ソーラーキャッスル構想 2
ラウンジでコーヒーでも飲みながら、ソーラーキャッスルの全体的な形をもっと考えてみることにした。
以前考えたときは、中心部が商業地区でその周りに居住地区がある、と想定した。そして工場は広さと頑丈さが必要だからなるべく外側で下のほうがいい、と考えた。居住地区には住宅の他にオフィス・学校・店・工場があって、上下に積み重なっていると考えた。
居住地区に他に必要なものといったら? 公園、食堂、病院、集会場。プロトキャッスルよりも子供の数が増えるから、公園は増やしておきたい。スポーツの練習をする場所もたくさん必要かな? あ、スポーツに限らず、いろんなクラブ活動の場所があるといいかも。
じゃあ商業地区は? お金が要らない社会なら「商業」じゃなくて「サービス」かもしれないけど、要は色んな物を手に入れたり楽しんだりするために人が集まってくる場所ってことだよね。居住地区の店だと手に入らないような物を扱う専門店が中心かな。あと、映画館とか、プロのサッカー場とか。博物館とか遊園地もあるといいね。
それにホテル。あ、ホテルは眺めがいいほうがいいから、海に面した西側のほうがいいね。しかもホテルの1階が海水浴場になってたらリゾートホテルっぽい。ホテルには大浴場もあるといい。
海に面した所に他に必要なものといったら、港。客船に対しては出入国手続きが必要で、漁船に対しては魚を魚市場まで運ぶ必要があって、貨物船に対してはコンテナの積み下ろしを……いや、タンカーとかの場合は専用の施設が必要になる。発電で作ったアンモニアを船に積み込むのも専用の施設が要るね。そう考えると必要な施設は船によって違ってくるから、港は海岸線に沿って長い距離が必要になるかな。
アンモニアのタンクは港に近いほうがいい。でも大きな体積が必要だから、なるべく邪魔にならない周縁部がいい。
「アンモニアのタンクが街の中にあったらねー、もし爆発したら臭くて大変なのー」
びっくりした。ナノが後ろから話しかけてきた。紙に図を描きながら考えていたので、アンモニアのタンクの位置に悩んでいたのがばれたんだ。
「もし爆発なんてしたら、臭いどころじゃない大惨事だよ。まあ確かに、アンモニアのタンクはソーラーキャッスルの外にあったほうが安全かな」
ソーラーキャッスルの建物からちょっとはみ出した施設があってもいいかもしれない。
「他にも爆発したら困るものは街の外にするのー」
「何があるかな? 爆発したら困るものって」
「肥溜めなのー」
「ナノってば、ほんと汚い話ばっかり! そりゃ爆発したら嫌すぎるけど、肥溜めじゃなくて下水処理場だし。もっと爆発しそうなものって無い?」
「小麦粉なのー」
「アニメだとよく粉塵爆発が起きてるけど、もし小麦粉が本当にそんなに簡単に爆発するものだったら、買うのに危険物取扱免許が必要になってるよ」
「じゃーねー、リア充なのー」
「『リア充爆発しろ』なんて言葉はあるけど、実際に爆発はしないから」
「じゃー人気なのー」
「うん、人気爆発することならたまに……って、それはべつに危険じゃない!」
下水処理場は確かに爆発すると嫌だけど、そもそも大きな体積が必要で邪魔になるからなるべく外側で低い位置がいい。これもソーラーキャッスルの外にしようか? ソーラーキャッスルは全体が100階建てって考えていたけど、周縁部はもっと低くして邪魔になりそうな施設だけを集めてみようか。
「下水処理場もソーラーキャッスルの外に出すとして、あとごみ処理場も、ごみを発酵させるとガスが出て危険だから外にするかな。他に外に出したほうがいい施設って何があるかな?」
「牧場や養鶏場なのー」
「ああそうだね、広い面積が必要になるし。えっと、アンモニアタンクと、下水処理場、ごみ処理場、牧場、養鶏場……」
「名付けて『臭い地区』なのー」
「やめてよそういうの! そこで働く人に失礼すぎる!」
水素を作る工場とかの化学プラントも周縁部にしてしまおう。周縁部の最上階は日光を活かして畑にしようかな。
「化学プラントや畑もそこにして、『産業地区』にしよう」
ナノと話しているとどうも汚いとか臭いとかいった話になる。私の部屋に戻って考えよう。
居住地区のうちの50階ぶんが住居の階と考えて、その広さを考えてみよう。
住居1戸当たり平均して2人が住んでいるとすると、400万人が暮らすためには住居が200万戸必要で、1階あたり4万戸が必要。1戸当たり100平方メートルとすると全部で4平方キロメートル?
