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魔法使いと女子大生 3

 粗大ごみ置き場には本棚や椅子、立て看板などが積まれていた。中には特に傷んでいないものもある。もったいない、自分だったら捨てずにこれで何か作るのに。


「ピコがごみを見て目を輝かせてるのー! そっか、ピコは家具も変えないくらい貧しいのー」


 そういうわけじゃない。すぐに何か作りたくなってしまう、根っからの工学部生なだけ。


「いやべつに、欲しいわけじゃないから」


「そうですわよね、売りさばくんですわよね」


「売らないよ! 貧しくもないよ! それより、これで何か作れる?」


「よろしくてよ。大変役立つものを作って差し上げますわ」


 マホは粗大ごみ置き場に向かって手をかざして呪文を唱え始めた。テーブルがカタカタと揺れたかと思うとぐしゃっと砕け、バラバラに空中に舞い上がった。他にもたくさんの木製品が砕けて舞い上がっていき、1か所に集まって渦を巻いた。


「すごいのー! まるで魔法なのー!」


「魔法だよ!」


 木片の渦の中心に板状の(かたまり)ができ、それはすぐに箱状に形を変えた。木の棒が飴細工(あめざいく)のようにぐにゃっと溶け、高速回転して輪っかになった。鉄の破片も溶け、回転する輪の周りに貼りついた。4つの輪を2本の鉄の棒が貫き、その上に箱が載り……これは馬車だ! わずか3分ほどで馬車ができてしまった。


「すごい! これって馬車?」


「ええ、いかにも。さあ、お乗りくださいませ」


 飾り気のない質素な作りだが、内部には椅子があり、しっかり布が敷かれている。その椅子に座って内部を観察した。様々な家具を組み合わせたため木の色がちぐはぐになっている。木と木の接合部には釘が使われてなく、木が融合したようになっている。それでもデコボコしているわけではなく、きれいにまっ平らに仕上がっている。


「へーえ、木が融けたみたいになってる。それであっという間にできちゃうんだ、便利だね」


 マホが得意げな顔で馬車に乗り込んできた。


「いかがでして、魔法の力は? この馬車を好きに使ってよろしくてよ」


「でも馬がいないのー」


「この辺りで馬はどちらにいまして?」


「馬はこの辺りにはいないよ」


「ああ、なんと不便な暮らしぶりでして……」


 そう言いながらマホは馬車を降りて馬車の前部をつかんだ。


「でしたら、わたくしがこの馬車を引いて差し上げますわー!」


「やめてー! そんなので街の中を走るなんて恥ずかしい!」


 私が慌ててマホを止めようとしたとき、1台の車が私たちの前を横切った。マホは目を丸くした。


「い、今、馬のいない馬車が通りましたわ!」


「あれは自動車なのー。引っ張らなくても自分で動くのー」


「なんでして! この世界にも魔法があるではありませんこと」


「魔法じゃなくて機械なのー」


「機械!? 機械であのような魔法と同じことができまして!?」


「この世界では機械がとても発達してるんだよ」


 マホは驚いた顔のまま固まっている。思考が追い付いていないようだ。


「で、では、この馬車は必要……ありませんかしら? いかがしたらよろしゅうございまして?」


「元々粗大ごみだったからねー、そのまま粗大ごみで問題ないのー」


 ひどい、せっかくマホが作ってくれたのに。ナノの無邪気さは情け容赦無さでもあるんだよね。


「ああ、この馬車を作るのにも結構な魔力を使ってしまいましたのに……」


 ここはフォローをしておこう。


「大丈夫、この馬車は魔法の研究のために使うからどこかに置いておこうよ。ひょっとしたら将来『世界で初めて魔法で作られたもの』として高値が付くんじゃない?」


「初めて作られたのはピコの服なのー」


「いえ、それより先にピコさんのお体をお治ししてますわ。高値が付くのはピコさんでしてよ」


「えっ、私!? 私、売られちゃうの?」


「20年後には1万倍に値上がりして3千万円になっちゃうのー」


「今の私の価値は3千円ってこと!?」


「ぷしゅしししっ」


 ナノ、頼むからそんな変な笑い声で私を笑わないで。とりあえずオチはついたみたいだから話題を変えよう。


「ねえ、マホってさ、これから行くあてが無いんじゃない?」


 マホはきょとんとした。


「え? 先ほど、この大学で一緒に魔法の研究をするとおっしゃいましたわよね」


「その間、どうやって暮らすの? この世界のお金を持ってないでしょ」


 マホは急に絶望した顔になった。今まで気づいていなかったんだ……。


「うちに泊めることができるか、親に聞いてみるね」


 私はスマホを取り出して自宅に電話をかけた。電話には母が出た。行くあてが無くて困っている女の子を泊めたい、と相談すると、母は少々不審がりながらもOKしてくれた。


「うちに泊まっていいって。よかったね、マホ」


 マホのほうを見ると、今度は驚いた顔をしている。ナノがマホにスマホについての説明をしてあげていたところだ。


「そんなことが可能な機械があるのでして……。ああ、魔法ではとてもまねできませんわ」


 こっちの話を聞いていない。今度は大きな声で言わなきゃ。


「そんなことより、マホ、うちに泊まっていいってよ」


 今度は悲しそうな顔になった。


「いけませんわ、貧しいピコさんのお宅にお世話になるだなんて」


 どうも調子を狂わされるなあ、この人には。


「だから貧しくないって! お金は気にしなくていいから泊っていってよ」


「……ありがとうございます。お世話になりますわ」


 マホと握手。


「じゃあ今からうちに来る?」


「ええ。もしお宅まで飛んで行かれるのでしたら、わたくしもご一緒できましてよ」


 マホの体が空中にふわっと浮き上がった。


「えー! 飛べないよー!」


「ええっ!? 高度な魔法をもしのぐ機械がある世界なのですから、人は飛ぶのが当たり前なのではありませんこと?」


「空を飛ぶ乗り物はあるけど、人は飛ばないの!」


 マホは困惑した顔で地面に降りてきた。


「そうでしたのね。わたくしの魔導石の魔力ではピコさんに追いつけないのではと心配しましたわよ」


 魔法と科学にはそれぞれ得意分野があり、どちらが優れているというわけではないのだろう。これからお互いの常識をすり合わせていくのが大変そうだ。と、その時はそう思ったのだが、後から思えばそんな事は些細(ささい)な事。魔法と科学のそれぞれの長所を組み合わせるとどうなるかなどこの時はまだ予想がつかなかった。

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