表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
46/112

巣立ちに向けて 1

 十月になった。私がマホと出会ってから丸2年になる。プロトキャッスルの着工は来年の七月ということが正式決定し、私たちは六月に人魚号で日本を()つことに決まった。人魚号は造船所のドックに入っていて、豪華な内装や余分なベッドなどを撤去する作業が人魚号の船員によって進められている。


 私はプロトキャッスルの社会制度を技術面から検討する仕事の(かたわ)ら、卒業論文の執筆を進めることにした。オートマタの研究についての研究成果は十分にあるので簡単に書きあがりそうだ。ナノのほうは今までの会社経営の実践内容を卒業論文にするそうで、これも簡単そうだ。


 マホのほうも大学に在籍するのはあと半年になり、研究成果をまとめる方向で動いているという。医学に工学、物理学と、様々な方面で基礎研究が進んだそうだ。これからは魔法を習得した人たちがマホの代わりに研究助手を務めることになる。


 エンパワー社からはニューロコンピューターが発売された。パソコンの外付け装置でありながら40万円という値段なのに、爆発的な売れ行きになった。そのうち5万円ほどが、ソフトウェア代金や特許のライセンス料としてうちの会社に入って来る。知識データの制作もますます活発化することになった。


 そんな中、委員長たちによって詳細を詰められた人魚号の図面を受け取った。私の考えた案から大きくは変わっていない。豪華客船に4本の脚を無理やり付け足すということも、ちゃんと技術的に検討された形になって描かれている。


 ただ、大浴場は元々のサイズよりもずいぶん狭くなっている。特に女湯は元の半分以下だ。委員長が言うには、プロトキャッスル建設のために船を停泊させている間は何度も別の船から補給を受ける必要があり、特に水の補給のコストがばかにならないとのこと。なので、水をたくさん使う大浴場はなるべく浴槽を狭くしたいし、特に女性の人数が少ないので女湯を狭くしたそうだ。


 私の設計では大浴場は元から何も変更していないのに、どうして問題になったんだろう? ああそっか、豪華客船は豪華であることがアイデンティティだから水もケチらず使うんだ。もう豪華でなくなったから、維持コストを気にしなくちゃいけなくなって、こういう設計変更が出てくるわけか。私が気づかないことも色々考えてくれている。


 十一月になって、楽園建設の社員たちによる船の改装が始まった。壁や床に対して錬成魔法で切れ目を入れ、切り取っていく。そうして集めた鉄板を使って鉄骨を作り、船を補強する(はり)にする。マホによる指導が入りながらの作業だ。普通なら機械を使ってするような作業を全部魔法で行うということで、誰もおっかなびっくりで危なっかしい。でも後日再び造船所を訪れてみると、だいぶ慣れて安定して作業が進むようになっていた。毎日のミーティングで、安全面で気を付けることが提案されていき、安定さが増しているという。




 パッションの工場ではロボットの生産ラインがほぼ完成しつつあり、生産ラインを使っての試作が始まっていた。


 その頃楽園ロボティクスの会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。


「技術的な問題はクリアでき、あとは調整だけなのですが、コスト面の問題がまだでして……。生産ラインに人の手が入る箇所が多すぎまして、単純作業ならアルバイトを増やせば何とかなりますが、それなりの技術が必要な箇所だと人数を確保できません」


 会議室に集まった人たちは頭を抱えた。


「パッションの他の工場から融通できないものですかね」


「パッションを離れた我々が無理を言って工場のラインを貸してもらっている以上、これ以上無理を言える雰囲気ではありませんね」


 せっかくロボットを作ってるんだから、その技術をロボットに覚えてもらってロボットに作らせたらいいのに。会議室にいるメカマホも一緒に首をひねっている。


「どないしたもんやろ。経験の必要な作業をあっという間に覚えてくれて、ちょうど今手の空いてる集団がどこかにおらへんもんやろか……」


「メカマホ。自分たちの役割を思い出してみて」


「うちは今、ロボットの暮らしをネットで発信する仕事してまっせ。ようけフォロワー獲得して、ロボットがいかに魅力的かを宣伝しまくらなあかんのですわ」


 そういえば楽園ロボティクスの公式アカウントがメカマホとメカナノの発言だらけになってたね。でも今はそんな話をしたいんじゃない。


「そうじゃなくて」


「ああピコさん、こう言わはりたいんですやろ。ロボットの宣伝ばっかりやっとらんで、技術者を集めるような宣伝してこいって」


 そうじゃない! そして周りの人たちもここで感心しなくていい! ロボットは人の経験や技術を学習するって事、思い出して!


「自分の強みを活かしてよ!」


「うちの強みやったら、この大きな胸の谷間を見せつけて男性技術者をイチコロにしてみせましょか」


 勘違いにも程があるよ! そして周りの人たち、そこで大盛り上がりするのはやめて!


「違――う!! ロボットたちの役割や強みを思い出してって事!」


「ほな、女性ロボットみんなで色仕掛けしますか?」


 さらに大歓声。そんな宣伝したら、いかがわしい会社ってイメージになっちゃうよ!


「そんなの嫌!」


「ははーん。男性ロボットみんなでの色仕掛けが見たいんでっしゃろ」


 違うから! みんなニヤニヤしながら私を見ないで!


「まるっきり違う! ロボットを作る仕事をロボットにさせようって言いたいの!」


 一気に静まり返り、みんながっかりした顔でため息をついた。勘違いは解けたみたいだけど、そんな露骨にがっかりしないでよ!


 楽園ロボティクスの社長が沈黙を破った。


「まあそうですね。ロボットの試作をした人たちの知識で知識データを作って、それを搭載したロボットを生産ラインに配置しましょう。それでいいですか?」


 少しの沈黙の後、一人が声を上げた。


「その方針に異論はありません。で、メカマホの谷間についてはどうしましょう」


 会議室は再び熱気に包まれ、しばらく谷間プロジェクトについての議論が続いた。


 しばらくして、楽園ロボティクスの公式アカウントからはメカマホによる工場労働体験記が発信された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