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迷路商店街

 翌日の午前の予定は商業地区の視察。


「ここの専門店街には普通の店には無いものがそろっていると聞く」


「何か買いたいものはあるのー?」


「プラネタリウムはあるだろうか」


 なるほど、確かに日用品の店には無さそうなものだ。検索してみよう。


「ルナ、プラネタリウムを売ってるお店を探して」


「えーとねぇ……迷路商店街にある『星空屋』っていう天文グッズのお店にあるよぉ」


 迷路商店街は専門店地区の86階から90階の一角にあるショッピングモールで、500軒くらいの店が入っている。道が複雑すぎるから行くのが面倒な場所だ。


「星空屋の地図をお願い」


「迷路商店街の中の地図は無いよぉ。いろんな人にヒントをもらいながら自力で探し出すと楽しいよぉ」


「ほんとに面倒くさい街だなあもう!」


 迷路商店街の入り口まで行くと、「案内所」という部屋を見つけた。中にいるおばあさんにナノが声をかけた。


「『星空屋』ってどこなのー?」


「お前さんたち、星空屋に行きたいのかい。あそこはなかなか見つからないよ。こんな言い伝えがある」


 この辺りの開業は特に遅かったからまだ出来て1年半くらいしか経ってないのに、もう言い伝えがあるんだ。おばあさんは紙に不思議な詩を書いた。


   海原(うなばら)駆ける馬と潜りし 沼に引き込む怪物の道

   氷の渦のそのまた奥の 死者の声する階段の上

   争う獣のそばをすり抜け 黒き(いかずち)階下に見やり

   王の眠れる墓の奥底 闇に輝く星空屋


「あたしが知ってるのはこのくらいさね。見つかるといいねえ」


 何、このわざとらしいアトラクション感。


「何これ、すごく冒険しそうな感じがするしー!」


「わたくしが皆さんを守って差し上げますわ」


 これだとどの方向に進むのかもわからない。とりあえず近くの店をぐるっと巡ってみた。文房具店、ファンシーグッズ店、駄菓子屋……どこも普通で、手掛かりになりそうなものは無い。


「何だろうね。海原駆ける馬。海の馬」


「タツノオトシゴならそこのインテリア屋で売ってたしー」


「え? 何でタツノオトシゴ?」


「今ピコが自分で言ったしー」


「私は『海の馬』って……そっか、ルナが翻訳して『sea horse』になったんだ。『タツノオトシゴ』を英語で言うと『sea horse』」


「あー、翻訳したのを聞いているとわけわかんなくなるしー」


 インテリア屋に行ってみると、タツノオトシゴのデザインの壁掛けや温度計などが階段の近くに売られていた。


「『海原駆ける馬と潜りし』ってのはねー、ここの階段を降りるって事なのー」


「納得だしー! なんかアガってきたしー!」


 階段を降りた先にはやはりたくさんの店が並んでいる。次は「沼に引き込む怪物」の手がかりを探さないと。道は複雑に入り組んでいて、ちょっと先に進むと元の場所に戻るのも難しい。そのうえ店員たちがしょっちゅう声をかけてくるのでうっとうしい。10軒ほど調べると疲れてきた。ちょっと立ち止まっていると、王様が喫茶店の店員に声をかけた。


「つかぬことを聞くが、『沼に引き込む怪物』というものに心当たりがあれば申されよ」


「うーん、心当たりが無いわけでもないねえ。ちょっとお茶でも飲みながら話さないかい? 1杯30ラクドルだよ」


 なるほど、ヒントを商売にしてるんだ。上手い仕掛けだなあ。とりあえず全員でお茶を注文した。


「私の知り合いの女の子の話なんだけどね。SNSでやりとりしてる友達に、写真に写ってたぬいぐるみを『かわいいね』って言ったら、ゲームのキャラだって教えてくれたんだってさ。それでその子はそのゲームをインストールしてやってみたんだと。そのゲームにはかわいいモンスターがたくさん出てきてね、だんだん気に入ってきたわけ。それでね、そのモンスターのぬいぐるみがこの近くで売られてるってんで……ほら、これだよ」