いやいや、住居の階の中でもある程度は便利に暮らせるようにする必要があるから、住居以外のものも必要になって来るはず。エスカレーターを使わず徒歩だけで行きたい場所って何があるかな。コンビニ。蛇口からコーラの出るドリンクバーのあるラウンジ。あ、そうだ、幼い子供には一人でエスカレーターを使ってほしくないから、小学校やこども園は住居の階に欲しい。児童公園も要るね。グランドシャフトとかの面積も考えると、1.5倍の6平方キロメートルくらいはあったほうがいい。
ソーラーキャッスルの全体的な形が決まってきた。直径だいたい4キロメートルの円形で、中心部の直径1キロメートルあたりが商業地区、その外の直径3キロメートルくらいの範囲が居住地区、その外側が産業地区。海に面した西側は直線的な形になっていて産業地区が無く、港やホテルがある。
商業地区と居住地区は100階建てで、産業地区は30階建て。なので全体の形としては帽子のような形になる。屋上には煙突がたくさん建っていて、壁面には空気を取り入れる穴がある。商業地区と居住地区の16階までは鉄骨と石で頑丈な造りにして、それより上はグランドシャフトとトラス床で軽い構造にする。産業地区は全部が頑丈な構造だ。
せっかく産業地区について考えたんだから、産業地区についてもっと詳しく考えよう。産業地区には北側・東側・南側がある。
港に比較的近い北側には化学プラントを配置しよう。太陽熱発電の電気を使って水を分解して水素を作り、そこからアンモニアを作る。アンモニアタンクも北側だ。畑で育てた作物の茎や葉からプラスチックを作る工場もある。他にもいろんな工場があっていい。「工業地区」だ。
南側も港に近いから、倉庫にしよう。貨物船から降ろした物だけでなく、いろんな備蓄品も邪魔にならない周縁部に置いておきたい。石油タンクもあるだろうし、備蓄用の貯水槽もここに設置しておこう。「物流地区」とでも呼べばいいかな。
物流地区でいろんな荷物をやりとりするなら、貨物駅もあったほうがいいかな? といっても線路はプロトキャッスルとの間を結ぶだけになるし、わざわざ貨物駅を作るほどの必要性は無いだろう。
東側は、牧場、養鶏場、ごみ処理場。ソーラーキャッスルの外の畑から運んできた作物を加工する場所も欲しい。植物工場もここにして、「農業地区」にしよう。
産業地区の1階は下水処理場。2階と3階は道路と駐車場。駐車場ではトラックの荷物の積み下ろしも行う。4階から26階がそれぞれの地区ごとの施設。27階は産業地区で働く人が休憩や食事をする場所や、管理センターなど。28階は換気のための空調設備。29階は畑。30階は動く歩道。30階の大部分は吹き抜けで、畑に日光が当たるようになっている。貯水槽など非常に大きくて重い施設の場合は1階から27階までぶち抜きで造り、下水処理場や駐車場は無し。
産業地区について考えるのはこのくらいにして、ここまでの考えを文書にしてアップロードした。するとまたナノから書き込みが。今度はどんな臭い話?
「貨物駅は本格的なものにするのー」
べつに臭い話じゃなかったけど、意図がわからない。
「貨物駅を何に使うの?」
「ソーラーキャッスルはいつまでも陸の孤島にしておかないのー。遠くまで線路を引くのー」
線路を引くとしたら、ヌアディブやヌアクショットの街に向かうことになる。そういえばヌアディブには、「モーリタニア鉄道」という貨物線が東の鉄鉱石鉱山から通じている。これに接続することも考えられる。
「じゃ、貨物駅を造るための場所を確保しておこう。よかった、臭い話じゃなくて」
「大事なピコが嫌がる話ばっかりできないのー。ピコはあたしの一番星なのー」
「セリフがくさいよ!」




