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周辺地区構想 1

 ソーラーキャッスルの設計が具体的なものになりつつあるけど、1つ気がかりなことがある。空港など、ソーラーキャッスル内に収められない施設についてはまだ検討していない。ソーラーキャッスル周辺がどうなってるかによって、ソーラーキャッスル内の設計が変わってくることも考えられるので、そろそろ考えておいたほうがいいと思う。


 お風呂でその話をしてみた。


「そのあたりもまずはピコが考えてほしいのー」


「やっぱりそうなるか。そんな気はしてた。うーん、ソーラーキャッスルの周りって何があるかな」


「砂漠と海なのー」


「それは今の状態でしょ。そうじゃなくて、これから何が必要かって話。まず太陽熱発電の鏡でしょ、それから畑。空港も必要。あと墓地も」


「ゴルフ場もソーラーキャッスル内に含めなかったわよね」


「そうそう、そういういろんなスポーツのできる広い公園」


「その公園には木がたくさん植わっていてほしいデス。建物の中で木を育てるのは限界があるデス」


「その……ソーラーキャッスルの外にあるべきかわかりませんけど、提案してよろしいかしら?」


「いいよ、何でも」


「キャンプ場ですわ」


「そりゃあ屋内よりも外にあったほうがいいね」


「砂漠でキャンプは死者が出そうだぞ」


「あ、そうですね。かなり玄人(くろうと)向けのキャンプ場になりそう。他に必要な施設といったら……」


「製鉄所なのー」


 全く予想外の意見がナノから出てきて、私はきょとんとした。


「え? なんで?」


「ズエラット鉱山から鉄鉱石がモーリタニア鉄道に乗ってヌアディブに来てるのー。せっかく鉄鉱石があるからねー、この近くに製鉄所を作るのー。太陽熱発電の鏡を作るのに鉄がたくさん必要なのー」


「なるほど。製鉄所には広い敷地が必要だから、確かにソーラーキャッスルの外にあったほうがいいかも」


「ヌアディブからも通いやすい場所に造るのー。鉄鉱石の輸出の仕事が減るからねー、その人たちに製鉄所で働いてもらうのー」


「よその街の産業構造まで変えちゃうんだ!」


「鉄を作るには鉄鉱石と同じ量だけ石炭が必要デス。鉄鉱石の輸出の仕事が減っても、そのぶん石炭を輸入する仕事が増えるデス」


「それ、べつに石炭じゃなくてもいいんだよ。石炭から一酸化炭素を作って、鉄鉱石の酸化鉄と反応させて鉄と二酸化炭素にするのに使ってるんだよ。酸化鉄から酸素を引きはがすことが出来ればいいんだから、一酸化炭素の代わりに水素でもいいわけ。水素なら太陽熱発電で大量に作れるよ。しかも二酸化炭素を出さないエコな製鉄所にできる」


「面白いのー! 製鉄所の建設にぴったりの立地なのー!」


「太陽熱発電所がある程度本格的に稼働しないと製鉄所が稼働しないことになるわね。そうすると鏡を作るための鉄はそんなに必要無くなるのではないかしら?」


「平気なのー。ソーラーキャッスルの完成を足掛かりにねー、次の建設に使うのー」


 ん? 次って何?


「製鉄所の建設には兆単位のお金がかかるわね。敷地面積も、ソーラーキャッスルと同じくらい必要だわ」


「製鉄会社に交渉して製鉄所を誘致するのー! モーリタニア政府とも交渉するのー!」


 製鉄所の話で盛り上がったので、「ソーラーキャッスルの次の建設」が何なのかを聞きそびれてしまった。




 翌日のお風呂での会議のとき。


「ソーラーキャッスルの周りに畑があるって言ってたのー。何を植えるのー?」


「この近くの特産品っていったら、ナツメヤシとかアブラヤシとかだよね。綿花もあるかな。もっと南のジャングルのほうだとコーヒーやカカオが有名だね」


「そんなのこの近くでたくさん手に入るのー。安く買えるからこっちで作る必要無いのー」


「まあそうか。でも安く買いたたいちゃだめだよ。アフリカとかで業者が農産物を買う値段が安すぎるのが問題になって、『フェアトレード』って運動になったんだから」


 ナノは黙って目をそらした。安く買うつもりだったらしい。


「コーヒーとかカカオとかは輸出用のプランテーションデス。食べるために作ってるのはキャッサバというお(いも)やお米デス」


「えっ、お米を砂漠で作ってるの!?」


「砂漠よりもっと南の、雨の降る場所でデス」


「なんだ、びっくりした」


「必要な食べ物はなるべく自給自足したいのー」


「そうだね、いろんな作物を植えたいね。でも野菜はなるべくソーラーキャッスル内の畑や植物工場で効率よく作って、外の畑は広い面積が必要なものとか、あまり人手がかからなくて済むものとかにしたいな」


