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接待 3

 食後の最初の予定はロボット工場見学。8階のロボット工場はつい最近稼働したばかりだ。アキコさんと筧さんが出迎えて詳しい説明をしてくれた。


 この工場の規模は従来の10倍以上。生産するロボットは人型のピアロイドとレイバロイドのほかにロボット車両や産業用ロボットがあり、ペットのような小型ロボットも生産予定だ。ロボットの部品の多くも工場内で作るのでコストが抑えられている。


 生産ラインではレイバロイドが単純作業をこなしていて、人間の従業員は新しい生産ラインや注文に応じたカスタマイズなど判断力が必要な作業に取り組んでいる。ピアロイドの一人一人違う顔を作るのも人間の仕事だ。王様たちは興味津々(きょうみしんしん)で見学している。


次は1階の公園を散策。様々な種類の草木が植わっている小道を通ると、たくさんの人とすれ違う。猫や(はと)もいる。


「砂漠の中でこれほど清々(すがすが)しい空間に出会えるとはな」


「住民の方々の憩いの場になっておりましてよ」


「噴水もたくさんあって実に贅沢である」


「あれは下水処理した水を蒸発させて冷やすための噴水です。冷やした水は、太陽熱発電で沸かしたお湯を冷ますのに使います」


「下水だなんておっしゃたら、清々しい雰囲気が台無しですわ」


「そうなのー、『おしっこを処理した水』って言わなきゃだめなのー」


「清々しさのかけらも無いよ!」


「ぶふっ!」


 鈴木はずっと王様の背後に障壁を張っているので後ろを見ながら歩いているけど、笑った拍子(ひょうし)に他の人と足が引っかかって転び、王様のほうに倒れてしまった。すかさず王様の護衛たちが鈴木に銃を突きつけた!


「貴様、今何をしようとした!」


「ごめんなさい! 転んだだけです!」


 鈴木が倒れたまま涙目になっておびえているのを見て無害だと判断したのか、護衛たちは鈴木を解放した。やはり護衛たちは私たちを警戒しているようで、うかつなことをすれば命にかかわる。


 次に16階のクラブ活動の部屋を巡った。魔法武闘の練習場ではパトリックさんが出迎えて、マホと一緒に魔法武闘を紹介した。パトリックさんはここで30人ほどの魔法闘士たちに指導をしている。毎週闘技場で開催される試合はいつも盛況だ。マホも時々試合に出場している。


「どれ、余も少しやってみたいものだ」


「あたしが相手してあげるのー」


「よろしゅうございましてよ。陛下、全力で殴りかかってごらんなさいまし」


「かように小柄な女性を殴るなど気が引けるのだが……どれ」


 王様は少し手加減した様子でナノにパンチをした。ナノはパンチを払いのけつつ、カウンターで王様を突き飛ばした! 王様は10メートルほど吹っ飛んで倒れた。


「やりすぎだよ! 魔導石を持ってもいない相手に!」


「軽く押したつもりだったのー!」


 私たちが飛んで駆けつけると、王様は白目をむいて気絶していた。急いで治癒魔法をかけてみる。護衛たちがこっちに向かって走っている。まだ目を覚まさない。


「まずいよ、私たちが敵だと思われちゃう」


 ナノが念動魔法で王様を立ち上がらせた。立ってるけど白目むいたままだよ!


「陛下、お怪我(けが)はございませんか!?」


 駆けつけた護衛がそう尋ねると、ナノが念動魔法で王様をうなずかせた。


「平気そうなのー」


「しかしどこかを痛めておいでかもしれません、一旦この者たちから離れてあちらのベンチで……」


 ナノが王様の首を振らせた。


「このままでよろしいのですか?」


 またうなずかせた。そうしているうちにメカマホたち報道陣もやってきた。


「陛下、魔法強化パンチを実際に受けてみて、どないでしたか?」


 今度は両手を広げて肩をすくめ、ジェスチャーで何でもないとアピールした。


「さすが陛下、このくらいへっちゃらっちゅうことですね」


 王様はようやく意識を取り戻した。きょろきょろと周りを見回しているけど、そりゃ状況がわからなくて混乱するだろう。


 その後は20階から26階のお店を少しずつ見て回った。居住地区にあるお店は食品や生活必需品が中心なので、その多くは無料で持ち帰ることが出来る。そのぶん庶民的な品ぞろえになっているので珍しいものは少ないんだけど、王様にとっては新鮮な光景かもしれない。


 それから29階の展覧会や宗教施設にも立ち寄った。その一角にマホがデザインした小さな礼拝堂がある。


「ここはわたくしがお世話になった転生神様の礼拝堂ですわ。どちらの宗教にもいらっしゃらなかったので、わたくしが新しい宗教として始めましてよ」


 マホを転生させた女神は結局「転生神」と呼ぶことになった。他の宗教と似ているようで微妙に違う祭壇がある。


「ここは死後に異世界に転生することを願ってお祈りする場でしてよ。信者の方々は自分で物語をお書きになってここに奉納なさるのですわ」


 祭壇の横にノートや紙の束が積まれている。マホがその中の1冊のノートを手に取った。表紙に「血の聖典」と書かれている。あれ、なんか見覚えがあるぞ。


「どれ、余に見せてみよ」


 マホがノートを王様に手渡す寸前、鈴木がものすごい勢いでノートを奪い取った! 思い出した、鈴木が妄想を書いてたノートだ。


「この聖典を常人が開いてはならぬ。封印が解かれれば呪いによって正気を失うであろう」


「あらあら、わたくしは呪いに気付きませんでしたわ。陛下、危険な目に遭わせてしまい申し訳ありませんわ」


「うむ、そなたが護ってくれて助かった」


 ノートを開くと正気を失うのは鈴木だよね、恥ずかしさで。


 それから46階に行った。ここは本来は予備スペースなんだけど、誰かが鉄道模型ジオラマを置いたところ、他の人がジオラマを持ち寄りだして、ジオラマ展示場として人気スポットになってしまった。いろんな建物や自然のミニチュアに生活感があって楽しい。


「民が遊びで作ったものがここまで大きくなるものであるか」


「これを見たみんなが面白いと感じたら、作った人の貢献レベルが上がるしー。どんどん貢献レベルが上がるようになったら、それってもう遊びじゃなくて仕事と言っていいっしょ」


 その次は100階のスポーツ公園に行き、居住地区の端まで行った。


 窓から遠くの景色がよく見える。ここから500メートルは工業地区が続いていて、その最上階にある畑が整然と並んでいるのが見える。そこから5キロ先までは公園の緑。その先はずっと遠くまで鏡がびっしりと並んで銀色だ。


「ほお、これは壮観であるな」


「鏡エリアは20キロくらい先まで続いています。今は8割ほどが完成しています。ほとんどは太陽熱発電に使いますけど、一部の鏡は魔導石のエネルギーを貯めるのに使い、工事のエネルギー源にしています」


「今は夏であるから太陽熱発電はフル稼働であろう」


「そうですね、たくさん発電して余った電気で水素やアンモニアを作って、夜間や冬に火力発電するために蓄えています。それでも余った水素やアンモニアを輸出して外貨を稼いでいます」


 その後は動く歩道を通って商業地区に移動して、専門店や遊園地などをちょっとずつ見て回った。

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