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魔術回路から半導体へ 2

 オートマタ中枢部についてわかったことをナノに伝えたら、さっそく特許を取ろうと言い出した。本のような構造のニューロコンピューターを作る研究はまだ始まってもいないのに、構造のアイデアだけで特許を取るらしい。


「なんでそんなに急いで権利化したがるわけ?」


 私がそう聞くと、ナノは不敵な笑いを浮かべた。


「ニューロコンピューターを作るのには大手企業の協力が不可欠なのー。そのための交渉材料にこの特許が必要なのー」


 今度は大手企業を巻き込むつもりらしい。だんだん話が大ごとになってきている。


「そのためにはねー、あたしたちの会社の特許にする必要があるのー。だからねー、発明者はピコとマホってことでよろしくって、安川先生たちに言っておくのー」


 確かにアイデアを出したのは私とマホだけど、それだけで権利を全部持っていくのは図々しい気がする。私もニューロコンピューターの研究には少し関わっていくことにしよう。




 さて、オートマタ中枢部を半導体で作ることができたとしても、そこでどんな情報が出入りしているかは謎のままだ。どうやってロボットと接続すればいいのだろう?


 安川研究室で筧さんにそう聞いてみた。


「うーん、どうすればいいのかはわからないけど、今こっちで研究していることがヒントになるかもしれないな。これを見て」


 そこにあったのは、付箋(ふせん)のようなものがたくさん付いた電子回路。この付箋はこの前マホが作った魔力検知するものだよね。


「ここにオートマタの耳の部品を接続してある。そこから延びるコードの束をほぐして、1本1本の魔力をこの魔力検知紙で受け取るようにしてある。その紙にかかる圧力をピエゾ素子で電気信号に変換して、この回路でパソコンに読み込むんだ。ここで声を出すと……あ――――」


 パソコンの画面上に表示されているグラフが反応した。


「音を周波数ごとに分解して信号として送ってきていることがわかる」


「へえ、すごいですね。魔力を電気信号に変換してパソコンで読み込めてます。耳の部品から延びるコードは耳の神経と同じ働きなんですね」


 同じようにして中枢部の信号もパソコンで読み込めそうだ。私は回路の設計図をもらい、この魔力検出装置を自分で作ってみることにした。


 回路図を印刷し、それを透明なシートにコピーして、基盤に貼って露光する。基盤を現像液に漬け、それからエッチング液に漬けると、銅の部分のうち光が当たらなかった所が溶けて銅の配線が出来上がる。それからドリルで穴をあけ、ICなどの部品をはんだづけする。中枢部から出ているコードをほぐし、細いコードの1本を魔力検知紙につなぎ、ピエゾ素子を付けて、基盤にはんだづけする。


 ……ここまで何時間かかった? 中枢部から出ているコードは何本あるっけ? この基盤はあと何枚作る必要があるだろう……? なんだか嫌になってきた。ああ、マホは錬成魔法であっという間に充電器を作り上げたのに。マホがうらやましい。


 だったら錬成魔法を自分で使えばいいんじゃない?


 ふと、そんな考えが頭をよぎった。マホに錬成魔法を教えてもらう。そうすれば、これから一生役立つモノづくりスキルになるかもしれない。




 帰宅してすぐ、マホに声をかけた。


「あの、お願いがあるんだけど」


「食費のことでして?」


「そうじゃなくて、私に錬成魔法を教えてほしいの。……って、食費のことって何?」


「わたくしはこの家にお世話になっている立場ですのに、お食事をいただきすぎかと思いまして……」


 大柄なうえに筋肉の多いマホは、いつも私の倍くらいの量を食べる。


「いや、それは全然気にしなくていいって。それより錬成魔法を自分でも使ってみたいの」


「それはとてもよいことですわ。ぜひやりましょう」


 最初の練習台としてマホが選んだ材料は土だった。紙の上に土を盛り、呪文を唱える。土がふわっと浮かび上がった。


「さあ、それを1か所に集めるのですわ」


 土が空中に集まるよう念じる。土はその通りに集まり、(かたまり)になった。


「ぎゅっと、固く」


 言われるままに念じていると、次第に土が融けたように滑らかになり、ボールのような形になった。


「好きな形に整えてくださいませ」


 好きな形と言われても、どうしよう? とりあえず伸ばしてみよう。うん、伸びた。そしてくびれができて、頭と胴体みたいだ。せっかくだから手足も作ってみよう。土の塊を引っ張ることを想像すると、にょきにょきと腕ができた。粘土細工みたいだ。


「面白いね、これ」


 手足を付けたから顔も付けてみよう。とあるアニメの女の子の顔を想像すると、だいたいそれに近い顔と髪型になった。あれ、でもこんな髪型だったっけ。細かい所を覚えていない。そんなことを考えているうち、指とか細かい所もだんだん形ができてきた。


「どうかな」


「とてもお上手ですわ。さすがピコさん、長年アニメをご覧になっているだけあってしっかりイメージされていますことよ、この裸の女の子」


 顔や髪型を気にするあまり、服を全然考えてなかった! 胴体のほうは全然手付かずだから裸同然だ!


「いや、これはまだまだ未完成っていうか、これからだって」


「これから成長するあどけない女児、というわけじゃの」


 いつの間にか隣にリンがいる! しかもなんか誤解してる!


「そうかそうか、ピコが真っ先に思い浮かぶ形というのは裸の女児じゃったか。もしや、わらわのこともそのような目で見ておるのではあるまいな」


 何を想像してんの、この人形!


「そんなわけないって! 私にそんな趣味は無いから!」


「ピコにはナノがおるから、わらわなどに興味はないということじゃな」


「あらあら、そうでしたのね。ナノさんにそのような熱い想いを寄せていらしたなんて、存じませんでしたわ」


「違うって!」


 リンがスマホで土人形の写真を撮ってメールを打っている。すぐに私のスマホにナノからメールが来た。私はナノにメールで事のいきさつをできるだけ詳しく説明し、なんとか誤解を解いた。

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