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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
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プロトキャッスル構想 1

 私がマホと出会ってから1年になる十月上旬。私が会社で資料を作っていると、ナノから声をかけられた。


「ピコ。プロトキャッスルはソーラーキャッスルの試作版なのー。だからプロトキャッスルをどんな建物にするかをねー、ソーラーキャッスルよりも先に考えておく必要があるのー」


「そうだね」


「だから今週末にアイデア出し会議をするのー。場所はスーパー銭湯なのー」


「あのね、何度もツッコんだけど、会議はお風呂でする必要は無いからね」


「まだ1回しかやってないのー。たまにはやりたいのー」


「わかったわかった」




 そして土曜日。スーパー銭湯に集まったのは私とナノ、マホ、チア、鈴木だった。


 みんなでお風呂に浸かる。熱いと思ったけど、徐々に体が慣れて心地よい温かさを感じる。


「はあー、気持ちいいのー」


「で、プロトキャッスルの構想の話をするんだよね」


「せっかく気持ちいいのに仕事の話なんてするのは野暮(やぼ)ッスよー」


 チアはずいぶん引き締まった体をしている。マホほどではないけど筋肉があり、それでいてスリムだ。


「一応、会議として集まったんだからね。それがツッコミ所なのはわかってるけど、そこを否定されたら何も進まないから」


「クックックッ、全員裸というこの場の空気では、さすがのピコもツッコめぬか」


 私も結構()せ気味だけど、鈴木は私よりもっと痩せている。肋骨(ろっこつ)の浮き出ている感じがナノに近い。軟弱な体と自分で言ってるだけのことはある。


「ツッコみすぎただけだから。それより、プロトキャッスルの形って、グランドシャフト9本が立ってて、格子状に動く歩道でつながってると思うんだよね。正方形が4つある形」


「どうしてかしら?」


「ソーラーキャッスルの試作版なんだから、ソーラーキャッスルの部分的な構造と同じにして、問題が起きないか試したいの」


「なるほどなのー」


「それから、水と電力を自前で(まかな)うのが必須だよね。だからプロトキャッスルの近くには太陽熱発電用の鏡がたくさんあって、その鏡で集めた光で海水を沸かして水と電気を作るわけ」


「ソーラーパネルを鏡に映すんスか?」


「それは太陽光発電。太陽熱発電とは違うよ」


「太陽熱発電の設備って、どんなんスか?」


「塔が立ってて、その周りに鏡がたくさんあるんだよ。その鏡は太陽の動きに合わせて自動的に傾く装置が付いてて、塔に光を集めるわけ。塔の中には油の入ったパイプが通ってて、油を千度以上に加熱するの。そのパイプをプロトキャッスルまで通して……」


「天ぷらを揚げるのですわね」


「熱すぎて焦げるよ! 海水の入ったプールにそのパイプを通してお湯を沸かすんだよ。すごい勢いで水蒸気が出るから、その勢いでタービンを回して発電するわけ。その蒸気を復水器で冷やしてお湯にして、さらに冷やして水道水にするの」


