしオートマタをたくさん作ったら商品になるかどうか聞いてるのー」
そういうことか。でも値段なんて考えたことなかった。
「うーん、値段はぱっとはわかんないな。ちょっと考えてみよう。まず、言葉を理解する能力についてはAIよりも優れてるから、その点については何十万円……いや何百万円……?」
「この子、役に立つのー?」
リンはずっと私やマホと遊んでただけで、まだ役に立ったところを見ていない。マホが口をはさんだ。
「わたくしの世界では、魔法使いはよくオートマタを小間使いとして住まわせるものでしてよ」
「そっか、家事に使ってたのか。でもこの世界だと家電があるから……。じゃあ、会社とか工場とかで単純な仕事を任せられるかも」
「マホの世界だとねー、魔法使いしかオートマタを使わないものなのー?」
「そうですわ。オートマタを動かすには魔法使いが毎日魔力を込める必要があるものでして」
「だめじゃん! この世界だと全然売れないよ!」
「このままだと売り物にならないのー」
このままだと? このままじゃなければ大丈夫? そっか、この世界で使うためには改造が必要ってことか。
「電気を魔力にすることができたよね。電動にしたら売れるかも」
そう言うと、マホが考え込んだ。
「難しいですわね……。魔法使いが魔法をかけなければ、電気を魔力にすることはできないと思いますわ」
だめか……いやまてよ、オートマタの動力は本当に魔力である必要があるのかな?
「もしオートマタの体を全部ロボットとして作ったら、そこは電力だけでいけるよね。問題は頭脳。オートマタが考えたりしゃべったりするのも魔力を使ってるんだよね?」
「ええ。オートマタの中には魔術回路という部品がございまして、魔力を使ってものを考えていますわ」
「じゃあ、もし魔術回路と同じ仕組みを電子回路で実現できたら……」
「そしたら世界中に普及しそうなのー。でも、実現できそうなものなのー?」
魔術回路の仕組みがわからなければできるかどうか判断しようがない。私の沈黙にマホも沈黙した。マホだって、電子回路の仕組みがわからなければ判断できないのだ。
「魔術回路の中枢部にある思考を司る部分はLSIの設計からやらねば代用できぬじゃろうがのう、インターフェースは既存のコンピューターで代用可能じゃ」
……と沈黙を破ったのは、リン!
「ええっ、なんでリンにそんなことがわかるの?」
「当然のことじゃ。ピコの持つ科学の知識もマホの持つ魔法の知識もわらわは受け取ったのじゃ。魔術回路の仕組みも電子回路の仕組みも知っておるから両方を比べることができるのじゃ。片方しか知らぬそなたらにはわからぬことじゃろうがのう。ほっほっほっ」
マホは知識を解析する魔法を自分にもかけてたんだ。あれ、ということは……
「知識を解析する魔法を使うと二人の知識を一つにまとめることができて、そうすると二人ぶんよりもっと優秀になるってこと? じゃあ世界中の人の知識をまとめたら、人間が足元にも及ばないくらい優秀になるんじゃあ……?」
私の言葉に、またマホが難色を示した。
「わたくしがリンを連れて世界中の人にお会いするなんてできませんことよ」
「いや、魔導石をたくさん作って、たくさんの人に魔法を教えればいいんだよ」
「そうしますと、たくさんのオートマタにそれぞれの持ち主が自分の知識を与えることができますけど、いかにすればその知識を一つにまとめることができますかしら?」
「魔術回路を電子化できるってことは、その中の知識はデータ化できるってこと。世界中からデータを集めるなら……」
「「「インターネット!」」」
私とナノとリンの声がハモった。
「これは売れそうな気がしてきたのー! 1体数千万……いや100万円、頭脳だけなら40万円で世界中のできるだけたくさんの人に売ってねー、たくさんの知識を集めるのー!」
ナノが興奮している。私も気持ちが高揚している。
「そしたら、どんな難しい仕事も簡単にこなせる究極のロボットができる!」
「わらわが世界一優秀になれば、わらわの天下じゃー!」
気持ちが一気に冷めた。リンに天下をとられるのはごめんだ。
「オートマタやロボットが人間を支配するようになったらだめだね」
「自分の意志や感情が無いオートマタを作ることもできましてよ」
「それなら安心なのー。たくさんの知識を持てるのは欲の無いロボットに限るようにするのー」
「なんじゃ、皆して。わらわが優秀になってはいかんと申すか!」
私もナノもマホもうなずいた。リンが信用ならないのは共通認識のようだ。
ナノが椅子から立ち上がり、ぱんと手をたたいてから両手を広げた。今日の作戦会議の本題に入るようだ。
「オートマタを研究すればすごいロボットができるのー。きっと他にもねー、いろんな魔法を研究すればいろんな商品ができるかもなのー。いろんな研究をするためにはねー、たくさんの先生の協力が必要なのー」
ナノはカバンから紙を取り出した。その紙にはこう書かれていた。
異世界の魔法使い現る! 魔法発表会開催
これってナノが作ったチラシだ!
「来週の月曜に講堂を借りて発表会をするのー。これでたくさんの先生にまとめて魔法を説明できるのー」
「誰が説明するの?」
「ピコとマホ、二人でよろしくなのー! あたしは二人のために会場の手配と宣伝をしてあげるのー」
「えーっ! なんで勝手に決めちゃうかなー!」
「あらあら。わたくしにできますかしら」
ナノって昔からこう。何か思いついたらすぐに行動に走って、相手の都合なんて全く気にとめない。これに何度振り回されてきたことか。