プロトキャッスル構想 2
お風呂でさっぱりした後はスーパー銭湯内の食堂で昼食。食べながら議論を進めてみよう。
「プロトキャッスルの階層構造ってさ、下のほうが工場で、真ん中がお店とオフィスで、上のほうが住居だと思うんだよね」
「動く歩道はどこでして?」
「真ん中あたり。動く歩道の近くにお店があるから、あちこち移動しながらいろんな買い物ができると思うんだ」
「一番下は道路なのー。外と出入りするのー」
「そうだね。その近くに駐車場も必要だね」
「一番下は墓場ではありませんこと?」
「お墓まで建物の中に無くてもいいんじゃないかな? 建物の外に墓地を造っておけば」
「わざわざ造らずとも、我々に刃向かう者どもの墓場となるであろう」
「殺すなー! そんな殺伐としたディストピアにしないよ!」
「それより、道路の下には地下室もあるのではないか? その最深部は極秘の研究所だ」
「きっと円柱形の細長い培養槽が並んでて、中に不気味な生き物が……なわけないよ! 地下室はあったとしても秘密じゃないよ!」
下の階に行くほどどんどん不気味になっていく巨大建造物。巨大な闇を抱えていそうで想像力を掻き立てられる設定だけど、そんなの無いほうがいい。
「一番上は公園にして屋根はガラス張りにするッス! そこでサッカーするッス!」
「絶対ガラス割るね、それ」
「砂漠の忌まわしき太陽の光をそのまま通すだと……。そんなことをすれば、我が肉体は黒焦げになってしまうではないか」
「でも解放感あって素敵なのー!」
まあ確かに、下の階の話とは真逆の爽やかさがあるね。
「屋根を全部ガラス張りにするんじゃなくて、所々大きな天窓を付けるくらいでいいかもね。そしてガラスの手前に網を張っておけばボールを防げる」
この日はその後あまりいい意見は出なかったけど、だんだんプロトキャッスルのイメージが固まってきたと思う。
それぞれの施設をどの階に配置するか、私一人で考えを発展させてみよう。
お店とかの配置は簡単に想像つくけど、太陽熱発電所をどこに配置するかが悩ましい。たくさんの海水を汲むからなるべく低い階のほうが汲み上げやすいし、水は重いので低い階のほうが重さに耐えられる。でもここで作った蒸留水は上水道に流すので、なるべく高い階にある必要がある。結局、発電した電気を使って水をポンプで高い階まで汲み上げないといけない。発電所を高い階に配置して海水を汲み上げる? それとも低い階に配置して、蒸留した水を汲み上げる?
そうだ。発電所は低い階に配置して、タービンを通った蒸気を太いパイプで高い階まで送り、その先の復水器でお湯にする。これなら蒸気の勢いで上のほうまで行きそうだからポンプは要らない。発電所は地下にして海水を流し込めるようにしよう。最上階近くに復水器と貯水槽を配置して、貯水槽に風を当てて冷やそう。
復水器の仕組みも調べてみた。冷たい海水が流れるパイプがあって、そこに熱い蒸気を当てることで蒸気をお湯に変える。……結局、海水を復水器まで汲み上げないといけないじゃん! そのせいで電気を使って発電効率が悪く……いや、そんなことないか? 海水は海から取り込んで地下にあるボイラーに流す。そのパイプの出口が海面より低い位置にあれば、パイプの途中がどんなに高い所を通っていても重力だけで海水が流れる。だったら、途中で最上階近くの復水器を通せば、沸かす前の海水で蒸気を冷やせる。そのぶん海水は温まるから、その後沸かすのに必要なエネルギーも減る。一石二鳥だ。
水の流れをまとめるとこうなる。まず、海から海水を取り込む取水口があり、そこからパイプが最上階近くの復水器に伸びている。復水器を通ることで海水は熱い海水になり、パイプを通って地下にあるボイラーに注がれる。ボイラーには千度以上の油のパイプが通っていて、それに触れた海水は高圧の水蒸気になり、その圧力でタービンを回して発電する。タービンを通った蒸気は太いパイプを通って最上階近くの復水器に導かれ、そこで冷やされてお湯になる。お湯は貯水槽に注がれ、その一部は風で冷やされて冷水になる。お湯と冷水はそれぞれ給湯管と水道管を通って各家庭に届けられる。そこで使われた水は下水管を通って下水処理場に集められ、浄化されて海に注がれる。
