ロボット 1
一月中旬、ロボットの試作機がある程度形になったというので、ナノたちと一緒に見に行った。
ロボットは鉄の棒に基盤やらチューブやらがむき出しで取り付けられていて、いかにも試作という見た目だ。高さは130センチくらいで、なんとなく人型に近い形だ。
「いやっ! 誰や!?」
ロボットはそんな声を上げて身をよじらせた。ニューロコンピューターはうまくロボットと接続できたようだ。
「楽園のナノ社長なのー!」
「ええ!? んまー、話には聞いとりましたけど、ほんまにかわいらしい子やないですか」
このロボットは声からして女性のようだ。胸に手を当ててくねくね動いている。
「筧さんも、お客さんが来るなら来るて言うてくれはったらよかったですのに。ごめんなさいねえ、こんなお見苦しい格好で」
「こちらこそ申し訳ありませんわ、まさか裸でいらしてたなんて」
ロボットがむき出しの部品を見られるのって、そんなに恥ずかしいことなの?
「今はまだ試作いうことやさかい、こんなに部品がそのままくっついててコードだらけですけど、ほんまはかっこええ人型ボディに収まる予定ですねん。かわええ顔も付いて、体つきも愛らしい女の子になる予定ですのに、こんな裸を見られて恥ずかしいわあ」
「人間っぽい裸になったほうが恥ずかしいんじゃないかな」
「そないなこと言うて、あなたほんまはええ体してはりますやろ。うちの体のほうがよっぽど恥ずかしいて思いますわ」
ロボットが経験を積んで自分なりの価値観を育んでいる、ということでいいのかな。開発はうまく進んでいるようだ。なんで関西弁なのか気になるけど。
エンパワーのほうでもニューロコンピューターの開発が進んでいるようで、パソコンの外付け装置としての商品化を目指しているそうだ。研究成果の発表会を四月に行うから同じタイミングで発表しないか、と打診を受けたので、OKすることになった。
二月になり、大学は春休みで時間の余裕ができた。なので時々楽園ロボティクスのほうに行ってロボットの制作状況を見ることにした。行ってみると、複数の試作品を同時進行で作っている。むき出しだった部品はシリコンゴム製のカバーで覆われてだんだん人間らしい見た目に近づいてきている。ニューロコンピューターもずいぶん小型化され、ロボットの内部に違和感なく収まっている。
三月になると、発表会に向けて見た目の完成度を高めだした。ドラマ用の特殊メイクの経験がある人を連れてきたということで、やけにリアルな人間っぽさになってきた。細くて短い手足、あどけない顔……
「なんかすごくナノに似てるんだけど?」
私がそう言うと、ロボットはこっちを向いて笑って言った。
「えへへー、似てますやろ。見た目も仕草も声もこれからどんどん似せていきますで。うちは今そのための特訓してます」
「なんで?」
「今度の発表会でナノ社長に見せかけて登場して、実はロボットでしたってばらして観客の度肝を抜いたるんですよ。ナノ社長が言い出しはったんですよ」
「ナノ、そんなこと計画してたんだ。ほんとイタズラ好きなんだから」
「いやー、おもろい計画やと思いますよ。せやさかい、うちも言うたったんですよ。うちがロボットやって証明するために、ステージでうちのボディを派手に破壊しましょって」
「ええっ!? そんなことしていいの?」
「代わりのボディさえ用意してれば、胴体真っ二つにされようがうちは平気でっせ」
楽園本社に戻ってから、ナノにあのロボットのことを聞いてみた。
「そうなのー。発表会はピコとマホとメカナノの3人で司会進行するのー。その途中でロボットだとばらしてねー、その後ろからあたしが登場するのー。みんなびっくりするのー」
「それでもいいけど、研究成果の発表会だから、べつに観客を面白がらせなくてもいいんじゃないかな」
「ロボットだと気づかないくらい違和感のない行動ができる、ということをアピールしたいのー」
「ああ、なるほど」
「だからねー、このことはマホには内緒なのー。当日はあたし本人だと思わせておいてねー、自然なリアクションをしてもらうのー。マホが本当のことを知ってたらわざとらしい態度になっちゃうのー」
「わかった。秘密にしておくよ」
今度の発表会は演技力が必要だね。そのことを考えながら帰宅して、ふと疑問に思った。なんで私たちが司会進行? 私たち三人は一旦有名になったから、今後も会社の宣伝のためのキャラとして利用されていくのかな。まあいっか……。
四月になり、私は4年生になった。卒業論文の研究に取り組み始める時期だけど、私は2年生のときからオートマタの研究をしているから、今すぐにでも論文を書き始めることができる。時間に余裕があるから大学よりも会社のほうに軸足を移しても良さそうだ。
四月中旬、エンパワーの研究成果発表会がアメリカで行われた。オートマタを基にした新しいニューロコンピューターを開発中ということが発表され、自分の周囲の状況を理解した自然な会話や翻訳が世界中で話題になった。その発表会の中で私たちがロボットを開発中ということも発表された。
翌日、今度は私たちの研究成果発表会の日だ。会場は大きなホール。ネットで生中継されるし取材のテレビカメラもたくさん来る。
私とマホはスーツを着ているが、ナノはゴスロリ衣装だ。
「二人ともバニーじゃないのー」
「そんなふざけた雰囲気じゃないよね。まあナノはスーツだとコスプレっぽくなるからゴスロリでいいと思うけど」
マホがいるうちはメカナノのことは話題に出さない。ナノが最初から登場するという前提で会話した。
そして本番直前、私たちは舞台袖で待機した。反対側の舞台袖にはメカナノを破壊するためのチェーンソーが置いてある。
「あっ、メモを控室に忘れたのー。取ってくるのー」
そう言ってナノは出ていって、少しして戻ってきた。メカナノだ。舞台袖は薄暗くて見分けがつきにくく、マホには気づかれてない。
定刻になり、ステージの後ろに映像が映し出された。私たちはステージの真ん中まで走っていった。
「みんなー、今日は来てくれてありがとうなのー!」
さすがメカナノ、ナノの言いそうなことをよく理解している。ここはツッコんでおこう。
「アイドルのコンサートかっ!」
すると客席から一斉に声があがった。
「「「ナノ社長――――!!」」」
観客のノリもいい。後半のドッキリ展開も許されそうな空気だ。




