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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
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軌道に乗って成長へ 1

 少しさかのぼって、新入社員が集って3か月ほど経った四月半ばのこと。みんな様々な魔法を使えるようになっている。そしてこの日から魔導石を作る魔法の講習が始まった。この魔法はかなり難易度が高く、これまでの様々なトレーニングの成果が試されるという。


 私は魔導石を作る魔法の講習を受けることを早々にあきらめた。今の私の実力では全くついていけない。そして他の人も次々と脱落していった。チアと鈴木はうまくやっていけている。


 そして五月下旬。会社の全員を集めた会議でマホが発表した。


「皆さん、長い間の魔法のトレーニング、お疲れさまでしたわ。皆さん大変上達なさって、一人前の魔法使いになられましてよ。これからは、もっとたくさんの方々に魔法を広めるための講師として活躍なさっていただけますわよ」


 歓声が上がった。もうすぐ自分たちの力でお金を稼げる日が来ることに喜んでいる。


「そして、その中で2名の方が魔導石を完成させることが出来ましてよ。この方々には、これから魔導石を作る仕事をお願いいたしますわ」


 そう。これまでの魔法の習得度合いでこれからの仕事が変わる。毎日自主的に練習していたチアの努力が(むく)われるのかな。


「その一人目は、岡部さんですわ」


 えっ? 岡部さんって、経理の? 事務仕事をやっていたイメージしかないけど、いつ魔法の練習をしていたんだろう?


「もう一人は、後藤さんですわ」


 そんな人いたっけ? そういえばモブの中にそんな人がいたような気がする。えー、なにこの展開! チアの努力はどうなったの?


 そんなモヤモヤを抱えた私をよそに、話題は岡部さんの今後のことになった。岡部さんは魔導石の制作に専念することになり、代わりに事務員を新しく雇うという。


 会議のあと、チアに声をかけてみた。


「チア、今まで一人でトレーニングを頑張って来たのに、残念だったね」


「自分、不器用ッスから根性で克服(こくふく)しようとひたすら練習したんスけど、器用にはなれなかったッスねー」


 残念そうだけど、悔しさを他に向けたりはしていない。大丈夫そうだ。


「一人のときはどんなトレーニングしてたの?」


「念動魔法の練習ッス」


「それは私も見たけど、他には?」


「ずっと念動魔法の練習ッス」


「ずっと同じ練習?」


「そうッス! 念動魔法だけはすごく上達したッスけど、まだまだ高みを目指せるッス!」


「あ……そりゃあ器用になれないよ……。いくら努力しても、努力の方向性がおかしいと成果は出ないよ」


「根性で成果が出なければ気合で乗り越えるッス!」


 チアってここまで脳筋だったんだ。努力が無駄になる前に、もっと早く気付くべきだった。




 魔導石を商品として売る準備がだんだんと進んできた。


 魔導石と1か月間の講習がセットで80万円。しばらくの間は供給量に限りがあるので、インターネットで申し込みできるようにして、研究機関や大学病院などに優先的に販売するそうだ。


 岡部さんと後藤さんが着々と魔導石を増やしていっている。チアたちは講師になるために、教える内容をみんなで練っている。決まった内容は鈴木が文書化して、受講者に配るテキストにする。


 ミーティングルームの前を通りがかると、チアと鈴木とショウさんが講習内容を話し合っていた。


「光を灯す魔法のときって、皆さんどんな呪文を唱えてるッスか?」


「俺はこう唱えてるぜ。『きらめけ、俺! 輝け、俺! 俺の魅力は全てを照らす!』」


「それってショウさんしか唱えられそうにないッスね。自分はこうッス。『気合充填(じゅうてん)! 光れ――!!』」


「気合の入れすぎで無様だな。我のように美しく唱えるがよい。『光の聖霊よ、我が闇に染まりし血肉を(なんじ)に差し出す。汝の心の(おもむ)くままに、この世を照らしてみせるがよい!』」


