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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
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建築の骨組み 3

 ソーラーキャッスルの基本構造について、私一人でもうちょっと考えてみよう。


 トラス構造の床に使うピコパイプは、太さ10センチ、長さ1メートルと想定して実験した。1メートルの棒をピラミッド型に組むと、ピラミッドの高さは大体70センチ。その上下それぞれに水平のパイプがあるから、10センチずつ加算して90センチ。この骨組みの上に床板を張る必要があるけど、これも軽くて丈夫なものにするとなると、床板も細かいプラスチックの棒でトラス構造にする必要があるだろう。床板の厚さは10センチとして、これで床全体の厚みが1メートルになる。ずいぶん厚いけど、換気用のダクトや水道管などを通すスペースとして利用できると考えると無駄ではないだろう。


 床から天井までの高さを2メートル50センチと考えると、1階ぶんの高さは3メートル50センチになる。100階建ての高さは350メートル。いや、天井が高い階もあるだろうから、もっと高くなるはず。400メートルとしておこう。


 太さ10メートル、高さ400メートルの柱を縦横150メートルおきに配置する。この巨大な柱にも何か名前を求められそうな気がする。恥ずかしい名前を付けられる前に名前を考えてしまおう。「グランドシャフト」。なんとなくだけど、これでいい。


 グランドシャフトの間は太さ90センチのピコパイプで水平につなぐ。90センチのピコパイプには鉄も使って粘りを持たせ、局所的な力にも耐えられるようにする。隣同士だけじゃなく、斜めにあるグランドシャフト同士も90センチのピコパイプでつなぐ。そしてその間を10センチのピコパイプのトラス構造で埋めつくして、床板を載せて床にする。隣同士のグランドシャフトは、所々に斜めのピコパイプを加えて補強する。


 トラス構造の中に穴をあけると強度が下がりそうだから、エスカレーターとかはなるべくグランドシャフトの中を通すのがいいだろう。垂直のダクトや配管もグランドシャフトの中。そう考えると、グランドシャフトはもっと太いほうがいいのかな。


 垂直方向に長く作る必要があるものを考えてみよう。移動手段としては、大人数でも混雑しないようにエスカレーターが基本。上りと下りが要るね。でも大きな荷物を運ぶ時や足の不自由な人のためにエレベーターは必要。停電や災害のときのために階段も必要。それから配管としては、まず換気用のダクト。建物の隅々まで空気をいきわたらせるためにすごく太いのが必要。給気用と排気用に2本要る。あと、上水道と下水道。電線、光ケーブル。ガス管……は要るのかな? オール電化かもしれない。電話もインターネット回線を使うほうが安上がりだから電話線は不要。あとテレビ用のケーブルもあるといいかな。


 そう考えると、グランドシャフトの内部は直径15メートルくらい必要な気がしてきた。グランドシャフトの壁は分厚くしたいから、外側の直径は20メートルだろうか。


 ここまで考えたことを簡単な資料にした。そして大勢の人が集まる会議の時に発表して、みんなの意見を聞いてみた。


「だいたいわかったのー。150メートル間隔でエスカレーターがあるってのはねー、どのくらいの距離感なのー?」


「どこにいても1分ちょっと歩けばエスカレーターまで行ける感覚かな」


 チアが手を挙げた。


「自分はあまりエスカレーターを使わないんで疑問なんスけど、下りのエスカレーターってなんで必要なんスかね?」


「なんでって、階段より楽……いや、大して楽になってない気がする。なんであるんだろう?」


 山本さんが口をはさんだ。


「階段の下りは上りよりも足に衝撃がくるため、お年寄りにはきついのです。若者でも100階から1階まで階段で降りたら次の日は筋肉痛で歩けなくなるでしょう」


「なるほど、エスカレーターの下りは必要ですね」


 鈴木も口をはさんだ。


「100階から1階まで198回も乗り降りするとなれば、エスカレーターでも楽ではあるまい。……軟弱になる呪いを受けたこの体にはな」


「100階から1階まで螺旋(らせん)の坂道を作って、スケボーで一気に降りるッス!」


「生きて帰れる気がしないよ! 100階から1階までの螺旋にするんだったら、エスカレーターを螺旋にすればよくない? 乗り降りは1回ずつで済むよ」


「いいアイデアなのー! エスカレーターに椅子があったらねー、目的の階に着くまで座って待ってられるのー!」


「目的の階に着いた瞬間にうまく飛び降りねばならぬな。タイミングを逃せば無様(ぶざま)に転倒必至だ」


「では、エスカレーターはゆっくりめにしてはいかがかしら」


「えー、一番上まで行くのに何分かかるんスかー。じれったいッスよ」


 なんか思ったよりもめている。エスカレーターの速度を上げつつ乗り降りをしやすく工夫しないと。……ん、ひらめいた!


 私はホワイトボードにエスカレーターを描いた。


「これ、形は直線だけど、1階から100階までつながってる長いエスカレーターと考えて」


 それに隣接して小さいエスカレーターを描いた。

挿絵(By みてみん)

「で、2階から3階までの普通のエスカレーターが隣にくっついてるとするの。2階から乗りたい人は、まずこの短いエスカレーターに乗って、上っている途中で長いエスカレーターに乗り換えたらどうかな。この長いエスカレーターは速めに動いてるの」


 上のほうに別の小さいエスカレーターを描いた。


「5階で降りたかったら、4階から5階までの短いエスカレーターに乗り換えるの。そしたら簡単に降りられる」


 歓声が上がった。


「さすがピコ、すごいのー! 特許取るのー!」


「いやいや、これだけ長いエスカレーターだと、重量を分散して支える仕組みとか安全面で色々考えないと実現できないよ」


「そんなの後で誰かが研究するのー!」


 誰かって、誰? よその会社に頼むつもりだろうか。


「他になにか意見は?」


「グランドシャフトからトラス床の中にダクトが通っているのでしたわよね」


「うん。感染症対策のためにも、全部の部屋に給気口と排気口を設置して新鮮な空気を送りたいからね」


「これって、あれかしら。スパイが忍び込んだときに潜り込む通路」


「そうそう、あれ……って、マホはまたそういうアニメ文化ばっかり覚えて!」


「クックックッ、面白い。(わな)を仕掛けてスパイを撃退するとしようか」


「いやいや、ダクトに潜り込んで遊ぶのー! 面白い仕掛けをいっぱい用意するのー!」


「そんな所で遊んだら危ないよー! それに他人の家の中につながってるから泥棒し放題だし、簡単に入れないようにしないと。誰かが通ったら警報が鳴るようにしようよ」


「そのダクトの大元の所でウナギのかば焼きを作るッス!」


「においで飯テロかー!」


 ふざけたアイデアが多い気がするけど、順調にイメージが膨らんできている。これでよしとしよう。

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