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都市が丸ごと収まる建物の設計を任されたので好きにしちゃう件  作者: 黒魔
2章 ベンチャー企業の技術責任者
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会社の立ち上げ 1

 マホは大学に非常勤の研究助手として雇ってもらえることになり、大学の寮に住むことになった。なので年末年始がマホとの暮らしの最後だ。


「よかったね、マホ。魔法を活かせる仕事に就くことができて。ああ、マホが就職かあ……」


「おかしいですわね。わたくしたちはもう楽園という会社に就職したはずですわ」


「あれはまだ仕事が始まってないし、給料もまだ無いし。まだ会社とは思わなくていいんじゃないかな」


 ナノが勢いで作った会社だけど、記者会見で発表しちゃったから、いつかは会社として活動していかなきゃいけないよね。でもせっかくの冬休みだから、今はそういうことは忘れてマホと過ごすのを楽しみたいな。


「それより、休みをマホと一緒に楽しめるね」


「ええ。録画しておいたアニメをたくさん見ることができますわ」


 しまった、私が休日にアニメを見てばっかりでマホも私に付き合ってたからマホは他の娯楽を知らない。ナノを誘って遊びに行くことにしよう。


 SNSでナノに連絡するとすぐに返事が来た。「会わせたい人がいるのー。魔導石を持って集合なのー」とある。なんだろう。


 マホと一緒に待ち合わせ場所に行くと、ナノのほかに若い女性が二人いた。

挿絵(By みてみん)

「おー、ピコにマホなのー。この二人は新入社員なのー」


「え? 社員を募集してたの?」


「魔法を習得してくれる新入社員が欲しいのーってネットに書いたらねー、この二人がメールをくれたのー」


「いいのかな、社員を雇うのにそんな適当な方法で」


 新入社員の一人は赤みがかったショートヘアでスポーティな服装をしている。


榊原千秋(さかきばらちあき)ッス! 『チア』って呼んでほしいッス! 魔法の修行は気合で乗り越えるッス!」


 声がでかい。私のこれまでの人生であえて関わってこなかった、活発なタイプだね。


「今あちこちで話題のマホさんとナノ社長にお会いできて光栄ッス!」


「おかしいな、私もいるよ」


「わたくしたちのお仕事にご協力いただけるなんて、こちらこそ光栄ですわ」


 もう一人は目を隠すほど前髪の長い黒髪ロングヘア。マントのようなケープを羽織り、だぼっとした服装だ。


「我はブルトゥシュヴァリエ。我が(なんじ)らを訪ねたのは、失われし我が魔力を取り戻さんがためだ」


「鈴木さん、よろしくなのー」


「その名で呼ぶな!」


 なんだ、ただの中二病か。濃いキャラしてるなー。


「私は鴨川美咲。ピコと呼ばれてるけど。よろしく、チアさん、鈴木さん」


「我はブルトゥシュヴァリエだ!」


 なんでだろう、その名前では呼びたくない。


「この世界には元々魔法は無かったと伺っておりますが、鈴木さんは以前から魔法をご存じなのかしら?」


「まったくどいつもこいつも……。まあよい、我はこの世界に転生してからは魔法を一切使えぬが、前世では別の世界で魔法使いをしていたのだ」


「あらまあ、わたくしと同じ転生をしておられたのでして」


 これって中二病じゃなく、ほんとにマホと同じ異世界転生者って可能性もあるわけか。


「大丈夫ですわ、この魔導石で前世とおなじように魔法をお使いになれましてよ」


 マホは魔導石を鈴木に手渡した。鈴木は困った顔をした。


「むっ……。これはどのようにして使うのだ。このような物、我が聖典に記されておらぬ!」


 鈴木はノートを取り出した。普通の大学ノートに「血の聖典」と書いてあり、鉛筆で文字やイラストがびっしりと書かれている。やっぱりただの中二病だ!


「ご存じありませんこと?」


 鈴木は冷や汗でびっしょりになりながら(ひたい)に指を当てて作り笑いを見せた。


「ククク、どうやら我が前世の世界とは別の世界の魔法のようだ。また魔法を一から覚え直さねばならぬようだな。残念だ、我が最強の闇魔法を取り戻すことが(かな)わぬとは」


「まあ、それはとても残念ですわ」


 マホは本気で信じているようだ。自分と同じ体験をした仲間かもしれないのだから無理もない。鈴木の話が嘘だと指摘するのは野暮(やぼ)だろう。


 5人でケーキバイキングの店に行き、そこで今後の活動の話をした。魔導石を作ったり魔導石の購入者に魔法を教えたりする仕事を担うのがマホ一人だと活動規模に限界がある。そこでマホが皆に魔法を一通り教え、魔法の習得度合いに応じて魔法の仕事を分担する、という話だった。そしてナノはずっとしゃべっていたので少ししか食べてないのに満腹で苦しがり、マホとチアはずっと食べ続けて私の何倍もの量を平らげたのに平気な顔をしていた。


 そしてそのまま第1回の魔法講習会をすることになった。自由に使える広い場所が必要ということで、近所の河原に移動し、魔導石から魔力を受け取る訓練を始めた。だけど寒い! 北風が冷たくて手がかじかむ! 震えが止まらない! こんな状況じゃ全然集中できない。


「寒いよ! ここでやるのはやめたほうがよくない?」


「自分は全然平気ッス! このくらい何でもないッス!」


 チアは気合が入りすぎていてどうも暑苦しい。きっと体の発熱量が多くて寒さをあまり感じていないのだろう。


「そうですわね、ちょっと寒すぎますわね」


「あたしは風邪ひきそうなのー」


 ナノは体を温めようと飛び跳ね続けている。


「皆さん気合が足りないッスよ! 鈴木氏を見るッス、微動だにせず集中してるッス!」


 鈴木は座ったまま魔導石を握りしめ、じっとしている。その顔は青白く、白目をむいて……寒さのあまり気を失ってる!?


「凍死しかかってる! 鈴木――、しっかりして――!! 寝たら死ぬよ!」


 マホが魔法で暖かい空気を鈴木に吹き付けた。


「あちちちっ! 冷凍した肉をそのままフライパンに入れると焦げ付く!」


 その話はたぶん関係ないよ。鈴木はなんとか回復したようだ。


「普段外出しないから寒さに弱くて……げふん、本来はドラゴンの炎にも氷魔法にも屈せぬ強靭な肉体と精神があったのだが、転生の際に呪いを受けてしまい、軟弱な体になってしまったのだ」


「あらあら、わたくしよりもずっと過酷な過去をお持ちなのですわね。さぞお辛かったでしょうに」


 鈴木、あまり話を盛ると自分を追い込むよ。まあそれはともかく、こんな場所じゃ続きはできないな。


「やっぱ活動場所はなんとかしたいよね。会社を作ったといっても、社屋(しゃおく)があるわけじゃないからなー」


「あ――――!! そうだったのー! 社屋を用意してなかったのー!」


「今気づいたんかい!」


「会社にはビルが必要なのー! あたしがなんとかするのー!」


 この日はそのまま解散し、ナノはどこかに走っていった。いったいどうやってビルを用意するというんだろう。

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