魔術回路から半導体へ 3
十二月上旬。私は錬成魔法の練習をしながら、魔力検知回路を錬成魔法で作ることにチャレンジしていた。
はんだごてを使わずに魔法ではんだを融かして部品を基板にくっつける。魔力検知紙の表面を融かし、コードとピエゾ素子にくっつける。3回ほど成功するとコツをつかめてきた。
よし、今度は2枚まとめて。魔力検知紙2枚を操り、コード2本につなげて、ピエゾ素子2個にくっつける……できた! 慣れてしまえば1つ作るのも2つ作るのもあまり変わらない感覚だ。
それなら今度は10枚まとめて! うん、スムーズにできる。そうか、錬成魔法は面倒な作業をまとめて1回で済ませることができるんだ。これは便利!
そうして私はたくさんまとめて作り、その日のうちに魔力検知回路を作り上げることができた。
出来上がったものをじっくり見てみる。あれ? うまくくっついていない所がある。まとめて作ると不良品になりやすいのかな? あ、ここもくっついてない。あ、1枚の魔力検知紙に2本のコードがくっついてる。よく見たらラーメン屋の割引券が混じってる。
翌日、全部のコードがうまくくっついているかチェックし、うまくいっていない箇所を修正していたら、結局それだけで半日費やしてしまった。効率いいんだか悪いんだか……。
完成した魔力検知回路を通して、オートマタ中枢部からの信号をマイコンにつなぎ、そこからパソコンで読み込んでみた。……反応なし。いや、時々弱い信号を受け取っているけど、ただのノイズのような感じがする。
帰宅してからマホに相談してみた。どうして中枢部から何も信号が来ないのだろう?
「それは、何も考えていないのではないかしら。実験用に作ったオートマタは意志や感情を持たないタイプでしてよ。呼びかけなければ何もしませんわ」
「……なるほど。心を持たないから、何か言われなければ何も考えないのか」
「ハートフルなわらわのように心を持つオートマタを作ってバラせばよかろう」
「さすが人でなしのリンさん、心無い意見をありがとう」
「ツッコミにいつもの勢いが無いのう。心ここにあらずじゃ」
「周囲の人たちに心を込めて心配りをしてきたからかな」
「ピコさんったら、お優しいのですわね」
いつも翻訳魔法を使っているマホは、日本語の言葉遊びや駄洒落は理解できず、スルーしてしまう。
「中枢部に何か反応させるためには、何か信号を入力する必要がありますわね。目と耳を付けておきますわ」
翌日、マホが作ってくれたのは、箱型の中枢部にリアルな目玉と耳が付いたものだった。
「うわあ……なんか気色悪いね。やっぱり頭も作って、その中に収めなきゃいけないかな」
「ピコさんが錬成魔法で作ってみてはいかがかしら?」
「うん、やってみる」
ゴミ箱からコンビニ弁当の箱とかのプラスチックを拾ってきて、錬成魔法で中枢部を包み込んだ。肌色の弁当箱で目の周りを作り、台所洗剤の緑の容器でアニメキャラのようなのっぺりとした髪を作った。鼻より上だけの人形になった。
「うーん、なんか違和感」
「おさまりが悪いですわね」
コンビニのサラダの透明な容器に入れてみた。違和感が消えない。
「何か物足りませんわ」
マホが容器にレタスとプチトマトを加えた。サラダの中に頭の上半分。
「すごくシュールだよ!」
「では、お花を入れることにいたしますわ」
「棺桶の中みたいだよ! なんかこう、透き通ってキラキラしたもので飾りたいな」
マホがトイレから消臭剤を持ってきて、中のビーズをザラザラとサラダ容器に注いだ。
「うん、透き通ってキラキラしてる。すごくきれいになったよ、ありがとう。でもね、トイレのもので飾るのはなんとなく気分が悪いかな」
結局、コンビニ弁当の透明な蓋とかでビーズを作って飾った。
「何か名前を付けませんこと?」
「そうだね。何がいい?」
「頭」
「そのまますぎるよ! せめて『タマ』にしようよ」
翌週、タマをパソコンにつないでみた。
「こんにちは」
そう呼びかけてみると、グラフが反応した。何か反応したのはわかるが意味はわからない。かける言葉を変えると少し違う反応が返ってくる。
「左手を上げてみて」
そう言うとグラフの全然別の個所が反応した。筋肉を動かす信号が出力されるコードがあるらしい。さっきまでは口の筋肉を動かそうとしていたのかな。
「歩いてみて」
するとグラフが規則正しく歩くリズムで変化した。
「月面宙返り」
グラフ全体が激しく変化した。この子、本当に月面宙返りをやろうとしてみた!? できると思ったのかな?
オートマタを動かすための出力としてはすごく納得のいく結果だった。でも、オートマタの知識や思考をパソコンで利用するためにはどうしたらいいか、まだわからない。オートマタ中枢部が自分でパソコンを操作してくれたらいいんだけど。
じゃあ、オートマタ中枢部からパソコンに、マウスやキーボードの信号を送れるようにしてみようか? そうしたらオートマタが自分でパソコンの使い方を学習してくれるかもしれない。まずは、パソコンにどんな信号を送ればマウスやキーボードして扱ってくれるか調べてみることにしよう。




