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蛇足
私はこの話を聞き終えて慄然とした。もしあの時祖母が契約を結んでいたら……。ひょっとして、あの日の葬列は彼の手によるものだったのでは……。様々な想像が私の頭の中を駆け巡った。私は落ち着こうとしてコーヒーを飲み干した。
「ときに先生、グリム童話に『死神の名付け親』という話があるのをご存知ですか? そこに出てくる男は自分の利益のために『死神』を利用して、人の寿命を弄び、最後には『死神』に命を取られてしまうんです。『死神』の手を取り、己の地位を築こうとした大河原も獄中で自ら果ててしまったと聞きます。『死神』にとり殺されてしまった、と。こう書けば、まだ詩情はあるかもしれませんけどね」
紗綾は子供のようにそこまで一息に語ると、フッと息をつき、私のいれたコーヒーに口をつけた。それを舌の上で転がしきると、ちょっぴり寂しそうに俯いて、こう結んだ。
「しかし、この場合『死神』とは何だったんでしょうね。彼を追いやった環境か、人々か。目に見えない期待か、圧力か。そう考えると、案外私たちのすぐそばにも『死神』がひそんでいるのかもしれませんね」