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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
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知識のデータ化 1

 新入社員たちが魔法のトレーニングをしている間に、私のオートマタ研究もだいぶ進んだ。


 まず、あの頭の上半分だけのオートマタ「タマ」からマイコンにつなぐ回路を作り変えて、マウスとしての信号をパソコンに送れるようにしてみた。タマは初めは戸惑(とまど)っていたが、徐々にマウスポインタをちゃんと動かせるようになった。別のマイコンにもつないでキーボードとして動作するようにした。これでタマは、パソコン画面を目で見て、それに反応してパソコンを操作できるようになった。二月の段階で、自分でインターネットから様々な情報を得ることができるまでに成長した。


 オートマタを作る魔法があるということは、オートマタを改造する魔法もあるということ。私はマホに相談しながらタマに手を加えることにした。タマが学習した、マウスやキーボードの信号を送ってパソコンを操作するときの思考パターンを、抽象化してコンパクトな知識データにするのだ。私が魔法をかけるとタマは知識の整理を始め、1日ほどで知識データが完成した。それからのタマのパソコン操作は、まさに爆速だった。マウスやキーボードを無意識に操作し、文章を思い浮かべるだけで画面に表示できるようになったのだ。


 今度は電気信号を魔力に変換する素子(そし)を作ってもらい、パソコンからマイコンに出力する信号をタマにつなぐ回路を作った。パソコンからの信号は非常に高速に切り替わるので、そのままではオートマタは認識できない。私は魔法でタマに手を加え、新たな感覚器官のように動作するようにした。これも最初はうまくいかなかったが、徐々にタマのほうが慣れてきて、パソコンとの間でファイルのやりとりができるようになった。これも知識データ化に成功した。


 そうすると、オートマタの中にある知識データをパソコンにコピーできるようになった。パソコン内の知識データは、またオートマタの中に戻すことができる。




 もうすぐ3年生の新学期が始まる四月初め。私は会議室でナノ、マホ、リンに現状報告をした。


「そういうわけで、オートマタの知識データをファイルとしてパソコンに保存できるようになったの」


「そうすると何ができるのかしら?」


「インターネットを通じて、オートマタ同士で知識を交換できるってことだよ。前に話したでしょ、オートマタを電子回路で作って、たくさんの知識を集めるって」


「その夢を実現する道のりが見えてきたのー! ピコ、すごいのー!」


「どのような知識から集めていくのがよろしいかしら?」


「まずはマホの魔法の知識をデータ化したいね。今はマホとリンにしかわからないことも、たくさんのオートマタたちに手分けできるようにしたいな」


「でしたら、次はピコさんのアニメの知識ですわね」


「アニメの知識があっても、せいぜいマニアックな会話ができるくらいだよ! そんな知識はやめとこうよ!」


「なら、言葉かしら」


「いろんな国の言葉のデータがあれば、オートマタが通訳をできるね」


「外国語の先生たちに知識をもらいに行くのー!」


「技術もデータで欲しいのう。車を運転してみたいものじゃ」


「リンが運転席に座ってアクセルやブレーキに足が届くと思う?」


「そこは気合でなんとかするのじゃ」


「気合でなんとかなるわけないでしょ! チアみたいなこと言うなー!」


「お料理の技術があると役立ちそうですわ」


「3つ星シェフに知識をもらいに行くのー!」


「3つ星シェフができることは全部オートマタやロボットができるようになったら、そのシェフは要らなくなっちゃうよ。応じてくれるシェフはいないんじゃないかな」


「うーん、そう考えるとねー、お仕事の知識は共有が難しいのー。ロボットがなんでもやってくれるという夢を経済の仕組みが邪魔するのー」


「家庭料理ならよいわけじゃろ。家庭内や趣味でやる範囲の知識を集めればよいわけじゃ。日曜大工とか、釣りとか、SMとか」


「『趣味』といって、どうしてそういう趣味を思いつくかな、変態リンちゃん」


「そなたの知識じゃぞ、変態ピコ」


「むー……」


「手始めに学生や教職員の知識をたくさん集めて全部わらわに読み込ませるがよい」


「リンの頭をバラしてコードを付けていいんだったら、やってみようか? 元には戻せないけど」


「ならぬー! それは嫌なのじゃー!」


「あははは」


 意地悪なリンが慌てるのを見るのは楽しい。


「そうそう、機械情報工学科と電子工学科が共同で進めていた研究も進展があったよ。薄いシート状の半導体上にニューロン素子を作って、マイクロアームでそれをめくることができたんだよ。実際の魔術回路と比べるとまだまだ100倍以上のサイズだけど、改良を加えていけばできそうだとわかったよ」


「よーし、きたのー! 鈴木風に言うなら、『今こそ時は満ちた』なのー!」


「そこで鈴木風に言う必要無いよね? みんなチアや鈴木に毒されてない?」


「この研究成果をエンパワーに製品化してもらうのー」


 エンパワー社といったらアメリカの有名な大手半導体メーカーだ。そういえば、大手企業を巻き込むって話をしてたね。


「さっそくエンパワーのCEOにメールしてみるのー」


 ナノはスマホでメールを打ち始めた。


「えーと、『ハロー、ナノなのー』」


「ちょっと! いきなりCEOにメールを送って相手にされるわけないじゃん! しかもそんなフランクに」


「こういうのはインパクトが大事なのー」


「いやちょっと待って。『なのー』ってどう英語に訳すの?」


「語尾に『nano』って付ければいいのー」


 いいのか、それで。CEOがユーモアの通じる人であってほしい。

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