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住むならこんな街 3

 和室に布団を3つ敷いて寝た。リンは布団の間に寝ることになったが、小柄なナノのそばであれば邪魔にならないと判断したようだ。


 翌朝、妙な息苦しさを感じて目が覚めた。体が圧迫されているようで起き上がれない。これが金縛り?


 肘をついてなんとか上体を起こそうともがいていると、掛け布団の上からリンの声がした。


「おお、目覚めたか、ピコよ。わらわを助けるのじゃ……」


 私の掛け布団の上にナノが寝ている。リンはナノに抱きかかえられている。起き上がれない原因はこれだったか……。


 私が横に動いて布団から()い出ると、ナノが目を覚ました。


「おー、おはようなのー。ピコもリンもあたしのそばで寝たいだなんて、甘えんぼさんなのー」


「そんなわけないのじゃー! ナノが一晩中わらわに抱き付いて動けぬし、その状態でわらわに覆いかぶさるわ、そのままピコの上まで転がっていくわ、いったいどういう寝相をしておるのじゃー!」


「ベッドよりも布団派なのー」


「ベッドでそんな寝相じゃと首の骨を折るわい」


「そんなことよりねー、聞いてほしいのー」


 ナノはリンを手放して布団の上を転がり、マホの上に乗っかった。


「なふん!」


 ナノが乗った衝撃でマホが変な声を出して目覚めた。


「……何事でして?」


「昨日話したおっきな建物の話なのー。あれ、あたしたちで実現させるのー!」


「……は?」


 起き抜けで頭があまり働いてないのだろうか。何を言いたいのかよくわからない。


「サハラ砂漠の西の端のモーリタニアにねー、400万人が暮らせる建物を建てるのー!」


 昨日は100万人って言ってたはず……。いや、そんな数字なんてどうでもいい。昨日の話に実現可能性なんてこれっぽっちも無かったよね?


「どうやって?」


「あたしたちで建設会社を作るのー」


 ますますわけがわからない。建設会社ってただの大学生が気軽に作れるものなの? そして前代未聞の超巨大建築がそんな建設会社に建てられるとでも? そのお金はどこから?


「素敵ですわね。ぜひやりましょう」


 いやいやいや。マホは全然わかってなくて言ってるよね。それがどれだけ途方もないことかって。


「マホの錬成魔法はねー、大きなものもあっという間に完成させることができるのー」


「馬車であればすぐにできましたけれども、街となると一人では手に負えませんわね」


「一人じゃないのー。建設会社を作って社員みんなに錬成魔法を教えるのー。何千人もの魔法使いで手分けして作るのー!」


「どれだけお金かかるか、わかってる?」


「それねー、ピコみたいにねー、わかる数字を使って計算してみたのー。まずねー、ドバイのあの世界一高いビルの建設費をネットで調べたらねー、1500億円なのー」


 わかる数字と言いながらネットから資料を探してる。まあさすがに建設費は調べないと見当つかないか。


「その床面積がだいたい50万平方メートルって書いてあったのー。だからねー、縦横2キロずつで100階建てだとねー、床面積が4億平方メートルでねー、120兆円なのー」


「そっか、日本の国家予算くらいの規模で建つ……って、そんなお金が手に入るかー!!」


「魔法を使うからねー、今までよりずっと少ない人数でできるはずなのー。きっと10分の1くらいのお金でできるのー」


「12兆円ならなんとか工面……できるわけないじゃん! というか、建設費って現場の作業員の人件費だけじゃないよ!」


「大丈夫なのー。会社を作って業績を上げたらお金を借りられるのー。50兆円なんてへっちゃらなのー」


 12兆円から50兆円に簡単に変更するような人に、お金を貸したい人なんているかな。


「だからねー、まず会社を作って業績を上げる必要があるのー。商品の第一弾は魔導石、第二弾はロボットなのー。たくさん売って稼ぎまくるのー! だからマホ、新しい魔導石の開発と量産をよろしくなのー」


「ええ、お任せくださいませ」


「ピコ、オートマタをもとにしたロボットの開発をよろしくなのー」


「は?」


 なんか勝手に私に仕事が与えられてる? しかも一人じゃ到底できないような無理難題が。


「あたしはねー、人脈広げてねー、人材を確保してねー、開発された技術の権利化をしてねー、商品を営業してまわるのー。それが社長の仕事なのー」


「社長?」


「あたしが社長になるのー。ピコは技術部門統括責任者なのー」


「なんで私がそんなことになってるの?」


「社長命令なのー」


「部下になった覚えはないよ」


「この前、そなたは下僕になったじゃろうに」


「なってない!」


「心配ないのー。ロボット開発の技術者はあたしが集めてくるからねー、ピコは開発方針を決めればいいのー」


 なんで勝手にそんなこと決めるのか、って事には答えてくれないようだ。


「あのおっきな建物の設計もねー、技術部門統括責任者のピコにお任せするのー」


「私、建築学科じゃないよ? 建物の設計はプロの建築士の仕事だよ?」


「それも大丈夫なのー。全体像だけ考えてくれたら細かいことはプロがやってくれるのー。建築の知識よりも全体の理念が大事なのー」


「うーん、そんなものなのかな」


「じゃ、よろしくなのー」


 私、了承するようなことは一言も言っていない。ナノの強引さには毎度うんざりさせられる。まあどうせただのお遊びだろうし、このまま様子を見てればそのうちナノも飽きるだろう……と、このときは軽い気持ちで考えていた。後から考えれば、これが人生の一大転機だったのだけれど。


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