第9話 お忍びで街に行こう 後編
キリがいいので短めです。
私たちは雑貨屋さんのあと、本屋さんと食器屋さんを回ることにした。
本屋さんは前世でも好きだった。この紙の独特の匂いが好き。この世界の本屋さんはそんなに大きくないので店舗によって置いている本が異なる。図鑑系が好きな店主なら図鑑が多くなるし、恋愛小説が好きなら恋愛小説が多いといった風だ。
このチョコレイの街の本屋さんはレシピ本と恋愛小説だった。私は恋愛小説コーナーに入り浸り数冊を手に取った。店主に聞くと人気があるのは身分差の恋とか歳の差の恋らしい。障害がある方が燃えるというけど、実際に乗り越えるのは大変だよなぁと思いつつ、ついついオススメされたものも手に取ってしまう。
ルーカス様はというとレシピ本のコーナーでサンダール王国の郷土料理のレシピ本とお菓子のレシピ本を手に取っていた。宿の料理で気に入ったものでもあったのだろうか?自国に戻ってから料理人に作ってもらうのかな。
そうだ。ルーカス様は探しものが見つかれば自国に戻ってしまうのか……いや、それは仕方がないこと。見つかってもらわないと大変なことになるし。ルーカス様はリンガール王国の王子様だもんね。いずれはリンガール王国の王様になるかもしれないもの。オススメされた恋愛小説じゃないけど、本当は一緒にお出かけなんか出来ないくらいに身分の差が私たちにはある。最近、ルーカス様のことを考えるとこんな考えばかり。どうしてしまったのかな。
私は顔をぶんぶん振り、気を取り直して買い物を続けた。
「ハルトはどんな本を買うの?」
「僕は恋愛小説というタイプじゃないから、レシピ本を見てたよ。リンガール王国にない料理も美味しかったからね。アメリは恋愛小説かな?今は障害を乗り越えて結ばれるのが流行っているみたいだからね。興味深いよね」
ルーカス様、さっきの話が聞こえていたのかな?
次は食器屋さんだ。私はアンティークの食器が前世からずっと大好きだ。華奢なキラキラ系じゃなく質感派と言うのかな?前世でもしっとりとした肌触りの厚めのアンティークの食器ブランドにハマってずいぶんと集めていた。
生まれ変わってもこの好みは変わることがなく、やはり収集してしまう。この世界でも同じような質感の食器のブランドがあるのがいけない。
このブランドは世界的なものなので輸入品として入ってくるときがあるから食器はいつもチェックを欠かさない。おかげでコレクションは充実している。
「これは今まで見たことのない形だわ。素敵!このしっとりした感じがたまらないわ!」
私はエメラルド色のサラダボウルをウットリと見つめていた。
「アメリはこういうのが好きなんだね。前世でも見たことのある感じだね」
「そうなの!前世でもこのしっとりした質感のアンティークブランドの食器を集めていたの。今もこういう食器は大好きで集め続けてるの。ハルトも変わらない好みのものはある?」
「うーん。好きなゲームとかはこの世界にはないからね〜。服もあまりこの世界向きじゃないし」
「確かにそうよね。ハルトがゲームとか服を作ってみたら?」
「ゲームはハードを作るのが大変だよ。公務もあるし僕一人ではとっても無理だから、誰かが作ってくれるのを待つ!開発には出資します!誰か作って〜!ハハハ!服もアメリのを少し手伝うくらいで十分だよ」
ルーカス様は楽しそうに笑っていた。
本屋さんと食器屋さんでいくつか買い物をしたが持ち歩くにはかさばるものだったので、後日ルーカス様の護衛たちに取りにきてもらうことにしたので私たちは身軽なままだ。
「アメリ、あそこで食べない?懐かしいな。僕の国では見かけないんだよ」
ルーカス様はオープンテラスになっている店を指さした。食事をしている人たちが食べているのはハンバーガーのようなものだった。
「ポテトもあれば完璧に再現なのにね〜」
私たちはそれぞれハンバーガーと飲み物を買い席に座った。
「じゃーん!私は〈てり○きバーガー〉のようなハンバーグにタレの付いたバーガー!お野菜もたっぷりです!」
バーガーをルーカス様に見せつけた。
「僕は〈チーズバーガー〉だけど、やたらチーズが厚いバーガー!僕の口はそこまで開くでしょうか?」
ルーカス様は大きな口を開けておどけてみせる。
二人でバーガーを紹介しあってゲラゲラと笑いあった。
前世で学校帰りに友達と寄り道した感じが懐かしかった。
味は似ても似つかないけど、甘辛いタレはこれはこれで美味しい。
「アメリ、付いてるよ」
ルーカス様は私の唇の端にスッと親指を滑らせた。
そして、その指をペロリと舐めた。
「甘辛いタレも美味しいね」
あま、あま、あま〜い!!ルーカス様、スキンシップ多すぎ!
「ルーカス様っ……」
「ハルトでしょ?」
ルーカス様は首を傾げながら人差し指で私の口を塞いだ。
ええっ!!!
ルーカス様?どうした??
私はきっと固まっていると思う。動けない。
「おーい!アメリ?」
私を固めた犯人が目の前で手を振っている。
「ハルト!ちょっとこんなに人がいるところで何をやってるの?!恥ずかしい!」
「じゃあ、誰もいないところならいいの?」
また首を傾げるルーカス様。
「もう!!そうじゃなくて、その、あの!」
「ゴメン!ゴメン!ちょっとやり過ぎた(笑)」
「ハルトはふざけ過ぎ!もう!」
私は頬をぷぅっと膨らませて、怒ってますアピールをここぞとばかりにやった。
「君にしかしないけどね……」
何かルーカス様が言ってるけど聞こえない。
「ハルト、何か言った?」
「そうだ!ランチのあとに行くところは決めているんだ。少し歩くけど一緒に来てくれるかな?」
まだふざけ過ぎたルーカス様に怒る気持ちはあるけど、嫌じゃなかったし……せっかくのお出かけをこれで終わらせるのももったいないよね!またいつこんな機会があるかわからないし。意地を張ってもあとで後悔するだけ!うん!
「……わかった。ふざけるのはもうなしだよ?」
「うん、わかった。そろそろ大丈夫かな?」
「大丈夫!お腹いっぱいになったし、少し運動したいと思っていたところ」
私たちはバーガーを食べて席を立った。
そこへノア様が現れた。
私に軽く会釈をしてルーカス様の耳元で何か何か話している。それを聞くルーカス様は真剣な表情だ。公務の話だろうか?
ノア様が立ち去るとルーカス様は私の手を引き歩き始めた。ルーカス様の真剣な表情に〈手を離して。恥ずかしい。〉なんて言えることもなく、大人しくルーカス様についていく。
どこに行くのだろう?