ロボット 2
映像を映しながら、私たちはまず会社の紹介をして、魔導石についてのこれまでの取り組みを紹介した。次に、新商品として治癒魔法カプセルを紹介した。誰でも使えるということを実演するために、客席から適当に選んだ人をステージに上げ、潰した花を再生させた。その次にロボットの話に移り、これまでのオートマタの研究や知識データの開発の話をした。そしてロボットがいかに高性能かを映像で解説した。
そして三人でのトークセッションになった。ロボットについて語るコーナーだけど、メカナノの自然な会話能力もさりげなく示さなくちゃ。で、このトークセッションの途中でメカナノの正体をばらす。
「二人とも、ロボットについてどう思う?」
「魔法を全く使ってらっしゃらないのに人形が生きてるように動くだなんて、不思議ですわね」
「ロボットに対して人間と同じように接することができるのー。あたしの子供の頃とは時代が違うのー」
「ナノはロリキャラなんだから、そんな年齢感じさせるような事言うもんじゃないよ」
「わかったのー、ピコおばちゃん」
「同い年から言われるとむかつくからやめて!」
「この世界ではロボットを何に使用なさるのかしら?」
「お店の店員をしたり、工場や会社に勤めたり、介護をしたりするだろうね。単純作業をするのなら心の無いタイプのロボット。コミュニケーションが大事な仕事をするなら心のあるタイプのロボットがいいね」
「たくさんのイケメンロボットをはべらせるのー! 逆ハーレムなのー!」
「またキャラがおかしくなってるよ! 幼いイメージを大事にして、イメージ!」
ナノのまねをするどころか、わざとキャラ崩壊してみせるとは。メカナノの芸人スキルは相当高い。
「そう言うピコはイケメンロボット欲しくないのー?」
「えー、私は別に……」
なんか客席の冷めた視線を感じる。何か違う反応をしないと。こういうときアイドルなら何て言うかな? 私は立ち上がり、客席を向いた。
「イケメンロボットなんていなくても、みんなの応援があれば私はいくらでも元気をもらえまーす!」
客席が静まり返った。
やっちゃった――――!! 私はアイドルでもないのにみんなの応援を求めてどうするのよー!
「みんな薄々気づいてるかもしれないのー。今日のピコはいつもとちょっと違うのー」
えっ、何言い出してるの、メカナノ。なんか目がマジだよ。
「今日は最初からずっとステージにいた、このピコ。実はねー、ピコそっくりに作ったロボットだったのー!」
客席から大歓声! ちょっと、なんてこと言ってんの――!!
「嘘! 嘘だから! 私がロボットなんじゃなくて、この子がナノにそっくりなロボットなの!」
「皆様、お気づきになられましたかしら。このピコさんがロボットだということに」
マホまで何言ってんの! これじゃ2対1で押し切られちゃう!
「私、ロボットじゃないってー!」
「このロボットの運動性能を試すのー! バレーボールをするのー!」
メカナノは舞台袖からバレーボールを持ってきて私に思い切り投げつけた! 私はギリギリ避け、そのボールをマホが受け止めた。そしてマホも私に投げつけた! これもなんとか避けた。
「ちょっ、これバレーボールじゃなくてドッジボール!」
「ご覧のように、高いツッコミ性能を持っていましてよ」
「運動性能を試すんじゃなかったの!? いや私はロボットじゃないんだけど!」
客席は笑いと歓声が入り交じり、大いに盛り上がっている。このままだと完全に私がロボットという流れになっちゃう! 流れをひっくり返さないと!
