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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
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建築の骨組み 4

 エスカレーターでの垂直方向の移動を考えたから、水平方向の移動についても考えてみよう。


 水平方向の移動は動く歩道がいい。グランドシャフトの間をつなぐ動く歩道のある階を設ける。家から遠いお店まで買い物に行くには、まず近くのグランドシャフトまで歩いて行き、エスカレーターで動く歩道のある階まで行って、動く歩道でお店の近くのグランドシャフトまで行き、エスカレーターで目的の階まで行って、そこから歩いて目的のお店に行く。


 動く歩道といっても建物の端から中心まで1キロくらいあるんだよね。歩くのと同じくらいの速度だとしたら15分くらいかな? うん、動く歩道の上に椅子が要る。というか、もっとスピードアップしたい。そうだ、これもエスカレーターのときみたいに遅い歩道と速い歩道をくっつけてみよう。まず遅いほうの歩道に乗って、その隣にある速い歩道に乗り換える。速い歩道は倍の速さとしたら7分半で中心に着く。その隣に3倍速の歩道があれば5分で着く。この3種類の速度の歩道を組み合わせるとしてみよう。


 右側通行とした場合、この動く歩道には左側から乗る。左側が低速レーン、真ん中が中速レーン、右側が高速レーンだ。低速・中速のレーンは狭く、高速レーンは広くて椅子がある。一旦高速レーンに乗ったらそうすぐには降りたくないな。この高速レーンは建物の端から端まで切れ目なく繋がってるといいよね。乗り降りするのはグランドシャフトの前だけだから、低速・中速のレーンはグランドシャフトの前だけにあればいい。


 となると、別の方向の動く歩道とは立体交差しているんだろう。立体交差している道を右折するには、高速レーンの右からエスカレーターが曲がって伸びていて、交差する歩道の高速レーンにつながっているといい。低速レーンから曲がって伸びたエスカレーターが、交差する歩道の低速レーンに繋がっていれば左折ができる。動く歩道の立体交差がある場所はグランドシャフトのそばだね。

挿絵(By みてみん)

 そうすると、グランドシャフトのエスカレーターから降りた人が低速レーンに乗り込む所で、立体交差を左折してきた人がやって来るわけか。そしてグランドシャフトに向かう人と、左折したい人も集まってくる。グランドシャフト前の低速レーンが混雑して事故が起きそうだ。


 実在の高速道路の立体交差を参考にしてみよう。調べてみると、「クローバー型」のジャンクションというのが良さそうだ。これを真似(まね)すると、高速レーンの右に右折用のエスカレーターがあるというのは同じ。そのエスカレーターに乗らずにちょっと進むと、高速レーンの右にもう一つエスカレーターがあり、これに乗ると円周上を4分の3回転して左折し、交差する高速レーンの右側に出る。これなら混雑が緩和されそうだ。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 ソーラーキャッスルの全体像についても考えてみよう。


 ソーラーキャッスルのコンセプトとして「いろんなお店に短時間で行ける」というのがある。だからこの建物の中心部は商業地区になっていて、それを取り囲むように居住地区があるのがいいだろう。


 職場や学校はどうしよう? お店以外の職場といえばオフィスとか工場とか。そこに勤めている人にとっては自分の家にできるだけ近いほうがいい。取引のある会社同士は近いほうがいい。それ以外の人にはどうでもいい。だとすれば、居住地区の外側を取り囲むように職場があるのかな? いや、住宅の真上とか真下とかが職場のほうがもっと効率良さそう。工場は人数が少ないわりに広い空間が必要だから邪魔にならないように外側のほうがいいし、重い機械を()え付ける必要があるから構造的に丈夫な下のほうがいい。


 そうだ、店といってもコンビニやスーパーといった身近な店は、商業地区内よりも居住地区内にあったほうが家から近くて済む。居住地区は、住宅・オフィス・学校・店・工場が上下に積み重なっていて、グランドシャフト内のエスカレーターで行き来するというのがいいんじゃないかな。


 動く歩道は碁盤(ごばん)の目の形に作って、その交差する所にグランドシャフトを建てると、交差点で1回曲がるだけでどの場所にも行くことができる。


 商業地区を居住地区が取り囲む形だから、建物全体の形としては円形がいいのかな? 四角だと隅のほうに住んでる人が不便だし。


 待てよ、中心部が商業地区なんだから、そこから放射状に動く歩道を作って、それに垂直に交わるように同心円状の動く歩道を作っても、交差点を1回曲がるだけで目的地に着く。商業地区に行きたいときは1回も曲がらずに行けるから、このほうが効率的かな? でも動く歩道やグランドシャフトの密度には中心部と周縁部で(かたよ)りができるから、放射状の歩道の本数は周縁部ほど多くする必要があるだろう。そうすると何回も曲がる必要が出てくるし、道に迷いやすくもなる。曲線が入ると建物の構造も複雑になって建てにくくなるから、シンプルな碁盤の目のほうがわかりやすくていいかな?