「その蒸気をお湯にする前にねー、サウナを通すのー」


「水道水が汗臭くなるよ!」


「お湯の一部は冷やさずにそのまま風呂に注ぐがよい」


「スーパー銭湯に来てるからって、発想がお風呂になってるよ!」


「何も間違ってないッスよ」


 そう言われると確かにそうだ。ボケかと思ってツッコんでしまった。


「確かに、水道管のほかに給湯管もあると便利だね」


「ここのような大きなお風呂は必要ですわね」


「人口1万人の街に必要かな?」


「このような会議をするのに必要でしてよ」


「そんなわけないから」


「スーパー銭湯も数パーセントくらいは必要だ」


「さっきボケなかったからって、無理に駄洒落(だじゃれ)を言わなくていいよ!」


「ホテルと一緒にお風呂を作ってねー、宿泊客以外も浸かれるようにするのー」


「なるほど、孤立した街だからホテルは必要だね。でも外国のホテルなのにすごく日本式のお風呂だね」


「建設作業員は日本でたくさん雇うから問題ないのー」


 なんかアフリカな感じがしなくなるけど、まあいっか。


「まあそういう商業施設はいろいろ必要だろうけど、工場は発電施設以外に何が必要かな?」


「ロボット工場を作るのー」


「それはソーラーキャッスルに作ればよくない? プロトキャッスルのほうは建設作業員が暮らすための施設なんだから」


「じゃあねー、ソーラーキャッスルを作るための資材を作るのー。ピコパイプと、グランドシャフトと、エスカレーターと、動く歩道をたくさん作るのー」


「まあそうだね、それは現地で組み立てたほうがいいね。たぶん床や壁や窓の材料もたくさん必要そうだけど……それは船で運んでくればいいか」


「食品工場は必要だな」


「加工食品も船で運んでくるのー。食品工場は要らないのー」


「そうとも限るまい。日持ちのせぬものは現地で作らねばならぬ。豆腐とか」


 アフリカなのにどうしてこう日本っぽいかな。


「お野菜も日持ちがしませんわ。工場で作ってはいかがかしら?」


「面白い発想なのー! ピコ、野菜を作る工場を作るのー!」


 ナノはふざけているつもりだろうけど、野菜を作る工場は実際にあるんだよね。


「うん、いいんじゃない?」


「さすがピコなのー……え――! ホントなのー!?」


「植物工場っていってね、建物の中で照明の光だけで野菜を水栽培する工場があるんだって。光や空気を完全にコントロールできるから効率よく育つらしいよ」


「ではお肉も工場でできますかしら」


「培養肉ってのはあるんだよね。肉の細胞を培養して増やすっていう」


「そんなことまでできるなんて知らなかったのー!」


「まだ割高だと思うけど、そのうち商品化されるんじゃないかな。でも冷凍肉を船で運んできたほうが効率いいだろうね」


「卵や牛乳は鮮度が大事だから工場で作るッス!」


「それは養鶏場(ようけいじょう)と牧場じゃないとできないね。日本の養鶏場は見た目が工場っぽいけど」


 みんながチアを見る目がなんか冷たい。完全にスベったね。


「でも大豆から作る代用卵ってのはあるよ。豆乳も牛乳の代わりになるし、大豆から作る代用肉もある」


「大豆はすごいのー!」


「あと必要な工場っていったら、清掃工場があるよね」


「イブニングドレスなのー」


「その正装じゃなくて、ごみ焼却場。それと、下水処理場も要るね」


「それが無いとどうなるのかしら?」


「うんこだらけなのー!」


 そんなこと大声で言うもんじゃない。他の客から注目を浴びちゃう。


「我が前世だとよく腕利き鍛冶(かじ)職人に装備の修理を依頼したものだが……そのような職人の集う工房は無いのか?」


「ああ、修理工場ね。何か故障したときにすぐ修理できないと困るから、孤立した街だとそういう工場が重要になってくるね」


「あと、太陽熱発電だと夜や曇りの日は発電できないのー。火力発電所も要るのー」


「まあそうだね」


 みんな黙って見つめ合った。必要な工場はこれ以上は無さそうだ。するとチアが手を挙げた。


「あの、1つ質問いいッスか?」


「なんでもどうぞ」


「じゃあ、マホさんのいた世界って、みんなそんなにおっぱいが大きいんスか?」


 確かになんでもどうぞって言ったけど、プロトキャッスルとは何の関係もない質問だった!


「そんなことありませんことよ。わたくしは向こうでも特に大きいほうでしたわ。ただ、ナノさんほど胸のかわいらしい大人の女性はいらっしゃいませんでしたわね」


「その情報は余計なのー!」


「チアは今までそれが気になって仕方なかったんだ」


 チアも結構スタイルいいからそんなに気にすることないと思うけどな。でも胸は普通サイズか。


「ピコ先輩は余裕でいられていいッスね。そんなほっそい体で、おっぱいはそこそこあって」


「そんなー。私、スタイルには自信ないよー」


「そんな事言うなんてひどいのー! ピコのスタイルが悪かったらあたしは何なのー!」


「ナノは全身からかわいさがあふれ出てるから全然問題ないよ!」


 私より他のみんなのほうが容姿に魅力があると思うんだけど、みんなも自分の容姿に満足していないみたい。そんな話で盛り上がったせいで、プロトキャッスルの話は全然進まなかった。

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