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ソーラーキャッスル構想 1

 ソーラーキャッスルの方向性について、私一人で考えてみよう。


 まずはコンセプト。最初に思いついたときは「どんな店にも短時間で簡単に行ける街」だった。もっと考えていくと、「みんなが楽に楽しく暮らせる街」になり、「究極の便利さを追求する街」になった。そしてこの船でお金を使わない暮らしを経験して、「誰も生活に困らない社会」という方向性を思いついたけど、ナノはその方向性に賛同しきれていない状態だ。そこは今後お互いに歩み寄れるようにしよう。


 これに何か他のコンセプトを足せないだろうか。「究極の便利さ」のほかに必要なのは「究極の楽しさ」かな? ものすごくにぎやかそうだ。一人で静かに過ごすのが好きな私は心が休まらないかもしれない。やめよう。


 私の好きなもの。アニメ。いやそれは街づくりに関係ない。私が好きなのは、物作り。パズル。効率の良さの追求。そうだ、街づくりで「究極の効率」を追求してみたら……とにかく無駄を出さない、資源を使わない。「究極のエコ」に行きつきそうだ、面白そう。……でもこれだと私一人が面白いだけかも? いや、みんなの楽しさは後でみんなが付け加えてくれる。まずは私の考えで進めてみよう。


 無駄を出さないというと、ごみ処理。燃えるごみは発酵させてメタンとかエタノールとかいった燃料にするとよさそう。残りかすは肥料になるかな。古紙は再生紙に。金属のごみは「都市鉱山」なんていうくらいだから、種類ごとに精錬出来たらいい資源になるだろう。プラスチックごみは……プラスチックに再生できればいいんだけど、できなければ燃料にするかな。


 そうだ、エコを追求するんだったら、ソーラーキャッスル内で生産するプラスチック製品は生分解性プラスチックということにすれば発酵させることができる。とはいっても輸入するプラスチック製品はあるし、水道管みたいに長年の耐久性が必要なものもあるから、全部を生分解性プラスチックにはできないか。食べ物の包装とかはなるべく生分解性プラスチックにしたい。


 生分解性プラスチックの原料を調べてみると色々な種類があることがわかった。その中で、セルロースとでんぷんというのが気になった。普通の植物が原料。だったら、育てた野菜や穀物の茎や葉を原料として使えるんじゃない? やったあ、捨てるはずの物が必要な物になる。こういうのを思いつくと楽しい。


 無駄といえば、海水淡水化のために海水を煮詰めてできた濃い海水。これをろ過して砂や汚れを取り除き、さらに煮詰めて塩を作りたい。塩はもちろん食用として使うけど、それ以上に石鹸(せっけん)やガラスなど工業製品の原料として役に立つ。だから輸出できる商品になるだろう。……といっても、海水の3.5%は塩だ。水は生活だけでなく農業や工業にも大量に必要になるから、その3.5%の塩ができると考えるとずいぶん余りそうだ。煮詰めて塩にするのは海水淡水化の排水の一部分だけにしておこう。


 今度は下水のことも考えてみよう。下水を処理した水をトイレに再利用するのを「中水(ちゅうすい)」という。家庭で使う水のうちトイレの占める割合は大きいからずいぶん水の節約になるだろう。


 他に何かエコにつながりそうなものはないだろうか。再生可能エネルギーといえば、水力、太陽光、風力、地熱、バイオマス……風力を使うとなると屋上に風車を設置すればいいか。風は巨大なソーラーキャッスルを乗り越えないといけないから、屋上に風が集まって風車が勢いよく回るだろう。そう考えるとソーラーキャッスルは風の邪魔をしてるね。


 じゃあ、ソーラーキャッスルに風の通り道をあけておいたら、風はそこに勢いよく流れ込むだろうか。風の強い日に家の戸をちょっとだけ開けておくと風が勢いよく流れてヒューと音がするのと同じ。ソーラーキャッスルを水平に貫くパイプを造って、その途中に風力発電機を付けておけば、すごい勢いで発電機が回りそうな気がする。そもそも換気のために空気の取り込み口が必要だから、風の強い日は余分な風を風力発電機のほうに流すようにしよう。


 そうだ、このままだと外に面している部屋以外はいつも照明を点けておく必要がある。そのエネルギーを節約できないか考えてみよう。採光できる吹き抜けを作る? いや、1階から100階までの吹き抜けを作ったとしても明るくなる範囲はわずかだ。せいぜいグランドシャフトの中を明るくするためにグランドシャフトの屋根を透明にすることくらいしかできないだろう。もっと効率よく光を集めないと。自動で太陽のほうを向く集光器を屋根につけて、光ファイバーで下の階まで導いて照らすようにしようか。これなら共用の廊下くらいは照らすことができるだろう。


 たくさん考えたので、ここまで考えたことを文書にしてアップロードした。すると何人もの人が読んでくれてコメントが付いた。


「水力ってまだ使ってませんよね。上層階から下層階に水を流すときに発電できませんかね」


 なるほど、そこにも無駄にしていたエネルギーがあったか。気づかなかった。返事を書いておこう。


「そうですね。各家庭から下水を流すとグランドシャフト内のパイプを通って低い階の下水処理場まで落ちますので、そのパイプに発電機を取り付ければ小水力発電ができますね」


 すぐに新しいコメントが付いた。


「『小水』って何ですか?」


 なんか変な勘違いをされた。「小水力発電」って、「小水の力の発電」じゃなくて、「小さい水力発電」なんだけど。そう書こうとしたら新たな書き込みが。


「『小水(しょうすい)』というのはおしっこの事なのー」


 ナノ、余計な事書かないでー!


