みんなのアイデア 1
大浴場での経営会議にサフィーヤさんが入って来た。ルナを防水ケースに入れてある。
「先月のアンケートの結果をまとめたデス」
「アンケート?」
「『そんなのあり!? ソーラーキャッスルだけの面白施設とは?』のアンケートで、賛成票が多かったアイデアデス」
そうだ、結局もっと大喜利っぽいお題になったんだった。
「では、多少賛成票のあったアイデアからデス。『巨大カジノと豪華ホテルで豪遊! 世界のお金持ちからたくさんお金を稼ごう』デス」
「うーん、私たちの目指すソーラーキャッスルとは方向性が違うなあ。目指すのは、誰も生活に困らない、お金の要らない社会なんだよね。客を不幸のどん底に突き落とすようなカジノはやりたくないな」
「そういう社会にするかはまだ結論出てないけどねー、こんな稼ぎ方はしたくないのー。それに砂漠の豪華リゾートはねー、ドバイやラスベガスとかぶるのー。不採用なのー」
「次のアイデアデス。『みんなの夢! コーラの出る蛇口』デス」
「小学校低学年か幼稚園児の夢だよね!」
「ただでコーラを飲めたら幸せそうですわね。わたくしは日本茶をいただきたいですわ」
「各家庭にコーラの配管をするとなると衛生面に問題があるわね。大規模すぎて無駄も多いわ」
「各家庭でなくてもいいデス。街のあちこちにドリンクバーを作ってきちんと清掃するデス」
「だったらコーヒーも欲しいぞ」
「わたくしの故郷では喫茶店や居酒屋のような小さなお店がたくさんありましてよ。毎日通う人もたくさんいらっしゃって、近所の方々のコミュニケーションの場でしたわ。ドリンクバーもそのような場にしてはいかがかしら」
「スペインによくある『バル』のようなお店ね」
「衛生面の問題は技術でクリアするのー。採用なのー! あたしは牛乳を飲みたいのー!」
「衛生的に一番難しそうなものを!」
「私はワインを無料で思う存分飲みたいわ」
「そんなアル中だらけにするようなものはだめでしょ! 今のこの船でも毎日お酒を飲みすぎてる人がいますし。そういえば、アメリカでは子供の肥満を防ぐために甘い飲み物を学校で販売するのを禁止してるんですよね。コーラが無料だとみんな太りそう」
「ピコもたまには太ってみるのー」
「わざわざ太らなくていいよ!」
「砂糖の代わりに甘味料を使ったゼロカロリーのコーラなら問題ないぞ」
「なるほど」
「次は、さっきのに似たアイデアデス。『5メートルのケーキにみんなでかぶりつこう』デス」
「食べたいのー! ケーキの中に頭から潜り込んで食べるのー!」
「ナノが食べた後に来た人は、ナノが作った穴のところを食べたいと思う?」
「ぐちゃぐちゃだから嫌なのー」
「そんな感じでどんどん汚くなっていって、数日したら腐ると思うな」
みんな嫌な顔になって沈黙した。その後の惨状も想像したのだろう。
「そこもピコの技術でなんとかするのー」
「無理」
「どんなことでも頑張れば出来ないことなんて無いのー」
「その根拠を10文字以上5文字以内で述べて」
「ふみゅー! 何文字で答えてもダメなのー!」
「ほら、頑張っても出来ないことがあった」
「次デス。『1階から100階までぶち抜く直径100メートルの大吹き抜け』デス」
「これ、私のアイデアなんだ」
「そうデスカ。賛成票が結構多いデス」
「ソーラーキャッスルの圧倒的巨大さを感じられる場所があると楽しいかなって思って」
「そこを飛び回るのですわね」
「いや、魔法を使えることが前提じゃないから。見るだけで解放感があっていいと思うんだ」
「建物内の景色を楽しむのはいいアイデアなのー。採用なのー」
「それよりも多くの賛成票を得たアイデアデス。『流しそうめんもできる! 100階から1階まで街巡りウォータースライダー』デス」
「採用なのー!」
「これ、前にナノが言ってたのだよね!」
「そうなのー、あたしのアイデアなのー! ウォータースライダーで滑っていくとねー、オフィスで会議している所も見えるのー。裁判所で判決の出る瞬間も見えるのー。食堂でパスタ食べてる所も見えるのー」
「そういう場面でいきなり水着で流れてきた人たちに見られるほうが落ち着かないって言ったよね」
こんなアイデアが私よりたくさんの賛成票を得ているのが悔しい。