 店員は近くにあったぬいぐるみを手に取った。


「その子はぬいぐるみを買って大切にしたんだよ。そしたらね、ぬいぐるみが一人ぼっちじゃかわいそうって思えてきてね。もう1つ買ったら、もっとたくさん仲間がいたほうが嬉しいだろうって気になって。気が付いたら部屋の中はそのゲームのぬいぐるみだらけ。沼にどっぷりはまってしまったんだってさ」


「『沼』って、それかーい!」


「なるほど。『沼に引き込む怪物』とは、そのモンスターのぬいぐるみということであるな」


 私たちはぬいぐるみの店の中を通り抜け、その先に進んだ。


 それから先は、「氷の渦」というのはソフトクリームのことだった。「死者の声」とは、歌手がもう亡くなっているような年代物のCDやレコード。「争う獣」はプロスポーツチームのファングッズだった。そりゃスポーツチームは動物の名前を付けることが多いけど。そして「黒き雷」はそれを英語にした商品名のチョコバー。だんだん謎がいいかげんになってるよ!


 そして、店の前に1メートルくらいのピラミッドのオブジェを見つけた。


「『王の眠れる墓』である」


「わかりやすいのー」


 この近くに下の階への階段があるはず。そう思って探したけど見当たらず、ピラミッドのオブジェの所に戻ってきた。


 あれ、よく見るとピラミッドの底の部分は金属の細長いパーツが組み合わさっている。これってレールかな? ちょっと押してみると、ピラミッドは簡単に横にずれて、その下から穴が現れた。穴には下に降りるはしごがある。


「あらあら。『闇に輝く星空屋』って、星空屋には(ふた)がされて真っ暗ということだったのですわね」


 はしごを降りた下にはエアマットがあり、その先には天体望遠鏡などが所狭しと並んだ薄暗い部屋があった。


「ようこそ、星空屋へ」


 店の奥から店主が声をかけてきた。


「どうして入り口を隠してあったのー?」


「隠れ家的名店さ。見つけたときにわくわくしただろう?」


「これですと、このお店の存在になかなか気づかれませんことよ」


 店主は驚いた顔をした。


「今までお客さんがめったに来なかったのって、もしかしてそのせい!?」


「それ最初に気付くべきです!」


「いや大丈夫、ピラミッドに腰掛けようとして落ちてきた人とか結構いたから!」


「余計悪いですよ! そのためのエアマットだったんですか!」


「このプラネタリウムを頂こう」


 王様が何事もなかったかのように買い物をしている。動じない人だ。


「1200ラクドルだよ」


「ここまで来るのは大変ではあったが、なかなかに楽しかったぞ。誰かに連れられて来るよりも、こうやって自分たちの力で探し出すほうがずっと楽しいものであった。そなたら良き仲間と共にここを探検したことは、忘れられぬ思い出となるであろう」


 昨日は王様を散々な目に遭わせてばっかりだったので心配してたけど、どうやらいい印象になったようだ。


「やっとあたしたちを仲間と認めてくれたのー」


「やけにフレンドリーな接待したのって、仲間と思ってほしかったからなんだ」


「そうなのー。ウォータースライダーの秘密を共有した時点でねー、あと一押しだったのー。さあ帰るのー」


 はしごを上って、考え込んだ。私たちはどっちから来たっけ? 迷路商店街を脱出するまで、何度も人に尋ねながら出口を探すことになった。そしてやっとの思いで出口に到達すると、ミラが大量の荷物を抱えていた。


「いつの間にそんなに買い物を!」


「いやー、ここの人たちみんな気さくに話しかけてくれて超楽しいしー。だからつい買っちゃうしー」


 私は店員に話しかけられるのがすごく嫌だけど、ミラは店員と話したいようだ。ソーラーキャッスルは店員がいない店が多くて、それはそれでお互いに楽なんだけど、会話を楽しみたい人は迷路商店街に集まってくるのだろう。

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