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経済システム 1

 サフィーヤさんと一緒に政策を考える会議を毎日私の部屋ですることになった。


「素敵なお部屋デス」


「サフィーヤさんの部屋と一緒の間取りだよ」


「飾り気がなくて、物の配置がすっきりしてるデス。機能美を感じるデス」


「無駄が嫌いだからね」


 まず、ソーラーキャッスルの経済のしくみについて今まで考えたことをまとめてみた。


 ソーラーキャッスルでは仕事の多くはロボットがやるから、人間のやる仕事は少なくて全員分の仕事は無い。だから働かなくても生活に最低限必要な衣食住は無料で手に入るようにする。物はなるべく個人で所有せずにみんなで共有するようにする。


 そのうえで、人間がやらなくてはいけない仕事はなるべく楽しくできるようにする。仕事が終わってその商品やサービスが社会に出回ったら、一般消費者が「いいね」を押す。「いいね」の数などの評判と、日報など普段の働きぶりがわかるデータを人工知能に入力して、それぞれの仕事ぶりを評価する。そこで「魅力レベル」や「能力レベル」といったレベルが判定される。レベルはスマホとかで誰でも見ることができるようにしておいて、みんなはレベルを競うことで仕事のやる気を出す。


 レベルが上がるとお金がもらえる。お金は輸入品や高級レストランなど贅沢(ぜいたく)なものに使うことができる。図書館の中で本を読むのはお金がかからないけど、お金を出せば借りたり買ったりできる。


「じゃあ何から考えていくデスカ」


「そうだね、共有するものにはどんなものがあるか考えていこうか」


「自分で持っていなくても、自由に使える共有のものがあれば幸せになるものデスネ。ピザを焼く(かま)デス」


「サフィーヤさんって自分でピザを焼くの?」


「そんなことないデスけど、もし自由に使えるのならチャレンジするかもしれないデス」


「なるほどね。確かに個人だとなかなか買えないけど、あってもほとんどの人は興味ないだろうね。もっとみんな欲しがるものは無いかな」


「車デス」


「あー、車は確かに高価で場所もとるから、個人よりみんなで持っていたほうが効率いいね。でもソーラーキャッスルの中で暮らしていたら車は必要無いし、外の鏡エリアや畑で働く人が使うんだったら仕事道具だから経費で買うものだよね」


「趣味でたまに乗る人のためにレンタカーがあるといいデス。そういうピコさんは何があれば幸せデスカ?」


「マシニングセンタ」


「何デスカ、それ」


「金属を削る機械なんだけど、図面を入力すると全部自動で削ってくれて、欲しい形に仕上げてくれるんだよ! 錬成魔法じゃ絶対できない精密さだよ! 高すぎて個人じゃ絶対手を出せないけど、あったら絶対楽しいよ」


「それこそほとんどの人が興味ないものデス!」


「せいぜい3Dプリンターくらいにしておくべきかな。何があれば幸せかみんなに聞いてみようか」


 社内SNSでみんなの意見を聞いてみたら、すぐに返事が来た。


「綿あめを作る機械が欲しいぞ」


「プロが使う登山装備ッス」


「我は水晶のドクロを所望(しょもう)する」


 だめだ、これっぽっちも欲しくない。


「自分が欲しいけど買えないものを共有しようとしても、他の人にはあんまりありがたみが無いね。というか鈴木のために水晶のドクロを買うのは避けたい」


「マシニングセンタがあれば水晶のドクロを作れるデス」


「そうかもしれないけど、でかい水晶自体が高いよ!」


「魔法で水晶を作るデス」


「そっか、砂漠の砂の石英成分を結晶化させたら水晶ができるかも……って、水晶のドクロのためにそんな研究はしないよ! それより、普通は個人で買うものだけど使う頻度(ひんど)の低いものにしようか」


「バランスボールがいいデス」


「そうそう、運動しようと買ってみたけど続かなくて結局放置……って、使う頻度が低いのは挫折(ざせつ)したからだよ!」


 私のバランスボールは実家の天井の隅に挟まったままになっているはずだ。


「みんなで共有しておけば、自分に合う運動器具が見つかるまで色々試せるデス」


「なるほど、図書館みたいに1週間だけ借りられるようにしておいて、気に入ったら買えるようにするといいかもね」


「そうそう、買えるけど使う頻度の低いものといったら、服がいいデス」


「私は服は毎日着てるよ。サフィーヤさんは服を着ない日があるの?」


「無いデス! そうではなくて、買ってもあまり着ないままになっている服がたくさんあるってことデス」


「私はいつも同じような服をローテーションで着てるから、あまり着ない服なんてそんなに無いよ」


「そういえばピコさんは夏はしょっちゅう緑の(そで)なしを着てたデスネ」


 私はおしゃれに興味のない地味キャラだから服をあまり持ってない。サフィーヤさんはいつもメルファハという民族衣装を着てるから、いつも同じ印象に見える。


「そんなにたくさん服を持ってるの?」


「気づかないかもしれないデスけど、毎日ちょっとずつ違うメルファハを着てるデスヨ。そういえばピコさんはあのバニースーツをいつも着てるデスカ?」


「着るわけないでしょ。ずっとしまってるよ」


「もしあのバニースーツを共有物にして、誰かほかの人が必要になった時に借りられるようにすれば、しまってるより役立つデス」


「バニースーツが必要になる状況が思いつかないし、私が使ったものを変態が借りていきそうで嫌だな」


「まあバニースーツだとそうデスけど、たくさんのおしゃれ着をしまったままにしている人もいるということデスヨ。毎日違う印象の服を着たい人にとっては服の共有はすごく便利デス」