「トイレに流したおしっこの勢いで発電するから『小水力発電』なんですね。勉強になりました」


「みんなのおしっこやうんこをたくさん集めてねー、小水力結集なのー!」


 私が書き込む前に、話がどんどん変な方向に進んでいってる! 早く止めないと!


「それは間違いだから!」


「うんこを流したら小水力じゃなくなるのならねー、大便力なのー!」


 思わず吹き出してしまった。腹筋が痛くて手に力が入らない。


「緊急事態にはねー、みんなの秘めたる小水力と大便力を1つに結集してねー、大きなエネルギーにして立ち向かうのー!」


 なにその汚すぎる展開! 胸じゃなくてお尻が熱くなるよ!


「そうじゃなくて! 『小水力発電』は、小規模な水力発電のこと!」


 その後ナノの誤解を解くのに苦労した。


 せっかくだから、水の落差は無駄にしないようにしよう。貯水槽は最上階近く、下水処理場は地下と想定していたけど、50階辺りにも貯水槽と下水処理場を造ることにしよう。そうすれば上の貯水槽から下の貯水槽に水を流すときに発電できるし、上の下水処理場でできた中水はポンプを使わずに下のほうの階に流すことができる。

挿絵(By みてみん)



 翌日、私の文書にまたコメントがついていた。


「ソーラーキャッスルの太陽熱発電って、どのくらいの規模になるんですか?」


 うーん、会社にある資料には具体的な数字は無い。プロトキャッスルの太陽熱発電なら楽園建設の人が計算した具体的な数字があり、太陽熱発電の出力は50メガワット、鏡を配置する敷地面積は1平方キロメートルとなっている。でもこれとは別に火力発電所もあるし、プロトキャッスルでは農業をほとんどしないから必要な水の量も違ってくるので、あまり参考にならない。


 大まかな規模を計算してみよう。ソーラーキャッスルで暮らす400万人には電力と水はどれくらい必要になるかな?


 私の実家で電力料金の請求書に書かれていた電力の使用量が1か月あたりだいたい400キロワット時だった。3人暮らしだから1人あたり150キロワット時としてみよう。でもこれは家庭で使う電気の量であって、会社や工場ではもっと使われているはず。確か、日本の電力使用量のうち家庭で使うぶんは25%くらいだと新聞で読んだ気がする。なので4倍の600キロワット時を1人あたり1か月で使うとすると、400万人だと2400ギガワット時。1ワット時は1ワットの電力を1時間使ったときの電力量だから、1時間あたりの電力量を計算すると電力になるわけで、3ギガワットくらいになる。これが400万人に必要な電力。


 水道料金の請求書には1か月の水の使用量がだいたい30立方メートルくらいと書かれていた。なので家庭で使う水は1人あたり10立方メートル。工場や畑で使われる水がどのくらいかわからないけど、これも電気と同じ4倍と考えてみよう。1人あたり40立方メートルを1か月で使う。400万人だと1億6千万立方メートル。1時間あたりにするとだいたい20万立方メートル。これが400万人に必要な水。


 待てよ、確かナノはこんな約束をしていた。モーリタニアとモロッコに水と電気を供給する、と。これから畑をたくさん増やすことを想定して、必要な水は倍の40万立方メートルにしてみよう。工場をたくさん増やすわけじゃないから電気の需要はそれほど増えないとして、4ギガワット。


 多段フラッシュ法による海水淡水化は、加熱して蒸発させるのは一部分だけであって、残りは余熱を利用して低圧化で蒸発させる。なので、必要な水の10分の1の4万立方メートルを加熱して蒸発させるとしてみよう。


 水の蒸発に必要なエネルギーは……ネットで調べると、「1気圧、100度の水の蒸発熱は、1キログラムあたり2257キロジュール」と書かれている。4万立方メートルの水、すなわち4千万キログラムの水を1時間で蒸発させるとすると、必要なエネルギーは1千億キロジュール。1ジュールは1ワットの電気を1秒間流したときの熱量なので、1ワット時は3・6キロジュール。1千億キロジュールは、280億ワット時、つまり28ギガワット時。


 もし蒸発させるのに使ったエネルギーが全部電気に変わったとすると、28ギガワットの出力ということになる。全部じゃなくて半分だとしたら14ギガワット。必要な電力は4ギガワットだから、電力が余ることになる。余った電気でアンモニアを大量に作って輸出しなきゃ。


 今まで計算した水や電気の使用量は、年間を通じての平均の値。実際は、日差しの強い夏の昼間に集中的にお湯を沸かして発電することになるはず。そうすると、最大出力は60ギガワットくらいは必要そうだ。プロトキャッスルの太陽熱発電の1200倍。となると、鏡を配置する敷地面積は1200平方キロメートル。ということは、縦横35キロメートルの土地が必要。


 思ったより広いな。水の使用量の想定がおかしかったか? そういえばトイレの水は中水にするから、家庭で使う水の3割くらいは減らせるはず。家庭以外で使う水の量は……調べていない。ネットでちゃんと調べてみよう。


 日本の水の使用量の内訳は、生活用水19%、工業用水14%、農業用水67%。……家庭で使う水の5倍も使ってるよ! 私の想定より多い! ……いやまてよ、農業用水の94%は水田だと書いている。そっか、田んぼは水が大量に必要だよね。砂漠に田んぼを作るのはさすがに無理がある。普通の畑にするならそこまで農業用水が必要無いはず。


 必要な水の量は家庭で使う水の2倍と想定して20万立方メートルにすれば、鏡に必要な土地も半分の600平方キロメートルになる。縦横24キロメートル。電気の平均出力は7ギガワット、最大出力は30ギガワット。よし、この規模感でいこう。この想定を文書にしてアップロードしておいた。

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