「えっと、賛成票の一番多かったアイデアデス。『階段だらけ! 人情あふれる迷路商店街で迷いながら素敵な逸品との出会いを』デス」
「え、どういうこと?」
「ものすごく道がわかりにくい商店街を造ってデスネ、個人経営の雑貨屋さんをたくさん造るデス。ぶらぶら散策すると思いがけない出会いがあるデス」
「まあ! とても素敵ですわね。ピコさんと一緒に巡りたいですわ」
「階段だらけってことは、私はたぶん途中で歩けなくなってリタイアすると思う」
「そしたら遭難なのー。そのままそこで骨になるのー」
「どんだけシビアな商店街だよ!」
「狭い裏路地を抜けた先の店の窓から飛び降りないとたどりつけない秘密部屋の隠し階段を抜けた先の店にはいいアイテムが売ってそうだぞ」
「ゲームじゃないと誰も来ないよ、そんな店」
「転がって来る大岩とか、鉄球の振り子とかを避けながら進むのー」
「そんな罠だらけのダンジョンは必要無いよ!」
「まあそこまでしなくてもねー、迷路商店街はわくわくするのー。採用なのー」
私はそこまで惹かれないけど、悪くはないアイデアだと思う。
「賛成票の多かったアイデアはこれくらいデスネ。賛成票は無いけど興味深いアイデアもいくつかあったデス」
「へえ。どんな?」
「そうデスネ、『ふすまを10枚開けないとたどり着かない部屋』」
「それってあれだよね、『殿のおなーりー』って言いながら歩くとふすまが次々開くやつだよね。サフィーヤさんは絶対知らないと思うな」
「それは知らないデスけど、まあいいデス。次、『ポチっと押すと落とし穴が開くボタンのある玉座』」
「それって魔王とか悪の親玉の部屋だよね。というか、大喜利として答えてるよね、さっきから」
「次、『お約束のネバネバランド』」
「なんかパロディ同人誌のタイトルみたいだけど、そのネバネバで何するつもり!?」
「『天国』」
「そんなのできるわけない。次」
「『天国というアイデアを没にした奴が堕ちる地獄』」
「ぎゃふん!」
「『ベッドでリラックスして充電しながら体のあちこちにオイルをさしてくれる、ロボットのためのロボエステ』」
「それって誰のアイデア?」
「東京からの投稿デスネ。名前は、メカマホさんデス」
「ロボットからのアイデアだったー!」
「ソーラーキャッスルはたくさんのロボットが働くのー。ロボットの幸せのための施設も必要なのー。採用なのー」
そっか、みんなが幸せに暮らせる街にするためには、いろんな立場に立って考える必要があるよね。ロボットの立場から幸せを考えたことは無かったな。
「人間がロボットのために尽くすのは本末転倒だわ。ロボットを幸せにすることがどれだけ利益につながるのかしら?」
委員長の言いたいことはわかるけど、それは冷たすぎる。でもどう反論しよう。そう考えていたらサフィーヤさんが先に反論してくれた。
「たとえロボットであっても、誰かが不幸せなのを見過ごすのは良くないデス。日本の神様は知らないデスけど、きっとどこの神様も同じように考えてるはずデス。なぜなら、誰かを見捨てる社会には、いつか自分が見捨てられるかもしれないという恐怖があるからデス」
委員長は何か言おうとしてぐっとこらえた。感情的な反論は自分の立場を悪くすると思ったのだろう。
「次デス。『いかにもな社長室。無駄に広くて壁は足元まで全面ガラス貼り』」
「あー、アニメでよくあるね。何百平方メートルもある部屋に棚と机と背もたれの大きい椅子があって、他は何もないかせいぜいソファくらいっていう」
「映える風景なのー」
「ナノ、そんな部屋で仕事したい?」
「仲間外れにされてるみたいで嫌なのー。それよりホテルにこの部屋を作るのー。きっと面白がって高いお金払って泊りに来る人がいるのー。バスローブ姿でワイングラス持って夜景を見るのー」
「うん、それっぽくて面白い。景色は海しか見えないけどね」
ナノはやっぱり自分が贅沢するよりもみんなを面白がらせる方向に発想するね。
ソーラーキャッスルについて色々なアイデアが集まった。今まで、ソーラーキャッスルはプロトキャッスルを大きくしたものだと漠然と考えられてきたけど、そろそろソーラーキャッスルの計画に本腰を入れて取り組みたい。




