記者会見 1
十二月中旬。いよいよ魔法の存在を世界に発表するときが来た。学会発表などはこれから先生たちが個別に行っていくけど、今日はその皮切りになる、マスコミを集めての記者会見の日だ。
まず大学の学長が発表し、先生たちが研究成果について発表しながらマホが魔法の実演をしてみせるということになっている。リンも紹介される。私とナノの出番は最後のほうにちょっとだけあり、私が魔法をちょっとだけ披露したあと、合同会社「楽園」が魔導石を販売していくことをアピールすることになっている。
会場は、以前魔法発表会を行った講堂。講堂の中にはまた水槽が置かれている。今回は鯉はいない。
「また水を空中で操るんだ。さすがに今回は鯉を切り刻むのはやらないんだね」
「治癒魔法の実演にお魚を使うのは見た目がよろしくありませんでしたので、お花にいたしましたわ」
演台上には花瓶があって季節外れなチューリップが生けてある。今回はバニースーツを用意していない。前のようなショーにはせず、真面目に発表するようだ。
私とナノとリンは部屋の隅で待機。講堂に記者が続々と入ってきた。そして学長とマホが壇上に上がり、記者会見が始まった。
学長がこれまでのいきさつを説明し、マホを紹介した。
「私は学長として魔法の研究をいち早く進める必要があると感じ、研究プロジェクトを立ち上げて研究を主導しました」
嘘がはなはだしい。学長は本当は何もしていないくせにドヤ顔で手柄を持っていこうとしている。そしてマホが魔法を披露するときが来た。さあ、世界の度肝を抜く瞬間だ。
「では、水を空中で操ってご覧に入れましてよ」
「水槽をどうぞなのー」
マホの前に水槽がふわっとやって来た。……って、今魔法で水槽を動かしたのって、ナノ!?
「なんで!? 今、ナノが魔法で水槽を浮かせた!?」
「えへへーなのー。実はあたしも魔法の練習をしてたのー」
「そんなことより、これから世界で初めて魔法を見せる瞬間というときに、なんでマホより先に魔法を使っちゃうのよー!」
そう叫んで、ふと周りが気になった。みんながこっちを見ている。TVカメラも私たちを映している。しまった! 目立ちすぎた!
「あなたたちは何ですか?」
記者の一人が聞いてきた。どうしよう!
するとナノが光に包まれ、ゴスロリ衣装に変わった。会場は驚きの声に包まれた。
「ナノなのー!」
マホも光に包まれ、バニー衣装に変わった。実は用意していたんだ!
「マホですわー!」
そして私も光に包まれた。私の服が飛んでいき、ナノのかばんからバニー衣装がやって来た。こうなったら腹をくくって、このノリに合わせるしかない!
「ピコでーす!」
私はバニー姿になって、できるだけかわいいポーズをとった。
「三人そろって」
「「「合同会社楽園でなすのわー!」」」
語尾がそろってなくて混じってしまった。……って、何やってるの私は!
「何なのよ、これ! おかしいでしょ!」
「まったくじゃ! わらわが入っておらぬのはおかしい! 皆の衆、わらわは魔法で作られたオートマタのリンじゃー!」
「そうじゃなくて! これじゃ芸人の登場だよ!」
「わたくしたちは魔法使いですわ」
「この格好じゃ魔法を使っても手品に見えるよ! 手品師のアシスタントみたいだもん!」
「でしたら、人体切断マジックをやってみせてもよろしくてよ」
「できないでしょ、そんなこと」
「簡単ですわ。ピコさんを真っ二つに切ってから、治癒魔法でくっつければよいのですわ」
「なるほど、その手が……いいわけあるかー!!」
水槽の水が勢いよくマホに襲い掛かった! しまった、思わず魔法を使ってしまった! 魔導石を持ったまま熱くなりすぎた!
「わたくしには通用しませんことよ」
マホが手をかざすと六角形の光の壁が現れ、水は弾け飛んだ。障壁魔法だ。会場にどよめきが起きた。マホが両手を広げると、両手の上に水が浮かんでくるくると舞った。
「こちらから行きますわよ」
「ちょっと待ってー!」
マホが手を振ると、水が勢いよく私に向かってきた! ばしゃん! 私はずぶ濡れになったが、痛くはない。そうか、人を攻撃できない制約があるから威力が無いんだ。
しかし、マホの隣に異変が生じたのに気付いた。学長のカツラが吹っ飛んでツルツル頭になってる! 私の表情を見てマホもそのことに気づいた。
「いやああっ! 髪の毛が抜けてしまいましたわ! でもご安心なさって、わたくしがすぐに治して差し上げましてよ」
マホが学長の頭に魔法をかけると、学長の後頭部の髪だけが急に伸びて逆立った。
「なぜでして!? 髪の毛が再生しませんわ!」
「毛が抜けたんじゃなくてカツラが飛んだんだって! そこは元々ツルツルの不毛の荒野で、いくらやっても生えないんだよ!」
「何が不毛の荒野だ!」
学長が真っ赤になって怒った。会場に笑いが起きた。
マホを止めなきゃ。
「そこにはもう治癒魔法をかけなくていいから! ほら、この花で治癒魔法の実演をする予定だったんでしょ」
私は花瓶からチューリップを抜き、茎をくしゃっと潰してからマホに手渡した。
「そうでしたわね。皆様ご覧あそばせ! これが治癒魔法でしてよ!」
マホはチューリップを学長の頭の上に置き、治癒魔法をかけた。するとチューリップは学長の頭の上に根を伸ばし、茎を再生させて、頭の上にまっすぐ伸びて咲き誇った。
「ほら、不毛の荒野ではありませんことよ!」
「頭の上に咲かせちゃダメだよー! 学長がバカみたいじゃん!」
「何やってるんだ君たちはー!」
学長は泣きながら激怒した。会場は爆笑に包まれた。とても予定通り発表できる状態ではない。
するとナノが壇上に上がった。
「ご覧のようにねー、この魔導石があればいろんな魔法を使うことができるのー。今まで魔法の研究プロジェクトを主導してきたのは本当はあたしたちなのー」
「そうだそうだー!」
なんか野次を飛ばしてる先生たちがいる。学長に不満があるんだろう。
「あたしたち合同会社楽園はねー、魔導石をたくさん作って販売することを計画中なのー」
ナノは学長の頭からチューリップをむしり取り、会場の前列にいる先生たちに対して指示棒のように向けた。
「医学部の飯島教授。治癒魔法について発表してくれたまえなのー」
なんで先生に対して偉そうにしてるのよー!
「ははっ。僭越ながら発表させていただきます」
先生はなんでナノに対して畏まってるのよー! ナノの見た目が童女だから、ままごとみたいで逆らいづらくなってるのかな?
ナノの司会で先生たちが次々と研究成果を発表していき、マホも次々と魔法を披露していった。リンの紹介も済ませた。




