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第9話 魔王さまの手下はスリルがいっぱい。

 ノルラ、ノルラ、リゼ、リゼ、リゼ。

 ノルラ、ノルラ、リゼ、リゼ、リゼ。

 ノルゼ、ノルゼ、リゼ、リゼ、リゼ……あ、違った。ノルラとリゼだ。


 心のなかで呪文のように唱えながら、書棚を指さしていく。

 探しているのは、ノルラとリゼの報告書。

 

 ――ノルラとリゼの街に関する報告書をすべて集めよ。


 っていう将軍からの命令。

 先日、財務の書記官さんから税収に関する報告をもらったけど、将軍は、それだけでは満足しないらしい。

 政務、財務、命令指示書、嘆願書。

 あらゆる報告書を探し出すように、わたしとエイナルさんに指示を出した。もちろん、将軍も自ら参加して探してるけど。


 (多すぎだよ、こんなの~)


 王宮の書庫。

 直近の報告書などはそれぞれの担当部署が持っていたりするけど、そうでないものはすべて書庫に集められて保管されている。もちろん、その種類別にわけて収蔵されているけど、まあ、国中の公式書類が集まれば、その数も膨大すぎるわけで。

 そこから、「ノルラとリゼの街」に関わるものを探し出すだけでも……途方もない仕事量となる。

 それも、そこに仕舞いに行った人なら、「ああ、あれならあそこに片付けましたよ~」とか言えるんだろうけど、ズブの素人、それも初めて書庫に入るような人になると……。


 (もう、お手上げなんだってば!!)


 とにかく、端から順に、「ノルラ」、「リゼ」って背表紙に書いてあるものを見つけていくしかない。

 今のところ、一昨年のノルラの気象観測報告と、十年前のリゼの鉱山での事故報告しか見つけられていない。

 というか、「ノルラ、リゼ」と探し続けて、目がどうにかなりそう。


 (こういうの、片付けるっていうのなら、もう少しまとめて置いといてよね)


 気象観測報告とか、税務報告とか。分野はある程度分けてあるみたいだけど、それ以上の工夫がされてない。二つの街を含む、ノーザリア地方全体の報告書はここ!!みたいな分類はないので、南方の街の報告書の間に、こそっと挟まってたりすることもある。


 (ここを管理する人に、整理整頓の技術を教えてやりたいわ)


 そしたら、こんなに苦労することないのに。

 一つ一つ背表紙に書いてある文字を読んで探していくのって、すっごく骨の折れる仕事なんだからね!! 仕事の効率化を図らないなんて、どうかしてるわ!!


 「――見つかったか?」


 書棚の上の方を探していたわたしにかかった声。将軍だ。


 「えーっと。あそこに『ノルラ』って文字が見えるんですが……」


 大股で近づいてきた将軍に、途中経過を報告する。書棚の上のほう、チラリと見えた『ノルラ』の文字。人口調査に関する書類が多く仕舞われてる場所だから、多分、そういう関係の書類だろうけど。


 (う~~んっ、と、届かないっ!!)


 ピョンピョン飛んで見るんだけど、手がっ、手が届かないっ!!


 「――ほれ。これでいいか?」


 スッと脇から伸ばされた手。ゴツゴツした将軍の手。その手がアッサリと目的の物をとてくれた。

 

 「あ、ありがとうございます」


 なんか、ちょっと悔しい。おのれ長身魔王め。どうせ、わたしはチビですよーだ。フン。

 

 「だが、それ、『ノルラ』じゃなくて『モルレ』だぞ」


 あ。

 手にした報告書を見直す。ホントだ。「ル」しか合ってない。ついでに言えば、モルレは、南方にある街。ノルラとは真逆の方向。


 「ノルラの報告書は――これだな」


 ツツッと将軍の指が背表紙を伝って、目当てのものを見つけ出す。うう。その瞬殺発見、スゴすぎる。

 

 「ノルラ鉱山の採石量の報告書か」 

 

 手にした報告書をペラペラと読み始める将軍。

 書庫は、保管保存という性格上、日の当たりにくい王宮の北側に設置されている。窓も明り取りになる程度しかなくって、ちょっとかび臭くて薄暗いんだけど。


 (うわあ、絵になる~)


 書棚の前、真剣な顔つきで書類を見つめる将軍。窓から差し込む光が、将軍の顔に深い陰影を作り出して、整った顔立ちであることを強調していて。キリッとした眉とか、スッと伸びた鼻筋とか。わわっ、唇もきれいな形してるっ!! 無駄な肉がないのも、こうして見てるとハッキリわかるし。黒髪も、あれ? ちょっとクセが入ってるのかな。触ってみたら意外と柔らかいかも……!?


 「おい」


 へ!?


 「何をジロジロ見ている。サッサと次のを探さないか」


 「あ、ああああ、そっ、そうですねっ!! はいっ!!」


 シマッタ。

 完全に見惚れてた。

 だって、黙っていれば将軍ってカッコいいんだもん。整いすぎた顔の人は、そうじゃない人と比べて、黙っちゃうとより怖くなっちゃうだけなんだもん。

 わたしみたいなチビブスが黙っても、存在感無くしてハイ終わりってかんじだけど、美形はそうはいかないのよね。「な、なんか怒ってるんすか?」って、下手にでてお伺いを立てたくなっちゃう。それほどの迫力がでちゃうのが美形ってもんなのよ。

 もしこれで、将軍がニッコリ笑ったり、甘々台詞を吐いたりしたら……。おそらく、アルディンさまと競えるぐらい、取り巻き女子が増えると思う。


 (ま、それをしない、できないのが将軍なんだけどねえ)


 長所というか短所というか。

 できることなら、その「怖い」だけは軽減させてほしいけど。

 そんなことを考えながら、次の報告書を探す。ノルラ鉱山の報告書が見つかったってことは、この周辺にも似たようなものが混ざってないかな~。

 次は、将軍の手を借りたくないし、できれば自分で見つけたい。


 (あっ……!!)


 ちょうどいいところに梯子を見つける。

 書棚は天井スレスレまで報告書が収蔵されてる。さすがの長身魔王でも届かないような高さのそこは、梯子に登って探すのが一番だ。下からピョンピョン跳ねながら背表紙を確認するより、間近で一個一個確認したほうが間違いないし。


 (よっ……と。重いな、これ)


 書棚の手前に渡された棒。その棒に引っ掛けて使う仕様の梯子なんだけど、すごく重い。移動させるの、ちょっと、たいへ……ん。


 「おいっ!!」

 

 将軍が叫ぶ。

 同時にわたしの頭上が暗くなった。


 「えっ!? きゃあああぁっ!!」

 「――――クッ!!」


 視界が回る。

 掴みかかられ、大きく身体を揺さぶられる。

 叫びながら閉じた目に、一瞬映ったのは、自分の上に雪崩れるように降り掛かってきた大量の報告書。そして、わたしに飛びついてきた将軍の身体。

 ドカドカとなにかが叩きつけてくるような衝撃。音。

 

 「――将軍っ!! ミリアッ!!」


 硬く身体をこわばらせていたわたしに、エイナルさんの声が届く。

 恐る恐る開けた目に飛び込んできたのは、薄暗くほこりっぽい世界。

 それと。


 「――無事か?」


 「将軍っ!!」


 わたしを守るように覆いかぶさる将軍の姿。


 「……クッ」


 その身体がグラリと揺らぐ。目の焦点が合わない。こんなに近くにいるのに。


 「将軍っ!!」


 その身体がグラリと揺れて崩れ落ちた。



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