「というと何デスカ?」


「穀物だね。麦とかトウモロコシとか。農業機械を使って大量生産できるから」


「大豆もたくさん植えるのー。代用肉や豆乳を作ってたんぱく質も自給自足なのー」


「他に必要不可欠なものといったら、ブドウね」


 委員長がちょっと食い気味に話をはさんできた。


「ああ、いいですね。フルーツも新鮮な採れたてを食べたいですよね」


「『必要不可欠』って言ったのがわからなかったのかしら。ブドウといったらワインにするために決まってるわ!」


「委員長って、どんだけお酒が好きなんですか!」


「あなたたち、お酒が無くても生きていけるのかしら?」


「私はお酒はどっちかというと嫌いなほうなんで、あまり飲みたくありません」


「イスラム教徒はお酒なんてものは飲まないデス」


「私は下戸(げこ)で飲めないぞ」


「信じられないわね。あなたたち、人生十割損してるわ」


「委員長の人生は十割がお酒ですか」


「フルーツはブドウだけじゃなくもっと色々食べたいのー! リンゴやミカンも植えるのー!」


「リンゴは寒い所の果物だよ。暑い所だったらパイナップルとかマンゴーとかじゃない?」


「果物といえばスイカが欠かせませんわ! スイカ抜きには夏が過ごせませんわ!」


「それはずいぶん日本の夏というか、アニメの夏だね」


「私はバナナを食べたいぞ。青いうちに収穫する輸入バナナじゃなくて、もぎたてを食べてみたいぞ」


「あ、それ私も食べてみたいですね」


「まあそんなことよりな、問題はどうやって砂漠を畑にするかだ。いくら水を()いたところで、作物を砂漠にそのまま植えても育たんぞ」


「サハラ砂漠のうち砂の積もった砂丘(さきゅう)は2割も無いデスガ、土のある部分も塩分が多めで、水を撒くと地下から塩分が染み出てきてますます塩分が多くなるデス」


「あちこちに排水路を作れば少しずつ水が抜けるから塩分が()まらないよね」


「それだと土に含まれる養分も流れていってしまうデス。もっと南のほうだと夏に降る大雨のせいで土が()せてるデス」


「肥料で補いたいところだけど、流されすぎないようにしないとね。土の保水力を上げなきゃ」


「使用済みの紙おむつを埋めるのー。水を蓄えることができるしねー、うんこが肥料になるのー」


 ナノってば、またそういう話を。


「確かに紙おむつの吸水性ポリマーは土の保水力が上がりそうだけど、畑が臭くなるよ。吸水性ポリマーはプラスチックの粉末だから環境汚染につながりそうだし。ごみや汚泥を発酵させてバイオマス燃料を作った残りで、なんかベトベトした肥料を作れないかな」


堆肥(たいひ)はそんなにベトベトしてないわよ。でも堆肥を土に混ぜれば保水力が増すんじゃないかしら。吸水性ポリマーも生分解性のものがあるかもしれないし、あとで誰かに調べてもらうといいわね」


「発酵なんかさせずに肥溜(こえだ)めを作るのー! ベトベトした肥料なのー」


「ソーラーキャッスルは科学の最先端かと思ったのに、急に昔っぽくなったぞ」


「じゃあ最先端の肥溜めにするのー。スプリンクラーで撒く水に自動的にうんこが混ざるようにするのー」


「うわあ、なんて浴びたくない散水! それをたっぷり浴びた野菜や果物を食べたい?」


 結局その後決まったことは、自給自足のためにいろんな作物を植えるということと、砂丘の砂に堆肥を混ぜて敷き詰めるということだった。


 後日社内の人に調べてもらったところ、畑に作物を植えていない期間にライ麦などを植えておくという方法があることがわかった。植物が土に根を張ることで土の質が良くなるし、風に飛ばされにくくなる。小麦の代わりに「カーンザ」という穀物を植えるというのも良いそうだ。もっと詳しく調べるために社内に研究チームを作ることにした。どんな作物を植えるかや、どうやって良い土に改良するかを研究してもらうほか、環境アセスメントとしてこの辺りの生態系や環境に及ぼす影響も調べてもらう。

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