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死神  作者: 裃白沙
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それは厄年にすぎぬのか

 問題のその日は終業式の翌日で、例年ならもう梅雨も明けて夏本番といきたいところなのだが今年は違った。雨こそ降らなかったが終日どんよりと暗い雲が広がり、蒸し暑いことこの上ない日であった。

 イベントが始まる前に紗綾は久根別希々佳の家に招かれた。希々佳の家は正確には彼女の祖父、大造のもので、彼女は学校に通うためここに下宿しているそうだ。まず紗綾のことを祖父に紹介したいのだというが、紗綾としても彼女の祖父がどういった人間であるかを知りたかったから、まことに好都合であった。

 久根別希々佳の祖父、大造は髪を灰色に染めた初老の紳士であった。ヒゲを丁寧に整えた姿はその人物のプライドの高さと気品の高さを強く感じさせた。

「あなたが瓦木さんですか。話は希々佳からうかがっております」

 紗綾が頭を下げると、大造はチラと希々佳の方を向いてにっと笑った。その外見とは裏腹に、なかなか人懐こい笑みを浮かべる老人である。

「こう来ていただいたところ申し上げにくいのですが、私自身は何も心配はしていないのですよ。もちろん、可愛い孫娘の心配もわかります。そのためにも私がもっとしっかりしないといけないのですが」

 大造はそこまでいうと、コーヒーカップを紗綾にすすめ、自分もカップに口をつけた。

「いかんせん、厄年には敵わぬようでしてな。厄年というのは統計的にも良くないことが重なりやすい年だそうです。私の家は仏教ですから、仏にすがろうと、そういうわけですな。だから、希々佳、心配は不要なのだよ。お釈迦様だろうとお天道様だろうと、よぉく見ておる。希々佳も、じいじが悪いことしているのは見たことないだろう?」

 希々佳はプイとそっぽを向いたきりである。急に子ども扱いされたのが気に食わなかったのだろうか。

「もちろん、今回のことはスタッフも重々承知ですよ。なんたって、生前葬はこれからの一大ビジネスになりますからな。ここで何かあっては事業に差し障りが出てしまう。失敗は許されんのです」

 希々佳が紗綾の顔を見た。この健気な孫娘は、それだからこそこのイベントを懸念しているのではないだろうか。もしここで、祖父の身に何も無かったとしても、なんらかの失敗が起これば社長である大造の責任になるのだ。

「しかし、希々佳がここまで心配してくれて、瓦木さんにお話がいったのも何かのご縁でしょう。ぜひ希々佳のそばにいて、安心させてあげてください。私も私で、希々佳に心配をかけないよう尽くしますから」

 結局希々佳の心配は大造には杞憂にしか思えなかったようで、紗綾についても希々佳の安心のため仕方がなく認めているという風であった。探偵ごっこ、おままごと程度にしが思っていなかったのだろう。しかし、もしこの後に降りかかる災厄を、今、前もって知らされていたなら、大造は藁にもすがっていただろうし、紗綾への態度ももう少し変わっていたかもしれない。

 そんなことはつゆ知らず、三人は迎えにやってきた副社長、川崎哲夫の車で会場へと向かった。その車中でも二人は今回のイベントの画期性について長々と聞かされた。孤独死が多くある今の世で、せめて生前に自分監修の葬儀を行い、余生を安らかに過ごすこと、自ら資金を用意し少しでも残された家族の負担を減らすことがいかに重要であるか説かれたのだが、まだ二十歳にもならない二人にはその重要性がよく呑み込めなかった。



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