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もみーは綿固まり病

 


 ふわふわの毛並み。

 シミひとつない真っ白な毛皮。

 柔らかな抱き心地。

 首元には赤いリボンが縫い付けられた無垢なこぐまのぬいぐるみ。


 そんな時もありましたさ。

けっ、くまのモミーはやさぐれた。


 モミーがサンタさんからこの家に派遣されたのは14年前。

 この家の長女、柚ちゃんが産まれて初めてのクリスマスの時だった。


 綺麗にラッピングされて初めて出来るお友達に胸を踊らせていたくまのモミーに現実は厳しかった。

 産まれたての柚ちゃんは、ふにゃふにゃと可愛らしくモミーをじっと眺めた。

 そして、ヨダレでベッタベタのちいさなおててを伸ばしおもむろにモミーの耳を掴んだ。


 え?


 ヨダレでベッタベタ。モミーのご自慢の毛皮が汚れちゃうよ。

 それに耳は持つとこじゃないよ。


 ん?


 柚ちゃんは、モミーの耳をハムハムと口に入れ始めた。

 そしておもむろに吸い付いた。


 柚ちゃん、モミーのお耳からはミルクは出ないよ。

お耳がヨダレでベタベタする。

 やめてくれよ。


 しかし、モミーの悲劇はそれで終わらなかった。


 ミルクが出ない事に怒り狂った柚ちゃんがモミーをぼこぼこ殴る。

 そして新生児とは思えない強烈な脚力でもみーをベビーベットから蹴り出しギャン泣きし始めたのだ。



 柚ちゃん、お前産まれたてだよな。

 首もすわってないのにどこにそんな力あるんだよ。



 たった数分で、もみーは現実の厳しさを思い知ったのだった。


 それから14年。ぬいぐるみにしてはかなり長寿なもみーは色々苦労もありました。

 柚ちゃんの下にふたりのやんちゃな妹弟が生まれ、三人の子供達のお世話に新入り達の教育にと多忙な毎日。


 もみーは薄汚れで真っ白だった毛皮はシミが所々ついて傷んだ桃のような残念な外見に。そして中身の綿はだいぶ固まってしまった。


「ママ、もみーって汚れてて傷んだ桃みたいだよね。」


 なんと?柚ちゃん、聞き捨てなりませんぞ。


「こっそり新しいのと入れ替える?あれ、なんか綺麗になったね、みたいな。皆気付かないと思うんだけど。」


 ママさん、あんた。なんという非情なことを…。

 ぬいぐるみ界最大の不祥事に手を染めるつもりですか?

 もみーは許しませんぞ。そんなこと考えてるなら次のクリスマスでサンタさんの元に帰りますからね。


「ママ、なんてことを。」


「もみーの耳の汚れは、柚ちゃんが、赤ちゃんの時のヨダレだからね。」


「えぇー、そうなの?」


 そうなんです、柚ちゃん。


 柚ちゃんがもみーのヨダレの跡にそうっと触れました。


 ある日。


「もみー、お風呂だよ。」


 もみーは生まれてこのかたものぐさなママさんのせいで一度もお風呂に入ったことなどないのです。


 もみーは、洗面所に張られた最高の湯加減のお風呂に入りました。


 初めて会った時、ふにゃふにゃの赤ちゃんだった柚ちゃんがもみーを丁寧に洗ってくれている。


 もみーのつぶらな瞳に水滴が溢れました。


「もみー、気持ちいい?」


 柚ちゃんが優しく笑いかけてくれます。

 長い歳月が走馬灯のように蘇ります。もみーは世界一幸せなぬいぐるみかもしれません。

 柚ちゃん、ありがとう。


 初めてこの家に来たときのように真っ白に生まれ変わったもみーは幸せでした。



 さっきまでは…。


 ママさんひどい、この寒空にもみーを干すおつもりですか?

 お湯でゆったり温まった身体に冷気が身に染みますぞ。


 うらんでやるー。


 はらわたが煮えくり返るって、こういうことなのかな。


「ママー。もみー寒そうだよ。中にいれてあげようよ。」


「もみーは、一週間お外で干して完璧に綿をかわかしましょうね。」


「ママー。もみー、なんか悲しそうだよ。」


「もみーは、綺麗になって嬉しいのよ。ほら、ぴかぴかでしょ。新年は、綺麗なもみーとお祝いできるわね。」


 ママさん、あんた人でなしですな。


 来年こそはサンタさんのところに帰ってやると誓うもみーなのでした。

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