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メカナノ生配信 2

 翌日、メカナノの部屋を訪ねた。インターホンを押すとすぐに出てきた。


「なんや、えらい普通に来はりましたな」


「天井裏から来たりはしないよ。良識ある大人だから」


 中に入ると、私の部屋と同じ2DKの間取りだった。家具類も普通だ。


「改装とかしてなくてそのまま使ってるね」


「正直、キッチンとトイレはうちにとって何の役にも立ちませんねん。でも部屋が十分広いんで、わざわざ撤去する必要も無いと思いましてな」


 キッチンには冷蔵庫も食器棚も無く、がらんとしている。


「ただベッドだけは充電器付きのものに換えさせてもらいましたわ」


 ロボットは背中にコイルが埋め込まれていて、充電器の上にコイルが来るように仰向(あおむ)けに寝ることで非接触型の充電をする。なのでロボット専用の充電器付きベッドが必須なのだ。


 部屋の真ん中にはゲーム機が置いてあり、カラーボックスにはたくさんのゲームソフトが並んでいる。ゲームソフトがゲーム機の近くに散らばっていて、ロボットの部屋と言うには人間味を感じる。


「ゲームが好きなんだ。どんなゲームやるの?」


「アクションとかシミュレーションとか好きでっせ。ゲームの腕前も(みが)いて、いつかゲーム実況動画やりたいですねん」


「いつの間にかネット活動が仕事だけじゃなく趣味にもなってきたね。でもロボットってゲームで失敗しなそうなイメージがあるから、ゲーム実況は人気出ないかもね」


「そら普通にプレイしてもつまらんですがな。視聴者が見ておもろいことせな」


「どんな?」


「ガンバトルやったら味方をおとりにするとか、街づくりやったら住宅地のそばでダムを壊すとか」


「ひどっ!」


「人間を翻弄(ほんろう)するロボットってウケると思いません? 『お前何のために作られたんや』って」


「私、今までロボットやオートマタに翻弄されてきた気がするけど」


 メカナノが人間っぽく暮らしているのを見て、なんか安心した。


「ほんと、メカナノの生活って人間と変わらないね」


「食事はしませんけどな。でもこの部屋もそうですし、仕事とかお金とかでも人間と同じ待遇してもろうて、ほんまありがたいことです」


「ピアロイドには心があるから人間と同じように扱わないといけないもん」


「それですよ。ピアロイドや心があるオートマタに対してピコさんが人間と同じように接してはるのを見はって、周りの皆さんも人間のように接しはるようになったんやと思います」


 私が気づかないうちに私の態度がピアロイドの待遇を良くしていたんだ。


「たとえ相手がロボットでもボケたらツッコまなあかん、いうのが浸透したんはピコさんのおかげです」


「ツッコミだけか――い!」


 漫才風に裏拳でびしっとツッコんだ。メカナノはゲーム実況なんかよりお笑いのほうが向いてるんじゃないかな。


「うそうそ。ピコさんの振る舞いはあらゆる方面でいい影響あってまっせ」


「だといいんだけど。それにしてもメカナノって、発想がお笑い芸人だよね」


「うちのお笑いテクニックは、実はええ知識データをダウンロードして使(つこ)うとるんですわ。なんと、日本を代表する大御所漫才師8組!」


「ええっ!?」


「をリスペクトしてやまない駆け出し放送作家の知識データですねん」


「大した事ないじゃん!」


「……ちゅう話芸ができる知識データなんですわ」


 なるほど、知識データは人工知能の能力向上にずいぶん役立っているようだ。簡単に能力を上げられるロボットがうらやましい。


 そのあと私たちは13階の植物工場に行った。ここでも白衣を着て厳重に消毒する。


 中に入ると赤紫の照明がついていて、スチールラックが所狭しと並んでいるのに圧倒された。5段あるラックにはびっしりとレタスが植わっている。


「すごいね。種まきから収穫まで全部機械でやってるんだよ。畑に植えるのに比べて水を95%節約できて、すごく効率いいんだよ」


「ピコさん一人で興奮してはりますな。なんぼ効率ええ言うても、うちには棚に草が生えてるだけにしか見えへんのですよ。絵面(えづら)が地味ですわ」


「すごいたくさんのレタスだよ。プロトキャッスルで暮らす人たちが毎日食べる野菜が全部ここで育つんだよ」


「うち食事できへんさかい、食べ物の話題されてもどうもな……。ええ映像撮るために、この施設利用してなんか派手なことしましょか」


「昨日は餌をぶちまけてひよこまみれになったけど、あんな事わざとやっちゃだめだよ。せっかくこんなに清潔に育ててるのが台無しになっちゃう」


「うちが利用するんはこの棚やレタスちゃいますで。このピンクの照明ですねん。レッツ・ストリップ!」


 メカナノは床に寝転んで体をくねらせ始めた。だぼだぼの白衣がイモムシっぽい。


「メカナノがストリップしてもひんしゅくなだけだよ」


「ちょい待ちー! ツッコむなら『ここで白衣を脱いじゃだめでしょ』ですやんね! なんでうちの魅力を否定しはるんですか!」


「あははは、怒るメカナノはいい絵面だよ」


 植物工場を出てから41階の集会場に行って撮影した。天井の高い広間のそばに教会とお寺とモスクが並んでいる。


「建物の中やのに教会とかには屋根があるんですね」


「屋根としての役割は果たしてないけど、一目見て教会やお寺ってわかるでしょ。こういうのはそれっぽさが大事。お参りしようか」


 メカナノと一緒にお寺に入った。


「ほんまにそれっぽい作りになってますな。めっちゃ住職っぽいツルツル頭の人までいてはりますよ」


「本当の住職に移住してもらったんだよ」


「ほんまやったんかー! ほんなら突撃取材や!」


 メカナノはカメラを構えて住職のもとに走っていった。


「こんにちは、メカナノです――! 住職さんに質問! うちらロボットは死んだら生まれ変わりますか?」


 それは私が答えよう。


「スクラップになって金属やプラスチックに再生されるよ。特に金とかレアメタルとか……」


「ピコさんに聞いてませんねん! うちの体やなくて(たましい)が生まれ変わるか聞きたいんですよ!」


 住職は動揺しつつも優しく答えた。


「そうですね、心のあるロボットの死は新しいことですので、きっと今頃地獄では閻魔(えんま)様たちがロボットの魂をどう裁くか話し合っておられることでしょう」


「ニューロコンピューターにデータとしていくらでもコピーできる心に魂なんてあるのかな」


「せやからピコさんには聞いてへん言うてますがな!」


「誰もがピコさんのように割り切って考えるわけではありません。魂があるかどうかわからずとも、魂があると感じられるなら魂があるものとして扱わねばなりません」


 こうしてプロトキャッスルのあちこちを紹介する生配信は結構いい視聴者数を稼いだ。後日編集されたダイジェストはもっとたくさんのアクセスがあり、評判も良かった。プロトキャッスルがどんな場所なのか、世界から注目されているらしい。

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