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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
35/112

それぞれの仕事 2

「皆の衆、朗報じゃ。マホの研究成果がついに国に認められ、わらわたちは新たな(かね)づるを手に入れたのじゃ」


 十一月のある日、会議でリンがそんなことを言い出した。


「『金づる』だなんて、言い方悪いよ」


「であれば『(もう)け口』じゃ」


「全然良くなってないよ」


 このオートマタ、欲望がだだもれだ。


「マホが今まで大学で研究しておった『治癒魔法カプセル』が、医療器具として承認されたのじゃ」


 治癒魔法カプセルについては以前から会議のときに話題に上がっていて、だいたいは知っている。


「治癒魔法カプセルについて改めて説明しておきますわ」


 マホは3センチくらいの丸っこい容器を見せた。


「この中に治癒魔法のナノマシンが封じられておりまして、どなたでも魔導石無しで1度だけ治癒魔法が使えるという、使い捨ての道具ですわ」


「これが救急箱にあったらけがをしてもすぐに治せるのー! まさに一家に一つの備えなのー!」


「これをいつも持ち歩いていれば事故に遭っても生還できそうッスね。一人一つッスよ」


 うん、これは需要が大きい。たくさん売れそうだ。


「エネルギー源を組み込んだカプセルの生産はよその工場に委託するのー。でもそのカプセルに治癒魔法を封じる作業はうちの社員がやるのー。魔法使いがたくさん必要なのー」


「そうじゃな。できるだけ安く作って高く売り会社が暴利をむさぼるために、(おのれ)の給料に疑問を持たぬ純真な社畜どもをたくさんこき使うのじゃ」


「悪い言い方にもほどがあるよー!!」


「ならこうするのー。会社に資金が必要なこの窮地(きゅうち)を乗り越えるために一丸(いちがん)となって生産性を向上させる、やる気あふれる社員の方々にご協力願うのー」


「いい言い方だけど中身は全然変わってない! そんなに高く売りたいの?」


「ソーラーキャッスルを建てるためにねー、会社をもっと成長させる必要があるのー」


「あまり高いと独占禁止法に引っかかるよ」


「特許を活用して値段をつり上げるのは独占禁止法違反にならないのー」


「せっかく世の中の役に立つものを作るのですから、多くの方々の手に入りやすいお値段だとよろしいですのに」


「私もそう思う」


「量産できるようになったらそのうち値段は下げるのー。最初のうちは品薄になるから高めなのー。マホはほんといい子なのー」


 なるほど。強欲なナノでも歯止めは利いているようだ。


 そんなわけで、社内では治癒魔法カプセルの生産準備が進むことになった。




 ソーラーキャッスル建設予定地の土地を取得するために、ナノがソーラーキャッスル建設計画をモーリタニア政府に提出したら、「規模が大きすぎて協議が必要だからモーリタニアに来てほしい」と言われたそうだ。そこで十二月上旬、ナノはモーリタニアに旅立った。


 ナノは10日ほどで帰国した。政府との会議の結果、あまり具体的な結論は出なかったのでこれから国会で議論することになる、ということだった。モーリタニアの人口はおよそ400万人。そこに400万人が暮らせる建物を建てるというのだから、すぐに結論が出ないのも無理はない。


 建設予定地も見てきたそうだ。建設予定地はモーリタニア北西部の湾に面した海岸。湾の対岸にあるヌアディブという港町からは50キロくらいの道のりだ。


「すごく雄大な景色だったのー。陸地は岩と砂だけでねー、見渡す限り何もないのー。地平線の彼方(かなた)まで何でも自由に造り放題なのー」


「利用できるものは何もないってことだよね、わかってたけど」


「砂漠がそのまま海につながっていてねー、オレンジ色のいいビーチなのー」


「いいビーチって普通は白だよね」


「アフリカの海岸は(がけ)が多いからねー、こんな平らな海岸は貴重なのー。それからねー、十二月なのに全然寒くなくて風が気持ちいいのー」


「夏の暑さは半端ないってことだよね」


「北に行くと西サハラとの国境なのー」


「国境かあ。気軽に超えたらいけないのかな?」


「国境を超えるにはちょっとばかり覚悟がいるのー。地雷が埋まってるのー」


「ちょっとどころの覚悟じゃないよ! 命懸けだよ! なんでそんなことになってんの!」


「昔ねー、西サハラの領有をめぐってモーリタニアとモロッコが戦争したのー。それでねー、モロッコが勝って西サハラの大部分を支配してるのー。でもねー、西サハラの独立を目指すポリサリオ戦線がモロッコと戦ってねー、そのせいで地雷が埋まってるのー」


「その後どうなったの?」


「今でも時々戦ってるのー」


「紛争地帯じゃん! 危険すぎるよ!」


「大丈夫なのー、西サハラ側のことなのー。モーリタニア側は関係ないのー。そんなわけで国境を超える時は気を付けるのー」


「超えないよ!」


「浮遊魔法で飛んでいけば地雷なんて怖くないのー」


「そんなことしたら兵士に撃たれても文句言えないよ!」


「夢の詰まった素敵な大地だったのー」


「悪夢だよ! 場所を変えたほうがよくない? もしモーリタニアとモロッコの間でリベンジマッチが始まったら、戦争の最前線になっちゃうよ」


「戦争を起こさせないために何かができるかもしれないのー。いがみ合う勢力に割って入れる場所にソーラーキャッスルを建てるのはいい立地だと思うのー」


「戦争の火種になっちゃうかもしれないよ」


「もー、ピコってば文句ばっかりなのー」


「嫌だとか面倒くさいとか言ってるわけじゃないよ。あとで問題が起きそうなことは事前に検討しておかないといけないってこと。ちゃんと対策を考えておかないと、あとでひどい目にあうよ」


 ナノは不思議そうな顔をした。ポジティブ思考のナノにとって、リスクを検討するという発想がよくわかっていないようだ。


 この後、会社はモーリタニア政府と協議を続けていくことになり、ナノは度々(たびたび)モーリタニアに行くことになった。


 そうして年が暮れていき、年が明けた一月。ジャカルタ支社とマドリード支社が立ち上げられた。合同会社楽園が活動開始して1年でずいぶん成長したものだ。本社の社員数は50名を超え、楽園ロボティクスを含めたグループ全体では120名くらいになる。全体の毎月の収入は1億6千万円、支出は8千万円で、借金の返済を終えたようだ。

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