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研究開発 2

 そして翌週、3Dモデルが出来上がり、3Dプリンターに入力してみた。プラスチックが熱で溶かされてくっつき、下から順に徐々に形になっていく。マホの錬成魔法に比べればゆっくりだけど、これはこれで見ていて楽しい。「もうすぐ充電器の試作品が出来上がる」とSNSに書いておいた。


 1時間経った頃、マホがリンを抱えて研究室にやって来た。


「ピコさん、以前頼まれていたものが出来ましてよ。魔力の信号を検知するものですわ」


 それは付箋(ふせん)のような見た目のものだった。


「魔力を受けると曲がりますわ」


「ありがとう。筧さんに渡しておくよ」


「充電器のほうは出来上がりましたかしら?」


「あ、もうすぐだよ。見ていく?」


 マホとリンを3Dプリンターの前に案内した。3Dプリンターのヘッドが細かく動き、プラスチックのパーツの一番上の部分を作っているところだ。


「不思議ですわね、魔法でもないのにこんなに一生懸命動いているなんて。いとおしさを感じますわ」


「私は魔法で動いているリンのほうが不思議だと感じるけどね」


 少し待つと3Dプリンターが動作を停止した。出来上がったパーツを取り出し、余分な部分をカッターで削る。電極を差し込み、あらかじめ組んであった電子回路をはめ込んで、銅線で電極とつなげば……


 あれ? 電極の裏に銅線とはんだを差し込んだ後、どこからはんだごてを当てればいいんだろう? プラスチックが邪魔ではんだごてを当てられない。しまった、設計ミスだ! プラスチックのパーツをもう一度作り直そう。


 マホのほうを見ると、抱きかかえられたままのリンがにやにやしながらこっちを見ていた。


「どうしたのじゃ? ピコよ。早くはんだづけをせぬか」


 人形なのに、どうしてこんな嫌な笑い方をする表情筋があるんだろう。


「ほれほれ、早くやってみせるのじゃ。それとも、できぬのか?」


 リンに上から目線でそんなことを言われると、なんか引き下がれなくなってきた。無茶苦茶でもいいからはんだづけをしてみよう。


 電極にはんだごてを押し当てて電極を加熱することで、裏にあるはんだを融かす! ん? 思った以上にぬるぬるしてる。あっ、プラスチックが熱で融けてる! はんだごてを離すと、電極がプラスチックに少しめり込んだ状態で固まった。


 なんか(くや)しいから、これはこれで成功ということにしたい。


「どう? これで電極が完全に固定されたから、振動や衝撃を与えても簡単には断線しないよ」


「いい工夫だね。斬新な設計だ」


 そう言ったのは安川先生! いつの間に!


「実際に電極を固定してみて、どうかな?」


 設計ミスをごまかすために勢いでやったとは言えなくなってきた。ここは徐々にトーンダウンしていくことにしよう。


「プラスチックが融けて滑りやすいので、電極が固定される位置が思ったより不安定ですね。電極がうまく接触しない初期不良が多発しそうです」


「問題点もそこまで把握できているなんて、すばらしい」


 ますます持ち上げられている。電極に銅線をはんだづけしてからプラスチックのパーツに差し込めるよう、あとでこっそり修正しておこう。


「さすがピコさん、工夫がお得意でいらっしゃいますわ」


 マホにも()められた。そんなに褒められると居心地が悪い。


「電極を固定するときに滑りやすいのでしたら、魔法で埋め込めばいかがかしら?」


 マホはその辺にあった失敗作に錬成魔法をかけ、あっという間に充電器を作ってしまった。電極はプラスチックと半ば融合していて完全に固定されている。なんかこれまでの苦労を一瞬で乗り越えられたみたいで悔しい!


「さすがに工場の人に魔法で作ってもらうわけにはいかないし、サイズがきっちりそろわなくて初期不良が出そうだよ。それより、マホのほうの研究はどう?」


「制約のある魔導石を作る研究は順調に進んでますわ。人を攻撃できない制約をかけることも近いうちに出来ましてよ」


「そっちのほうがすごい成果だよ!」


 リンが割って入った。


「他にもあるのじゃ。材料工学科で魔法を使って高性能の素材を作ることを試しておってのう。カーボンファイバーとプラスチックを錬成魔法で融合させることで、今までより強い炭素繊維強化プラスチックを作ることができたのじゃ」