挿絵(By みてみん)

 みんなの意見も聞いてみよう。私はここまで考えたことを資料にして会議で発表した。


「なるほどねー、人の移動は便利そうなのー。でも物流はどうなのー? 工場からお店にどうやって商品を届けるのー?」


「あ、そこはまだ考えてない」


「じゃあねー、トラックが通る道路のある階も作るのー。工場からエレベーターで駐車場まで運んでねー、お店の近くのグランドシャフトまでトラックで行ってねー、そこからエレベーターでお店の近くまで運ぶのー」


「そうだね、動く歩道の階と同じような立体交差構造の道路の階があっていいね」


「必要な車は物流のトラックだけじゃないと思います。住宅街であっても救急車や引っ越しのトラックは必要でしょう」


 そう発言したのは、えっと、誰だっけ……名前を憶えていないモブの人。確かに、住宅街でもたまには車が通る必要があるね。垂直方向の移動はなるべくグランドシャフト内に収めたかったけど仕方ない。


「そうすると、建物の中に1か所くらいは、車で100階まで行ける坂道があるといいね」


「自転車で一気に下りたいッス!」


「それは死ぬからやめてって!」


「じゃあキャスター椅子なのー」


「もっとダメだよ! それよりさ、動く歩道とグランドシャフトの配置は、碁盤の目と放射状のどっちがいいかな?」


「どっちかというと碁盤の目なのー」


「わたくしも碁盤の目が良いと思いますわ。住む人や建てる人にとってのわかりやすさまで考えるなんて、さすがピコさんですわ」


 他の人も異論はないようだ。少しして、チアが手を挙げた。


「あのー、自分、バカなんで、わからないんスけど……、あの、この建物を建てる人について……」


 チアにしては珍しく歯切れが悪い言い方だ。


「誰もいない砂漠に建てるんスよね。建てる人たちって、どこに住んでるんスかね?」


 場が静まり返った。砂漠といっても街はある……けど、街から何十キロも離れたところを想定してる。じゃあ建てながら住めば大丈夫? いや、基礎工事とかグランドシャフトを建てている段階とかだと住めたもんじゃない。居住地区から作っていくとしても、先に作る下のほうは工場だし、住宅だけでなくいろんな店も出来ないと暮らせない。えー? どうしよう!? なんかみんなこっちを見てるし!


 ソーラーキャッスルより先に仮設住宅を建てる? 砂漠に仮設住宅だけあっても暮らせないから、やっぱり店とかは必要。仮設住宅の電気や水道はどこから引いてこよう? ソーラーキャッスルなんて巨大なものを建てるには作業員が何千人も必要だし、その人たちの生活を支える人たちも必要。仮設住宅というより仮設の街って規模になる。そんなのできるわけが……いやまてよ。なんかこれ、ソーラーキャッスルに似ている。規模が小さいだけで、必要な要件はソーラーキャッスルと同じじゃない?


「ソーラーキャッスルを建てる前に、1万人が暮らせる建物を建てて、作業員はそこに住んでもらう」


 私は苦し紛れにそう宣言した。思い付きだけど、いいアイデアかもしれない。


「じゃあ、その1万人が暮らせる建物を建てる作業員はどこに住むんスか?」


 全然いいアイデアじゃなかったー! 1万人が暮らせる建物を使うという前提ができたぶんだけ、むしろ私を窮地(きゅうち)に追い込んでる気がする。えーと、それを建てる前に、数百人が暮らせる建物を建てる? それだと永遠に解決しない。数百人が暮らせる建物を別の場所で建てて、それを砂漠まで持ってこないと。船に乗せて? そんなことできる? 船と建物を合体させればいい? いや、その船に暮らせば……そうだ、それでいい!


「数百人が暮らせる船を海岸に停泊させて、そこに住む」


 今度こそいいアイデアな気がする。さあどうだ。数秒して歓声が上がった。


「いい計画なのー! さすがピコ、よく考えてあるのー!」


 私は得意げな顔をした。たった今考えたんだけどね。


「1万人が暮らせる建物はなんて名前なのー?」


「プロトキャッスル」


 口から出まかせだ。仮設のプロトタイプなのに、なんでキャッスルなのかわからない。


「わかったのー。じゃあ大きな船を手配することを考えておくのー」


 よかった、これで問題ないようだ。

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