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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
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会社の立ち上げ 2

 年末年始はマホと一緒に出掛けたり、家でのんびりしたりして過ごした。


 そして、マホとリンは寮に住むため我が家を後にした。来た時には私物をほとんど持っていなかったのに、いつの間にか服やら生活用品やら色々な私物を増やしていた。リンの私物が意外と多いことにリンのしたたかさを感じる。


 マホとリンがいなくなった部屋で仰向(あおむ)けに寝そべった。別れるときは寂しいとは思わなかったのに、あとになって寂しさがこみ上げてくる。そうしていると、SNSでナノから集合の連絡があった。


 集合場所にはマホとリンがいた。こんなにすぐ再会すると、さっき感じた寂しさが無駄だったような感じがする。すぐにチアと鈴木も来て、遅れてナノが来た。ナノは人を呼び出しておいて自分が遅刻することがよくある。


 ナノは私たちを近くのオフィスビルに連れて来た。


「このビルの3階を借りたのー。ここが今日からあたしたちの会社なのー」


 3階に行くと、いくつもの部屋があった。


「こっちの部屋が事務作業をするオフィスなのー。こっちは工房で、こっちが魔法の講習会をするトレーニングルームなのー」


「いいねー。ちゃんとした会社になってきてる。ここを借りるお金はどうしたの?」


「銀行から一千万円借りてきたのー」


「一千万!」


「このお金でみんなの給料も払っていくのー」


 ナノは本気で会社経営することを覚悟してる。


「でもねー、このビルには欠けているものがあるのー。それはねー、お風呂なのー」


「大変ですわ、それでは会議ができませんわ!」


「会議は会議室でするものだよ!」


「何スか、お風呂で会議って」


 そっか、チアにはわからないか。やっぱりアニメをたくさん見る人じゃないと、お風呂で会議って言われてもわからないよね。


 鈴木が横を向いてポーズを決めながら口をはさんだ。


「お風呂会議というのはな、男女比の偏った組織が大浴場で会議を行うことで、互いの親睦(しんぼく)を深めつつサービスシーンを提供するものだ」


 鈴木もやっぱりこっち側の人間だったか。


「サービスシーンって、どんなサービスなんスか?」


「それはだな……」


「それはアニメの話だから! というか、会社にお風呂なんて、常識で考えて必要ないでしょ!」


「実は会議のできる露天風呂は実在するのじゃ」


 リンがスマホでの検索結果を見せた。お風呂で会議するのって、実はちゃんとしたメリットがあるの!?


「それからねー、今日はここに新しい新入社員が集まることになってるのー」


「新入社員って、自分たちの他にもいたんスか」


「あれから続々と応募者が来たのー」


 しばらくして、次々と人が集まってきた。総勢11名。


「みんなー、よく来てくれたのー! あたしが社長のナノなのー! みんな、自己紹介をするのー」


 派手な服装の男が真っ先に声を上げた。


「初めまして、お嬢さん方。俺はショウ。お嬢さん方が魔法使いなら、俺はその盾となるナイトになってみせるぜ」


 そう言ってショウさんはウィンクをした。こいつもキャラが濃い。いったい何の目的で会社に来たんだか……。


 次はやたら体の大きい男性。


「山本です。特技は柔道。以上」


 不愛想(ぶあいそ)で無口。何を考えているかわからない。


 その次は30代の女性。


岡部(おかべ)です。今まで経理の仕事をしていました。経理は任せていただきたいです」


 あれ、魔法を習得する人を募集してたんじゃなかったっけ。キャラ薄いなあ。


 その次の男性はピザの箱を持っている。


「ご注文のピザをお届けにあがりました」


「新入社員じゃないよ、この人!」


 それ以降の人たちは、印象が薄くて記憶に残らない。モブ扱いでいいと思う。


「みんなはこれから仲間なのー! よろしくなのー!」


「1人違うのが混じってるよ!」


「あたしたちには夢があるのー。まずねー、魔法とロボットを世の中に広めて生活がもっと便利な世界にするのー。それでお金を稼いでねー、サハラ砂漠に400万人が暮らせる巨大な建物を建ててねー、究極の便利さを目指すのー」


「すばらしいです!」


 おお、拍手で共感してくれてる人がいる。って、ピザ屋じゃん! お金を払うと、ピザ屋はみんなを激励(げきれい)しながら帰っていった。


 みんなでピザを食べながら歓談した後、魔法講習会を行った。




 翌日からはマホの魔法講習会は週2回行い、それ以外の平日は新入社員たちは自主トレーニングだった。


 その間にオフィスデスクや棚、パソコン、文房具などが次々と運び込まれてきた。ナノが注文したらしい。殺風景な部屋だったのに、だんだん見た目が会社らしくなってきた。


 トレーニングの合間にそういった荷物を新入社員たちが自主的に整理しているうちに、だんだん役割分担ができてきた。ある人はパソコンで社内ネットワークを構築している。ある人はトレーニングのメニューを作っている。経理の岡部さんは事務仕事を一手に引き受けている。部屋に花を飾ったり、手作りの刺繍(ししゅう)を置いたりする人もいる。ショウさんは女性社員を食事に誘っている。って、さすがにそれはまずいでしょ。