発電所はそれでいいとして、プロトキャッスルの階ごとの役割について考えてみよう。
1つの階は縦横それぞれ300メートルの正方形だ。その中心、四隅、四辺の中央の計9か所にグランドシャフトがある。通路を含めた住居1戸あたり100平方メートルとすると、1階あたり900戸。グランドシャフトや広い通路の面積を引くと800戸くらいが妥当かな。1戸あたりの居住者数は……たぶん独身や単身赴任が多くて、家族ごとアフリカに来る人は少数派だろう。1万人が暮らすとして住居は8千戸くらいだろうか。そうすると10階ぶんが住居ということになる。その規模感で考えてみよう。
しばらく考えていると具体的な案がまとまってきた。
地下1階は太陽熱発電所、下水処理場、備蓄用の貯水槽。重いものはなるべく地下がいい。
1階と2階は道路と駐車場。立体交差になっているので道路に2つの階が必要。1階は港に直接つながっている。2階にはよその街に行くバスターミナルがある。
3階は駅と倉庫。駅からソーラーキャッスルに向かう電車は建設作業員たちが毎日乗っていく。倉庫がここにある理由は、重いのでなるべく下のほうがいいというのと、駐車場に近いから。
4階からは9階は建設資材工場、清掃工場、火力発電所、修理工場。たぶん焼却炉とかはいくつもの階をぶち抜く高さが必要だろう。
10階から14階は、食品工場、植物工場、養鶏場。
15階は空調設備。ここから空気を取り込んで温度と湿度を調整して建物の隅々まで巡らせる。
16階は卸売り市場とお店のバックヤード。
17階から20階が店舗。色々なお店がある。
21階と22階は動く歩道。
23階は食堂。色々なレストランや喫茶店のほかに大きなフードコートがある。
24階は病院とか美容院とか。
25階と26階は学校、こども園、児童公園。子供の数は少ないだろうから必要なのは中学までで、高校生は親元を離れて暮らしてもらうか通信教育を受けてもらうか。
27階から30階がオフィス。警察署とかもあるだろうし、私たちの会社もあるだろう。
31階から40階が住居。
41階は集会場。広い部屋のそばに教会やモスクがあって、礼拝のほかに結婚式やお葬式もできる。
42階がホテル。大浴場もある。
43階は復水器と貯水槽。
44階はスポーツ公園。
屋上は煙突、エレベーターの機械、太陽熱発電用の設備など。15階で取り込んだ空気は煙突から出ていく。
44階建てということでソーラーキャッスルの半分以下の階数だ。1階あたり3メートル50センチとすると154メートル。でも工場とか公園とかはもっと高い天井が必要だから、だいたい200メートル。
全体の高さはそれでいいけど、ソーラーキャッスルの試作としての役割があるから、9本のグランドシャフトのうち真ん中のものだけはソーラーキャッスルと同じ400メートルにしてみたい。煙突として使えるし、太陽熱発電のための集光器を上のほうに付けて、周囲に置いた鏡から反射した光をそこで集めるという利用法もある。
この案をまとめて会議で発表した。
「すごいのー! 住むイメージがわいてきたのー!」
「わたくしもプロトキャッスルに住むのが楽しみになってまいりましたわ」
「自分も住んでみたいッス」
「ロビーは無いのー?」
「プロトキャッスルに歩いて来る人はいないだろうし、無くていいんじゃないかな」
「なるほどなのー。ピコ、この方針でもっと細かい所まで考えていってほしいのー!」
みんな満足してくれたようでよかった。