「そっか、さっき金属とプラスチックが融合してたみたいに、違う材料同士を強くくっつけることができるんだ」


 錬成魔法を応用すれば色々面白い発明ができそうだ。


「面白いね。一度見てみたい」


「ええ、次にわたくしが材料工学科に伺うときに、ぜひピコさんもいらしてくださいませ」




 2日後、私はマホが研究しているという材料工学科の研究室を訪ねた。


 先日作ったというプラスチックを見せてくれた。セルロースナノファイバーを混ぜたエポキシ樹脂で、カーボンファイバー製の布をコーティングしてある。研究室の人たちの説明によると、マホが魔法をかけることで3つの材料がより強く結合し、元々の特長である引っ張り強度が増しただけでなく、衝撃に弱いという弱点をカバーできたという。


 私はふと気になった。複数の材料を融合させることで互いの長所を組み合わせることができるのなら、もっと色んな材料を融合させたら最強の材料ができるんじゃないかな?


 鉄筋コンクリートは、圧縮に強いコンクリートと引っ張りに強い鉄を組み合わせて、圧縮にも引っ張りにも強くしてある。炭素繊維強化プラスチックも圧縮には弱いはずだから、コンクリートのようなものを組み合わせれば……。


「ねえ、そのプラスチックに石を融合させてみない?」


「石!?」


 研究室の人たちは目が点になった。私が鉄筋コンクリートの説明をすると納得してくれた。マホはよくわからないという顔をしていたが、鉄筋コンクリートを知らないので無理もない。


「何事も試してみなければ始まりませんわね。石を探してまいりますわ」


 そう言ってマホは窓から外に飛んで行った。空を飛べるって、こういうときの行動の早さにつながるんだなあ。私も空を飛ぶ練習をもっとしておこうか。


 数分経って、マホが石を何個も抱えて戻ってきた。拾っていい場所から拾ってきたのか気になるけど、あえて気にしないでおこう。


「よし、やってみよう。プラスチックのように軽くて石のように丈夫な材料ができたら、大きなものを作るのに役立つからね」


「わかりましたわ。石よ、プラスチックよ、カーボンファイバーよ……。互いに融け合い、混ざり合って、一つになれ……」


 3つの材料がバターのように融けていき、激しく回転し始めた。やがて混ざって灰色の液体のようになり、そして1本の棒の形に固まった。


「できましたわ。完全に混ざっていましてよ」


 手に取ってみると、ずしりと重い。石の重さがそのままだ。棒の片側を机の上に置き、もう片側を手に持ち、真ん中を上から手で押してみた。


 パキッ。


 簡単に折れた。プラスチックのようにしなりもせず、石のように耐えもせず。


「全然だめじゃん! 3つのいいとこどりどころか悪いとこどりになってるじゃん!」


 研究室の人が棒を手に取ってみた。


「石とプラスチックとカーボンが本当によく混ざっているようですね。石の構造もプラスチックの構造もカーボンファイバーの構造も、内部の結合がばらばらになって本来の強さが無くなってしまったのでしょう」


 そうか、元の構造を壊しちゃだめなんだ。


「じゃあ、完全に混ぜるんじゃなくて、表面だけ融けて混じりあうようにする必要があるね」


「どのような形にするのかしら?」


「うーん、細長いパイプ型にしてみようか。まず石をストローみたいな肉薄のパイプにしてみて」


「よろしくてよ」


 マホが呪文を唱えると、石がみるみる形を変えてパイプになった。それにカーボンファイバーの布を外から巻きつけ、内側にも入れて、その上に融けたプラスチックをかけてベトベトにした。


「さあ、これをくっつけてみて」


 マホが呪文を唱えると、カーボンファイバーが徐々に動き、石のパイプを締め付けた。その周りでプラスチックがパイプ型に固まっていき、黒光りするパイプが出来上がった。


 手に取ってみると、今度は軽い。石を薄くしたことで軽量化できた。さっきと同じように曲げてみると、硬くてびくともしない。


「いい感じだよ!」


 研究室の人も手に取ってみて、満足気な表情になった。


「これがどのくらいの強さがあるのか調べてみますね」


「どうやって調べるんですか?」


「機械で力を加えてみるんです、壊れるまで。いろんな方向の力を試す必要がありますね」


「それって、このパイプがたくさん必要ってことじゃないですか!」


 完成した気になっていたけど、大変なのはここからだった。

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