 なんか個性的すぎる気がするけど、みんな自分のやりやすいように呪文をアレンジしてるんだ。私は廊下からみんなに声をかけた。


「光を灯す魔法の呪文って、私は『光よ、灯れ』だったけど、そうやって自分たちの個性に合わせて呪文を変えてみるのもいいね。みんなの話をうまくまとめてね」


「あざッス!」


 同じことをするにも、やり方は人それぞれだ。単に決まった動作を教えるよりも、ずっと本質を突いた講習内容が期待できそうだ。




 七月中旬から魔導石を1か月あたり100個限定で販売する、と発表すると、たちまち注文が殺到した。当分の間品切れが続きそうな大盛況だ。ナノは大喜びしている。


「やったのー! 100個完売で8千万円が入ってくるのー!」


「すごいね。社員は16人だから1人あたり5百万円だね。そのお金はどうするの?」


「借金5千万円の返済なのー」


「いつの間にか5千万円になってたんだ! それもすごい!」


「他に経費を払ったらほとんど残らないのー。儲けが出るのはその次の月からなのー」


 自分の金銭感覚とかけ離れてきている。大がかりなことになってきたもんだ。




 そして七月中旬になり、魔導石を購入した人たちが会社に集まってきた。100人を4つのグループに分け、グループごとに時間をずらして講習を行う。1つのグループは翻訳魔法を使って英語での講習になる。講習以外の時間は、それぞれの受講者が自分で練習したり小部屋で個別指導を受けたりする。


 講習の様子を(のぞ)いてみた。チアが前に立ち、受講者に呼び掛けている。


「さあ皆さん! テキストにある呪文を、一緒に唱えるッスよー!」


 受講者たちが声を揃えて呪文を唱えた。


「「「光の聖霊よ、我が闇に染まりし血肉を汝に差し出す。きらめけ、気合! 輝け、気合! 俺の魅力、充填! 汝の心の赴くままに、光よ灯れだったけど、そうやって自分たちの個性に合わせて呪文を変えてこの世を照らしてみせるがよい! 光れ――!!」」」


 もうやだ。恥ずかしくて消え去りたい。


 その後、テキストの内容はマホが監修することになった。




 八月上旬。今月もまた100個の魔導石がすぐに完売した。


「いやー、すごく順調なのー。だからねー、次の段階を考えたのー」


 会議室で、ナノは上機嫌で語った。


「魔導石の増産なのー。今の何倍ものペースで作るのー」


「今は2人で作ってるけど、もっとたくさんの人数で作るってこと? 講師の人数が減るのに受講者の人数が増えることになるね」


「だからねー、また社員の募集をかけるのー」


 そっか、年末に社員を募集した後ずっと募集停止状態だったんだ。


「受講者が増えるのでしたらトレーニングルームにおさまりませんわ」


「そろそろオンライン講習も始めないとね」


「オンライン講習を始めるのもいいけどねー、あたしは別のビルを借りるのー。支社なのー」


「支社かあ。いいねー、会社がどんどん発展していくね」


「そうなのー!」


 翌日からナノは会社に来なくなった。どうしたんだろう?


 2週間たって、ようやくナノが会社に戻ってきた。


「ナノ、久しぶり。どうしてたの、心配したんだよ」


「支社を作る準備をして求人を出してたのー。大変だったのー」


「そっか、私たちの知らないところで頑張ってたんだ。いい人が集まるといいね」


「続々と応募が来てるのー。オンラインで選考するのー」


 九月になり、選考に受かった新入社員たちが会社に集まってきた。総勢25名。そのうち外国人が18名、ピザ屋が1名。


「どういうこと? なんでこんなに外国人が多いの?」


「日本のほかにヨーロッパと東南アジアで求人をかけてきたからなのー」


 ナノは新入社員たちに向かって言った。


「みんなー、合同会社楽園にようこそなのー! このメンバーで協力してマドリード支社とジャカルタ支社を立ち上げるのー!」


 ナノの行動力が半端ないのは理解しているつもりでいたけど、まさか思い付きで外国に支社を作ってしまうとは……。


「いきなり外国に支社を作るなんて、聞いてないよ」


「支社を作るとは言ったのー。魔法の講習を受けたい人は世界中にいるからねー、支社はなるべく世界中に散らしたほうが便利なのー。だから支社を作るなら外国なのー」


「世界中で講習を受けられるようにするためにも、オンライン講習を始めるべきなんじゃないの?」


「オンライン講習の講師はそれぞれの言語ごとにいたほうがいいのー。その講師を育てるのにも外国の支社があったほうが都合がいいのー」


 新入社員たちは私たちのビルで4か月の間魔法の講習を受けることになった。そのあと外国人社員たちはマドリードとジャカルタに向かい、支社を立ち上げるという。オンライン講習も近いうちに始まることになった。


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