ソーラーキャッスル構想 4
ソーラーキャッスルの中心にある商業地区について、そろそろ考えをまとめてみよう。ここにあるべき施設はいくつかに分類される。
まず、専門店。居住地区にあるお店ではカバーできない、たくさんの品ぞろえが必要なものを扱うお店。家電や家具のお店とか、個性の強い洋服屋とか、専門書を扱う書店とか。あと、需要の少ない専門的なものを扱うお店。スポーツ用品店、楽器店、ホームセンター。特定の職業の人向けの専門店も多分要るよね。
個性的な雑貨屋さんも商業地区にあるといい。あ、そうだ、この前アンケート結果にあった、「迷路商店街」も商業地区だよね。雑貨屋さんはその中だろう。輸入した珍しい食品とかもここで売っていてほしいな。
次に、競技場。スポーツを観戦する施設。この前みんなでアイデアを出したよね。サッカー場に、野球場兼クリケット場? それに闘技場。
それ以外に必要そうなスポーツの競技場を考えてみよう。大きな体育館だとバレーボールやバスケットボール、卓球、体操くらいはできそう。陸上競技場は要りそうだ。柔道とかボクシングとかプロレスとかの格闘技は、格闘技場として1つあればいい気がする。テニスは専用のテニスコートが要るかな。ラグビーは……サッカー場か陸上競技場でやればいいかな? いや野球場をどんな球技もできる場所にできないかな? あとで調べよう。
水泳は……観客席付きの大きなプールが必要。高飛び込みの飛び込み台付き。でもそんなに使うかな? 普段は選手たちの練習の場になりそう。
そういえば、屋内スキー場が欲しいとか言ってたな。観戦する施設じゃないけど、こういう大きい施設は商業地区にしておきたい。アイススケートリンクもあったほうがいいか。ボルダリングやスケートボードは居住地区でいいと思う。ゴルフ場……いや、さすがに無理。ゴルフ場はソーラーキャッスルの外にしておこう。
他に何のスポーツについて言われたっけ。そうだ、eスポーツ。eスポーツの大会をするための会場も必要か。いや、それはコンサートとかのイベント会場としてあればいい。
そうそう、そういうコンサート会場とかの文化施設を考えよう。何万人もの観客が入るイベント会場は欲しいよね。そこまで大きくない、数百人規模のホールもあったほうがいい。小規模なバンドや劇団や芸人が活動するような小さいホールはたくさんあったほうがいいかな? それとは別に映画館も要るね。
文化施設といえば、博物館に美術館。1か所に集約することで、すごく広い展示場所を確保できそう。図書館もすごく広くていろんな専門書がそろってそう。
それから、娯楽施設。ゲームセンターとかカラオケとかの小規模な娯楽施設は居住地区にあるだろうから、大規模な娯楽施設……というと遊園地だよね。ジェットコースターとかフリーフォールとか、階をぶち抜いて造るものが多くなりそうな気がする。ナノの言っていたウォータースライダーの出発地点と到着地点もこの遊園地がいいと思う。
ほかに大規模娯楽施設といったら、テーマパーク。どんなテーマにするかによって内容はだいぶ変わる。でもテーマパークっていったら遠くから来る観光客のためのものだよね。住民は1回行けば満足するだろうし、よそからほとんど隔絶されたソーラーキャッスルで成り立つか怪しい。やめておこう。
あとは、私が提案した「大吹き抜け」。居住地区よりは商業地区にあったほうがいいと思うけど、1階から100階までの吹き抜けにできる場所といえば……うん、遊園地にしよう。ジェットコースターやフリーフォールをこの吹き抜けの中に造ればいくらでも高さを確保できるし、スリルも満点。しかも、観覧車が無くてもいい眺めになる。
よし、こんなものだろう。商業地区は、専門店地区、競技場地区、文化地区、遊園地地区の4つの地区に分けることにする。
地下1階から地上4階までは居住地区と同じで、太陽熱発電所やごみ回収施設に、動物園や水族館、道路に駐車場、駅。30階と31階も同じ、動く歩道。27階と28階のフードコートとレストランも、商業地区にもあったほうがいい。他の階はそれぞれの地区ごとの施設になる。
競技場やホールは何階分もの高さがあったほうがいい。サッカー場や大規模イベント会場はできるだけ広い空間がいいから上のほうの階。闘技場と中規模ホールは床や壁を頑丈にしたいから、なるべく下のほうの階がいい。
ここまでを文書にしてアップロードした。これでソーラーキャッスル内の全部の箇所について考えた。これで大まかな方針ができたから、あとはみんながブラッシュアップしてくれるかな。
「すごいのー! 毎日楽しく過ごせそうなのー!」
翌日のお風呂でナノに褒められた。
「400万人が暮らす街にたった1軒の大型書店だとねー、品ぞろえがものすごくいいのー! どんな漫画も売ってるのー! 行ってみたいのー!」
「うん、それは私も期待してる」
「図書館もすごく充実してそうだぞ。調べものがはかどるぞ」
「そうですね」
「書店と図書館はどう住み分けるのかしら?」
どんな本もそろっている書店とどんな本もそろっている図書館があったら、図書館で読めば無料で済む。いい答えが思いつかない。書店は必要無いのか?