「ご覧のように、このメカナノは人間と同等の運動能力があり、人をおちょくるほどの会話能力を備えています」
「という嘘をつけるくらい、このメカピコは自然な会話ができるのー」
「嘘をついてるのはこの子だからー! 信じてー!」
メカナノは私に近づいてそっと耳打ちした。
「うちがロボットやって知っとる人間は消さなあかんわ。大丈夫や、あとはメカピコがよろしゅうやってくれるさかい、心配いらへんで」
メカナノたちは私たちと入れ替わるつもり!? メカナノは客席のほうを向いて言った。
「これから、このメカピコが本当にロボットだということを証明してみせるのー」
メカナノは舞台袖に走っていき、チェーンソーを抱えてきた! 血の気が引いた。
「いやあああああっ!!」
私はダッシュで逃げ出した! でも舞台袖にたどり着かない。なんで!? 足が地面から浮いてる! 念動魔法だ! 私は空中でじたばたと足を動かした。今は魔導石を身に着けてなくて対抗できない!
「うー、重いのー」
メカナノがよろめきながら近づいてくる。そしてチェーンソーのエンジンがかかってうなりを上げた。
「やだ……助けて――!!」
メカナノがチェーンソーを振りかざした。
「だめですわ!」
マホが割って入った! チェーンソーの勢いは止まらず、マホの腹を切り裂いた!! マホはぐしゃっと潰れるように倒れた。
「きゃあああああああっ!!」
私にかかっていた念動魔法が解けた。私はダッシュで舞台袖に行き、予備の治癒魔法カプセルをかっさらってステージに戻り、急いでカプセルのボタンを押してマホに向けた。まぶしい光が辺りを包む。
「マホ、しっかり!」
「わたくしは大丈夫でしてよ」
よかった、まだ生きてる。私はその場にへたり込んだ。涙があふれてきた。
「ピコー、後ろ後ろ」
そんな声が客席から聞こえてきた。後ろ?
後ろを振り返ると、そこにはマホがいた。え? 私の前にもマホ。いや、傷口から機械部品が見えている! マホじゃない!
「メカマホだ――!!」
メカマホが上体を起こすと、胴体がちぎれて上半身と下半身が分かれた。でも平気な顔をしている。
「ほんまはうちがロボットやったんです。うちはマホさんによう似せて作られたメカマホです。皆さん、気づいてはりましたか? ほら、うちの中身は機械やったんですよ」
メカマホは自分の下半身を掲げて見せた。その後ろにマホが立った。
「わたくしが本物のマホですことよ。ピコさん、怖がらせて申し訳ありませんでしたわ」
「よかった……。マホが無事で……うっ……うう……うえええん……」
私はマホにすがりついて泣いた。ナノが近づいてきた。
「あたしは本物のナノなのー。そしてねー、メカナノは別にいるのー」
ナノがそう言うと、ステージ上にもう一人のナノが現れた。
「うちがメカナノです。皆さん、よろしゅう」
「ピコが見た開発中のロボットはあの子なのー。メカマホはピコに見つからないように開発してたのー」
え……。ということは、今までずっとステージにいたのはナノってこと? 私はそれをメカナノだと思い込んで……。
「それって、私に本物のナノをロボットとして紹介させようとしていたってこと!? 私がバカみたいじゃない! も――、いいかげんにしてよ――!!」
客席からの大爆笑が聞こえてきた。頭がくらくらして目の前が白い。
「ごめん、休ませて」
私は舞台袖で横になった。山本さんが水を持ってきてくれた。ステージではナノとマホとメカナノとメカマホの四人でトークが始まった。
横になっているうちに、ステージから聞こえてくる話はソーラーキャッスル計画の話題になった。便利さを極限まで追求した街というコンセプト。目指す姿がいかに巨大でどんなに便利かという話。プロトキャッスルの話。魔法を使って建設する作業員の募集。プロトキャッスルの様々な職業の住人の募集。建設資金調達のための社債の話。
だんだん頭がすっきりしてきたのでようやく起き上がると、ちょうど発表会が終わるところだった。私がステージに出ると、客席から声援と拍手で迎えられた。なんだか恥ずかしい。
「皆さん、ご心配おかけしました。もう大丈夫です」
私はそれだけ言って、発表会は閉幕した。




