記者会見 2
質疑応答の時間になり、記者が声を上げた。
「ナノさんに質問があります」
「あたしのことは社長と呼ぶのー」
記者にまでその態度!
「失礼しました、ナノ社長。魔法は軍事的な脅威になる可能性があると思うのですが、魔導石の販売は国外にも行うのでしょうか?」
記者もそこを気にするんだ。魔法発表会のときに似たような質問を受けていてよかった。
「魔法が軍事目的に使われないようにねー、あたしたちは対策をしたのー。マホ、説明よろしくなのー」
「ええ、わたくしは魔導石の改良に取り組みましてよ。そして先日、人を傷つけるかもしれない魔法は人のいる方向には発動しないようにすることに成功いたしましたわ!」
「人を攻撃できる魔導石はすべて破棄したのー。これでもう誰も魔法で攻撃できないのー」
会場は感嘆の声に包まれた。質問した記者は悔しそうな顔をして、汗をかきながらまくし立てた。
「で、では、人を攻撃できないことを実際に試すことが、果たしてできますか? 魔法が我が国にとって脅威にならないと証明できますか?」
記者は勝ち誇った顔をしたが、マホはあっさりした態度で答えた。
「この場でやってみてよろしくてよ」
マホは演台からマイクをどけるとふわりと浮かび上がって呪文を唱えた。手のひらに光の玉が現れ、それを真下に向かって投げつけた!
ズドーン!
爆発が起きた! 煙が晴れると、演台と演壇は木っ端みじんになっていて、床には直径1メートルほどの穴が開いていた。
マホはさっきの記者に向かって手をかざした。
「これと同じ魔法をあなたに向けて放ちますわ」
さっきと同じ呪文を唱え、光の玉が現れた。
「ひいいいいっ!」
記者は青ざめている。マホは魔導石の改良に絶対の自信があるのだろうけど、さすがにこれは危険すぎる! 私はマホと記者の間に飛んで入り、さっき見た障壁魔法を真似して六角形の光の壁を作った!
マホが記者に向かって手を突き出すと、光の玉は飛ばずにかき消えた。人のいる方向には発動しなかったので実験成功だけど、記者は恐怖のあまり失神寸前だ。ここはマホに注意しないと。
「だめだよ、こんな実験!」
「その通りじゃ! 目隠しして、どこに人がおるかわからぬようにせねば意味なかろう!」
私に同意しながら外道発言するのはやめてほしい。
「そうでしたわね。では、先ほどできた穴に記者さんを埋めて差し上げあそばせ。わたくしが目隠しをして10回回りましてよ」
「スイカ割りかー! なんでアニメに出てくる変な風習ばっかりすぐ覚えるのよー! そうじゃなくて、人を危険にさらしちゃだめでしょ!」
ナノが割って入った。
「まあとにかくなのー。これで人に向かって攻撃できないことが実演できたのー。これで満足なのー?」
記者はぐったりしつつ、なんとか答えた。
「……はい……充分です」
「じゃーねー、壊した床と演壇を直すのー」
「かしこまりましてよ」
マホは錬成魔法で木片を巻き上げ、あっという間に床と演台・演壇を形作った。前よりもちょっと小さくなった気がするけど仕方ない。会場は驚きの喚声に包まれた。
その後の質疑応答は順調に進み、記者会見は無事終了した。2名ほど心に傷を負ってしまったけど。
記者会見の様子はその日のニュースになり、魔法は世界中の話題をさらうことになった。その中で私たちも一躍有名人になってしまった。私のバニー姿の映像が世界中に拡散されてしまっている。
翌日、私はナノとマホと一緒に学生食堂で昼食をとった。
「魔法のことが世界中で話題になるのは予想通りだけど、なんか私たちの話題もすごく拡散されてるね」
ナノは無邪気に喜んだ。
「あたしたちが目立つのは大歓迎なのー! ここで有名になっておくとねー、後ででっかいことをやるときに協力してもらいやすいのー」
「ん? ひょっとして、記者会見のときのトラブルは、わざと?」
ナノの笑顔が無邪気とほど遠いものになった。
「計画通りなのー。学長のヅラを吹っ飛ばしたのはあたしなのー」
「ナノ、恐ろしい子!」
私は思わず白目をむいた。
「あらあら、気づきませんでしたわ。それにしても、ナノさんがすごく人気だそうですわね」
「そうそう。マホが話題になるのはわかるけど、それに続いてナノ社長がかわいすぎるって大人気だよ」
「キャラ付けは大事なのー」
「先生や記者に対しての偉そうな態度って、演出だったの?」
「そうなのー」
やっぱりナノは敏腕プロデューサーだ。自分に対してタレント並みのキャラ付けをして売り出そうとしている。
「私にも何かキャラ付けしたいの?」
「ピコもマホも正直だからねー、キャラ付けするとぎこちなくなるのー。ピコは今まで通りツッコミキャラでいてくれれば十分面白いのー」
「ツッコミキャラになった覚えは無いよ!」
「素晴らしいツッコミ速度でしてよ、ピコさん」
特に面白いことを言おうとしているわけじゃないよ! 私ったら、なんでこう思わずツッコミをしてしまうんだろう。




