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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
38/112

ロボット 3

 翌日。会社に行くと、ナノとメカナノがいた。


「おはよー。なんかナノが双子になったみたいだね」


 ぱっと見そっくりだけど、並べて見ると違いがわかる。肌の質感が違うので、メカナノは濃い化粧をしているように見える。ナノは普段はすっぴんだけど、昨日はみんな化粧をしていたから違和感に気づけなかったのだろう。


「おはよーなのー。昨日はだまして悪かったの。ごめんなの」


「イタズラにしては度が過ぎてるよ。ほんとにメカナノが私たちを殺してナノになりすまそうとしてると思っちゃったもん」


「あの場で殺したらねー、ピコが人間だって観客にばれるのー。だからありえないのー」


「冷静に考えたらそうだけど、あんな状況じゃそこまで頭が回らないよ。でもまあ、おかげで大盛り上がりだったみたいだね」


「ネット上で大反響やったみたいですよ」


 メカナノは得意げな顔で言った。


「メカマホは今絶賛修理中なんで、うちだけこっちに寄らしてもらいました」


「誰が絶賛してるのよ」


「さあ、誰でっしゃろな。それより、メカマホの胴体はもう一つ作ってあったっちゅうことで、頭を移植するそうです」


「メカマホも関西弁だったのはなんで?」


「メカマホはうちのニューロコンピューターの全データをコピーして作られましてん。なんで思考パターンとか性格とか、まんま一緒なんですわ。メカマホと話してると、まるでうちがもう一人おるみたいな親近感がありますねん」


「あたしのほうがそっくりなのー!」


「見た目よりも中身が似てるほうが親近感わくのかな。それにしてもナノ、昨日はよくチェーンソーなんて使えたね」


「あれは表面を切っただけなのー。メカマホの背骨は最初から切ってあったのー」


「じゃあ、背骨が折れた状態でドッジボールをやったんだ」


「上半身が落っこちないかヒヤヒヤした、って言うてましたよ」


「そんなこと全然気づかなかった。すごい芸人魂だね」


「そのおかげでねー、昨日の発表会の動画が大人気なのー」


「『あんな緊急事態に備えて治癒魔法カプセルを買いたい』言う人も結構おりますよ。『迫真の演技でカプセルの宣伝するピコ凄すぎ』なんて言われてます」


「演技じゃないけどね。結果的にいい宣伝になったみたい」


「動画の人気に乗ってソーラーキャッスル計画も知れ渡っていってるのー」


「あ、それが狙いだったんだ」


「そうなのー。一緒にモーリタニアで暮らす協力者を集めるのー。お金もたくさん借りるのー」


「みんなの話題になって人がたくさん集まるといいね」


「こんなのできるわけない、っちゅう批判もようけあるみたいですよ」


「まあそうだろうけど、そんな話題でもたくさんの人に広めるのにプラスになるならいいよ」


 発表会はこれでよかった。私が納得したから、この件はこれでおしまい。ナノを恨んだりしない。




 この発表を機に、楽園ロボティクスに入社する人が急に増えた。その中にはよその会社で人工知能の研究をしていた人が結構いる。人工知能といっても、たくさんのデータの統計をとってありがちな答えを出すものがほとんどなので、こんな人間と変わらない思考ができる人工知能を研究してみたかったそうだ。


 ソフトウェア技術者も増え、ニューロコンピューター用の基本ソフトもどんどん機能が追加されていった。特に翻訳機能が便利になっていて、同時通訳ができるという。ノートパソコンにニューロコンピューターをつないで英語の音声を流すと、イヤホンから日本語訳が聞こえてきた。


 知識の買い取りも始まった。自分の知識をニューロコンピューター用の知識データにしたいという人のところに、楽園の社員が出向いて魔法をかけ、知識を解析してデータ化する。できた知識データが有用であるほど買取価格が跳ね上がる。様々な専門職を引退した人たちが申し込むようになり、ロボットが持つ知識がだんだん充実していった。


 六月になり、いよいよロボットの商品化に向けての取り組みが始まった。研究ではなく商品としてのロボットの方向性を考える会議に私も出席した。これまでの研究成果を活かし、数々の機能を搭載することが提案された。そして、どのようなコンセプトにするかという話題で、出席者がそれぞれ意見を出した。


「ロボットの外見は美しさを追求したいですね。内面だけでなく外見的な魅力もあることで売り上げは増すでしょう」


「ロボットは道具ではなく共に働く仲間です。完璧な外見よりも、温かみを感じる優しさを前面に出すのがよいでしょう」


「それならば、家庭的な印象でしょうかね。打ち解けやすい雰囲気を出したいです」


「家庭の中でいうとお姉さんでしょうか。優しくて包容力のあるタイプの」


「いやいや、甘えんぼな妹のほうが仲間意識が高まるでしょう」


「そんなことはありません。おっとり系巨乳タイプのお姉さんであれば、すべてを任せられる安心感があります」


「巨乳はみんな姉キャラと思ってはいけません。妹キャラでも巨乳はありです」


「それは待ってほしい。貧乳妹には他にはない魅力があります」


「巨乳にしたいのなら別売りパーツを付ければよいでしょう。問題なのは『お兄ちゃん』と呼んでくれるかどうかです」


「別売りパーツであれば継ぎ目が見えてしまいます。最初から巨乳という方針でデザインすることが重要なのです」


 なんでこんな話をしてんの、この人たち。私が止めないと。


「なんて話をしてるんですか。この場に私もいることをお忘れなく」


「失礼しました。あなたのような並乳の魅力をもっと考慮すべきでした」


「そうじゃなくて! そんな話をしてる場合じゃなくて、まだ女性にするとも決まっていませんよ」


「巨乳の男性もありなんですか?」


「そんなわけないでしょう! 胸のサイズの話なんかより、もっと基本的なコンセプトを決めましょう、ということです。愛着を持てるのもいいですけど、心の無いタイプのロボットもかわいい外見だと、きつい労働を命じられますか?」


「それはかわいそうですね。仕事を代わってあげたくなるかもしれません」


「心の無いタイプはあまり人間っぽくせず、機械っぽい外見にしたほうがよいと思います」


 私の意見で話の流れが変わり、たくさんの用途を想定して複数のタイプを売り出すことになった。心のあるタイプは、シリコンゴムのボディで人間そっくりな見た目にし、女性は豊満なおっとりタイプと細身の活発タイプ、男性は細身のクールタイプと筋肉質の熱血タイプの4種類。商品名は「ピアロイド」。心の無いタイプは、硬いプラスチックのボディで性別ははっきりせず、目を黒いゴーグルで隠した無機質な印象。商品名は「レイバロイド」。


「幼い少女タイプなんかもあったほうがいいんじゃないですか?」


「それだと児童労働をさせてるみたいで印象悪いですよ」


 そんな話をしていたところにメカナノが入ってきた。


「あれ? うちは商品化せえへんのですか?」


 一同、互いの顔を見回した。


「やりましょうよ、少女タイプ。お年寄りの話し相手とかの役割がありますよ」


 皆、口々にそう言いだした。メカナノを前にすると、この意見に反対するのは難しい。結局少女タイプも商品化することになった。

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