「ショウさん、何やってんですか。親しくもない女性を食事に誘ってセクハラにならない男性は、アニメのイケメンだけですよ」


「俺はただ社内を打ち解けた雰囲気にするために社員同士の親睦を深めようとしてたところさ。このお花や刺繍を飾ってくれたお礼にね」


 誘われていた女性が口をはさんだ。


「それを飾ったのは私じゃありません」


「そうだったの? じゃあ誰かな、部屋をきれいに飾ってくれた素敵な人は……」


「私です」


 返事をしたのは、柔道の山本さん!?


「ショウさん、ご一緒に食事に行きますか?」


 ショウさんは引きつった顔で呆然(ぼうぜん)としている。私が代わりに山本さんに声をかけた。


「この刺繍、全部山本さんが作ったんですか?」


「ええ、刺繍が私の趣味なんです。お花も大好きでして」


 へえ。体が大きくてごついのに、繊細でかわいい趣味だなんて意外。人の見かけで偏見持っちゃいけないね。


「いいですね。部屋の雰囲気が明るくなりましたよ。ん? 部屋の隅っこだけ雰囲気が暗く……」


 部屋の隅で鈴木が体育座りでノートを眺めていた。あの「血の聖典」だ。


「どうしたの? みんなとなじめないの?」


「何を言う。我は孤高の存在だ。奴らとなれ合う必要など無い」


 自分の役割が見つからず、かといって自分から相談する勇気も無くて、時間を持て余してるとみた。鈴木に似合う仕事って何かないかな。チアにでも聞いてみるか。


 チアは物を空中で操る魔法のトレーニングを一人でやっていた。体を休めようという発想は無いようだ。鈴木のことを話すと、チアは鈴木のもとに走っていった。


「鈴木氏! 一緒にトレーニングするッスよ!」


 鈴木は露骨に嫌な顔をした。きついトレーニングは進んでやりたくない、といったところだろう。でもすぐに涼しげな作り笑いに切り替えた。


「クックック、そんなに同じことを繰り返しても無駄だ。自分を見つめ直し、うまくいかぬ理由を探らねば上達などせぬ。あと、我はブルトゥシュヴァリエだ」


 鈴木はノートを広げて見せた。魔法講習会で習ったことを細かく書いてあるけど、3割くらいは自分の妄想が混じっているようだ。今は復習で忙しいと主張したいようだけど、さっき読んでたノートは「血の聖典」だよね。


「鈴木氏すごいッス! こんなにびっしりとノートを取れるなんて! 自分はノートなんてほとんど書けなかったッスよ!」


 チアは鈴木の手を握って目を輝かせた。


「しかも空き時間で内容を整理していたなんて! そのノート、自分も欲しいッス! というか、みんなに共有してほしいッスよ!」


 鈴木は汗を流しながら冷静を装った。


「この程度の知識もまとめられぬというのか、愚民ども。よかろう、我自らが汝らのためにノートをまとめてやるとしよう」


「感謝するッス! みんなー、鈴木氏が講習会のノートをまとめてくれるッスよー!」


 鈴木はそわそわしている。私もよく失敗を取り繕おうとして、周りから過剰に持ち上げられて後に引けなくなるから、その気持ちはよくわかるよ。


 結局、講習会で習ったことを鈴木がパソコンでまとめてSNSに載せることになった。たぶんノートに書いた内容から大幅に減らして公開することになるだろう。




 私も魔法講習会には参加しているけど、他は大学の授業を受けたりオートマタの研究をしたりで、自主トレーニングには参加していない。ナノも私と同じようにいつも忙しそうだ。なので私とナノを差し置いて、他のみんなの魔法の腕前はめきめきと上達していった。


 そんなみんなの様子を見ていると、チアだけはトレーニング以外の時間にいつも一人でトレーニングをしている。今日は空中で物を操る念動魔法のトレーニングにもう一度取り組んでいるようだ。


「いつも頑張ってるね、チア」


「あ、ピコ先輩、ちーす。自分は不器用で人の役に立つ特技なんて無いんで、根性でみんなより魔法が上手くなって会社の役に立つッス」


「さすが。偉いね、チアは」


 気合と根性がほんとに好きなんだね。今後魔法で活躍することが期待できそう。

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