「手元に置いておきたい本は書店で買うのー」
ナノが答えてくれたけど腑に落ちない。
「図書館は貸し出しもできるよね。ずっと持っていたい本って何だろう?」
「料理のレシピ本はねー、作りたいときに手元に無いと困るのー」
「ナノが料理するなんて聞いたことないけど、資料として持っておきたい本って言いたいんだね。参考書とかもそうだね」
「人気シリーズの最新刊は発売後すぐにみんな読みたがるぞ。図書館しか無かったら、いつまで待っても自分が借りる番が来なくなるから、借りる順番争いが発売日に起きるぞ」
「図書館で戦争が起きますわね」
そんなアニメもあったけど、そういう理由の争いじゃなかったはずだ。
「この船のラウンジの本棚は無料で本を借りられるけど、うまく機能してるよね。新刊にこだわらなければ図書館だけでもやっていけるかも」
「最新刊は貸し出せないようにしたらいかがかしら。皆さん図書館内でお読みになりましてよ」
「あたしは自分の部屋で寝転がって読みたいのー。図書館で寝転がるのは落ち着かないのー」
「本を読むのに寝転がる必要は無いよ。この船は本棚といい日用品置き場といい、お金の要らない生活を先取りしてるよね。あの本棚を使ってると、本はべつに自分が所有してなくてもいい気がするな」
「ソーラーキャッスルでは贅沢するにはお金がかかりましてよ。発売直後に自分の部屋で読みたい方はお金を払ってはいかがかしら」
「そっか。じゃあ図書館に書店の機能があって、本をその場で読むことも借りることも買うこともできるようにすればいいんだ」
「面白いアイデアだぞ! 一日中図書館にこもって漫画を読み続けられるぞ」
フィオさんはこの船の宴会場でしょっちゅうおへそを出して寝転がってる。図書館にもそういう畳敷きの部屋があって、みんなでゴロゴロ寝転がることになるんだろうか。
「なんか図書館のイメージと違います」
「図書館に威厳なんか持たせても何の役にも立たないぞ。そんな古臭い図書館のイメージなんか捨てて、住民一人一人が心を開いて楽しめる場所にするといいぞ」
心を開きすぎて生活臭を持ち込むのもどうかと思うんだけど。
「ではカラオケを設置しますわ」
「そんなうるさい所で本が読める?」
「自分が楽しければいいってわけじゃないぞ。図書館とも関係ないぞ」
ふと疑問が生じた。図書館がすごく便利になって大多数の人が本を買わなくなったら、その本の作者が困ることにならないか?
「あの、作者がソーラーキャッスルの住人だったら、買わなくても『いいね』を押せば作者に報酬が入るから問題なりませんよね。でも図書館に並ぶ本の大部分は輸入した本になるんじゃないですかね。図書館で読んでも作者にお金が払われる仕組みが必要になりません?」
「1冊読むごとに図書館員が作者を探してお金を払ってまわるのは無理だぞ」
「そこは、電子書籍を1冊買ったのと同じ扱いにするとか。電子書籍と紙の本と両方発売してる本に限られますけど。あ、電子書籍版の無い本は借りることができないようにすればいいんじゃないですかね」
「結局借りるのにもお金がかかることになってるぞ。私は無料で読みたいぞ」
「そこは月額制で何冊でも読み放題とか」
ソーラーキャッスルの評判主義経済は、こういう個別の事例についてももっと考えていく必要がありそうだ。