「なるほどね。その方針いいかもね」


「借りた服は洗って元の場所に返すデスカネ」


「クリーニング屋さんがまとめて洗うほうが、品質を一定に保てていいと思うな。1週間分の汚れものを店に持って行って、これから1週間分の着る服を借りて帰ることになるかな」


「なんかピコさんの普段のお洗濯の頻度が透けて見える気がするデス。私なら2日に1回くらいは通いたいデス」


「そう考えると結構面倒だから、私は服の共有なんてしなくていいや」


「科学技術で面倒を解消できないデスカ」


「そんな軽々しく言われても、科学は魔法じゃないんだから……」


「魔法でもいいデス」


「ごめん、魔法でもそんなに軽々しくはできない」


 店に通う面倒を無くすというということだから、ロボットに代わりに行ってもらうことになるだろうか。でもロボットは全部の家庭にいるわけじゃない。そうだ、店に通うんじゃなくて店からロボットが配達するようにしたほうが効率的だ。ネットで注文した服を家庭に届けて、同時に汚れ物を回収する。でも全部の家庭に届けるのは相当な大荷物になりそう。できるのかな?


「ロボットが服を各家庭に配達するという方向で、あとで考えてみるよ」


「助かるデス」


 そのあと、服のように共有すると便利なものを話し合ってみた。スポーツ用品、楽器、おもちゃ、ベビー用品、介護用品。結構な値段がするわりに使う時期が短かったりするものは結構あるものだ。


 毎週違うおもちゃを借りられたら、おもちゃで飽きることが無いから子供にとって幸せだね。それか、たくさんのおもちゃで遊び放題の部屋に子供が集まってもいい。いろんなおもちゃで遊ぶ中で気に入ったものを買えるようにすれば、おもちゃメーカーにとってもありがたいだろう。


 サフィーヤさんが帰った後、SNSのさっきの質問にまた返信が来ていた。


「あたしは回転ずしのレーンが欲しいのー」


 確かに個人では買えないものだけど、それ借りてどうすんのよ! 子供のおもちゃにするには高すぎるよ!


 一通りツッコミを返信してから、ふと気になった。この選挙でナノとは対立することになっちゃったんだよね。でもナノはこっちの政策検討にこうやってアイデアを出してくれた。どういうつもりだろう? 尋ねてみよう。


「なんで私たちの政策検討にナノが協力してくれたの?」


「選挙で対立しててもねー、ピコはあたしの親友なのー。ピコとはこれからも仲良くしたいしねー、ピコの政策もいいものになってほしいのー」


 そっか、私たちは親友だよね。うれしいこと言ってくれる。


「そうだね、私もナノと仲良くしていきたい」


 でも「回転ずしのレーン」は何の参考にもならないけどね。


「ずっとずっと親友なのー!」


 ん? ひょっとして、私がナノを嫌いになったかもしれないと心配されてた?


「私はナノを嫌いになったりしないよ」


「ありがとうなのー!」


 それから、ロボットによる配達のしくみを考えることにした。


 ロボットがグランドシャフトの螺旋(らせん)エスカレーターに乗って配達をすると考えると、荷物を背負って乗ることになるだろうか。でもそれだとあまり多くの荷物を運べないので頻繁に往復することになる。じゃあ台車を押す? いや、エスカレーターの段から台車がはみ出すから危険だ。


 ソーラーキャッスル内には車が通る坂道が1か所あり、どの階にも行くことができる。トラックでその坂道を通って配達する? いや、坂道から2キロくらい離れた家もあるから、ある程度のスピードを出さざるを得ない。家の前の通路をそんなトラックが通るのは危険だし人が通行の邪魔になる。


 トラックほど大きくなく台車よりは大きい車、つまり一人乗りの車ならそんなに邪魔にならないかな? ロボットが運転するから、ある意味自動運転車だよね。というか、ロボット要らなくない? 自動運転するニューロコンピューターと荷物の出し入れをするロボットアームが車に付いていれば配達は問題ないんじゃないかな?


 そういうロボット小型車が配達するんだったら、グランドシャフト内に専用通路を作ったらどうだろう。幸い、ソーラーキャッスルのグランドシャフトはプロトキャッスルのものより太くする予定で、内部の設計にはまだスペースの余裕がある。1メートルくらいの自動運転の小型車両が通れる螺旋状の坂道を作ることもできそうだ。


 うん、ロボットによる配達は大規模に行うことができそうだ。これなら服とか通販だけじゃなくて毎日の食事も配達できるかもしれない。食品工場でまとめて作った弁当を届けて、同時に弁当箱を回収して繰り返し使うわけだ。

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